「Excelで気軽に化学工学」が本になりました


化学工学誌の連載が,化学工学会編,伊東 章・上江洲一也著で丸善から出版となりました。(2006.12)

(画像は丸善へのリンクです)

全例題のExcelファイル,および自習・演習用にデータと式のみ示したテンプレートファイルが丸善HPよりダウンロードできます。

各章の内容と,例題をご紹介します。

1.技術計算のためのExcelのツール

「化工計算」を方程式解法という観点からみればそれほど種類は多くないことを強調し,方程式の種類毎にExcel上で解くための道具を解説した。 1変数の非線形方程式にはゴールシーク,連立方程式および最適化(最小2乗法)にはソルバーを使う。連立常微分方程式については,セル座標で記述する形式の「微分方程式解法シート」を提供し,以降これを活用する。

「ゴールシーク」機能の出し方:
Excel 2003:[ツール(T)]→[ゴールシーク(G)]
Excel 2007: [データ]→[データツール]→[What-If分析]→[ゴールシーク(G)]
「ソルバー 」機能の出し方:
Excel 2003: [ツール(T)]→[アドイン(I)]→[■ソルバーアドイン] の指定で[ツ ール]メニューに導入される。
Excel 2007: [officeボタン](左上の丸いボタン)→[Excelのオプション]→ [アドイン]→[設定]→[■ソルバーアドイン]で導入される。 [データ]→[分析]→[ソルバー] で出す。

特報:「微分方程式解法シート」が精度を改良した,Runge-Kutta改良版(日大 吉川先生制作)と ,Runge-Kutta-Fehlberg法(RKF45)版(ゴッ ドフット企画制作)になりました。丸善HPに掲載しました。(下の【例題11.4】境界層方程式にサンプルがあります。) 
参考>Excelで簡単!微分方程式

【例題1.1】沸点計算
【例題1.2】連立方程式
【例題1.3】データの数値積分
【例題1.4】破過曲線の数値積分
【例題1.5】生態系のモデル ロトカ−ヴォルテラの競争方程式<LV-model_temp.xls>

Excel Tips    常微分方程式解法のExcelアドイン

 連立方程式を解くためのソルバーのように,プログラミングなしで微分方程式が解けるExcelアドインを待望していましたが,ようやく登場しました。

 「常微分方程式解法のためのExcelアドイン”ODE_Solver”」(米国・Polymath Software社,価格$49)です。中身はVBAのようですが,使用法は図のようにExcelシート上で正規形の連立常微分方程式を記述し,そのセルを指定するだけです。このコンセプトは本書の「微分方程式解法シート」と全く同じですので,本書での例題解法シートはほぼそのまま”ODE_Solver”で再計算することができます。(セルの並びを列に変更する必要があります。)

このアドインは専門の数値計算ソフトなので,計算精度も良く,図で示した例題14.4(<rxn4.xls>)では,区間40分割,t =10で,CA+CR+CS=1.000 と,理論値になっています。驚くべき高精度さです。計算法は可変刻み幅のRunge-Kutta-Fehlberg法を用いているとのことです。これに対して固定刻みRunge-Kutta法の「微分方程式解法シート」では,誤差を生じます。(CA+CR+CS=0.971 )

実務の技術計算にはこの”ODE_Solver”が推奨されます。この微分方程式解法アドインにより,Excel上の技術計算の道具が揃ったことになります。

 (ただ,計算結果がその都度新しいシートに出力されるので,シミュレーション結果のグラフ表示に手間がかかる点は残念です。)

2.蒸留

2成分系の気液平衡計算をおこなう例を示した。また,2成分系蒸留の計算を非線形連立方程式の問題として,ソルバーでの解法を示した。

【例題2.1】2成分系溶液の沸点計算
【例題2.2】2成分系の気液平衡図
【例題2.3】気液平衡データの相関
【例題2.4】単蒸留の蒸留曲線
【例題2.5】フラッシュ蒸留
【例題2.6】精留(4段)
【例題2.7】精留(8段)

3.抽出

抽出プロセス計算を液ー液平衡と物質収支による連立方程式の問題と設定することにより,ソルバーで解く方法を示した。これにて「図式解法によらない化工計算」をほぼ全て示すことができた。

【例題3.1】連続単抽出
【例題3.2】向流多段抽出

4.吸収

微分方程式を直接解くことによるガス吸収塔の設計計算法を示した。

【例題4.1】ガスの溶解度式の相関
【例題4.2】吸収塔の高さ


【例題4.3】総括移動単位数

5.ガス系の膜分離操作

ガス分離膜モジュールの各種モデルを示し,各々常微分方程式解法の問題として計算法を示した。

【例題5.1】風船が浮いている時間
【例題5.2】完全混合モデル
【例題5.3】プラグフロー−完全混合モデル


【例題5.4】両側プラグフローモデル
【例題5.5】4成分系両側プラグフローモデル
【例題5.6】パーベーパレーション操作のモデル

6.液系の膜分離

逆浸透など膜濾過操作の基礎透過モデル,および簡単なプロセスのモデル解法を示した。

【例題6.1】Ruth式のパラメータ推定
【例題6.2】Ruthの濾過方程式
【例題6.3】クロスフロー濾過


【例題6.4】限外濾過の浸透圧モデル
【例題6.5】流速変化法
【例題6.6】回分式濃縮操作
【例題6.7】逆浸透の連続濃縮操作
【例題6.8】限外濾過の連続濃縮操作

7.吸着・クロマトグラフィー

クロマトグラフィーでは理論段モデルを紹介し,クロマト分離の原理が理解できるようにした。

【例題7.1】吸着等温線
【例題7.2】固定層吸着の破過曲線
【例題7.3】クロマトグラフィーの理論段モデル

8.調湿

「湿度図表」によらない調湿計算を試みた。(かえって難しくなっているかもしれない。)

【例題8.1】湿球温度・露点温度
【例題8.2】空気の調湿


【例題8.3】断熱増湿装置

9.乾燥

シミュレーションに近い乾燥の例題を解いた。

【例題9.1】板状材料の熱風伝導乾燥
【例題9.2】水滴の蒸発時間


【例題9.3】材料内拡散支配の乾燥(減率乾燥)

10.粒子系操作・晶析

粒子径分布の計算はExcelが最も得意とする類の計算である。

【例題10.1】粒子径分布の諸計算


【例題10.2】Rosin-Rammler式
【例題10.3】正規分布
【例題10.4】粒度分布関数


【例題10.5】スラリーの沈降速度
【例題10.6】完全混合槽型晶析装置(ポピュレーションバランスモデル)

11.プロセス流体工学

境界層方程式をExcelで解く方法を示した。

【例題11.1】ポンプ輸送の動力
【例題11.2】コーナータップオリフィスの設計
【例題11.3】粒子の飛跡
【例題11.4】境界層方程式<fluid4.xls>

 

12.装置内の混合モデル

普通の教科書にはない単元だが,各操作に関連するので独立させた。いずれは「モデル化の手法」こそ化学工学の中心としたいものである。

【例題12.1】混合拡散モデル
【例題12.2】槽列モデル


【例題12.3】槽列モデルのパラメータ

13. 伝熱

非定常伝熱問題から熱交換器,多重効用蒸発までとりあげた。
参考> Excelによる伝熱工学 

【例題13.1】円管の保温
【例題13.2】非定常1次元伝導伝熱(板状材料の冷却)
【例題13.3】2次元定常温度分布
【例題13.4】温度境界層方程式
【例題13.5】複合伝熱
【例題13.6】自然対流による冷却


【例題13.7】熱交換器の性能
【例題13.8】熱交換器システムの性能
【例題13.9】多重効用蒸発


【例題13.10】周期変化の熱応答
【例題13.12】加熱・冷却槽の温度制御

14. 反応工学

反応工学は微分方程式の問題が多いが,Excelでも簡単に取り扱えることを示した。

【例題14.1】アンンモニアの平衡転化率


【例題14.2】n次反応の反応次数
【例題14.3】Michaelis-Menten式による相関


【例題14.4】逐次反応


【例題14.5】反応熱・反応速度を考慮した回分反応操作の解析
【例題14.6】連続撹拌槽型反応器
【例題14.7】CSTRの制御
【例題14.8】液相押し出し流れ反応操作
【例題14.9】触媒反応層の温度分布(1)


【例題14.10】触媒反応層の温度分布(2)

15. 制御

微分方程式を直接解く方法(時間領域)での制御系の問題解法を試みている。
参考> Excelによる動特性と制御 



【例題15.1】1次遅れ系のステップ応答
【例題15.2】2次遅れ系のステップ応答


【例題15.3】1次遅れ・比例制御系の応答
【例題15.4】2次遅れ・比例制御系の応答
【例題15.5】1次遅れ・比例・積分制御系の応答
【例題15.6】2次遅れ・比例・積分制御系の応答


【例題15.7】2次遅れ・PID制御系の応答

16.総合問題

反応と分離を組み合わせたプロセス設計の問題について,Excel上のツールを活用して解く例を示した。是非チャレンジしてください。


 

Excel Tips    exp(- 〜)に気をつけろ

式の頭に符号の反転のためのマイナス記号がついていることはよくあります。しかしExcelで例えば y = - x n を計算するつもりで [ = - 2^2 ] としても、 4 とプラスの値になってしまいます。

普通は意識されませんがプログラミング言語一般では,式の頭のマイナス記号は「単項マイナス演算子」と呼ばれ,一方,(a -b )のマイナス記号は「二項演算子」であり別のものです。しかも「単項マイナス」はべき乗よりも優先(最優先)です。意外にもExcelのセルの数式中のマイナス記号は,このプログラミング言語一般での取り扱いに則っています。さらにこのことは関数の中でも同じであり, exp( - x n  )でも以下のようになります。

本書でも例題9.3,例題10.2にあるように,化工計算で exp( - x n  )の形式は頻繁に出てくるので,べき乗が最優先と思い込んでいると予期しない計算結果となることがあります。筆者も何度か悩まされました。

さらに混乱することには上のように,マクロののBASIC言語(VBA)では,単項マイナスよりべき乗の方が優先と,こちらは常識どおりとなっています。

(このことによる計算間違いは世の中にかなりはびこっているのかもしれません。恐ろしや・・・)

 

Excel Tips    印刷物のデータを数値化する

グラフのプロットはデータであるセルの数値と連動していますから,セルの数値を変えるとプロットも変更されます。実はこれを逆に使うことができます。グラフ上でデータ系列を選択し,さらにデータマーカをクリックするとそのデータだけが選択され,ポインタが上下左右矢印になります。これをドラッグしてデータマーカーを動かすと,その座標位置がセルの数値に反映されます。

この機能で論文など印刷物の図のデータを数値化できます。先ずExcelで仮のデータにより原図に近いグラフを作成し,グラフの領域を”なし”(透明)にします。別にスキャナーで原図を取り込み,画面におさまるドット数(400×400程度)で.gifなどでファイル保存しておきます。このファイルをグラフのグラフエリアの書式設定−パターン−塗りつぶし効果−図−図の選択でファイルを指定して,グラフエリアの背景に取り込みます。グラフの座標と大きさを調整して,背景である原図に重ねます。(図では説明の都合上ずらしてあります。)個々のデータポインタを選択し,移動して原図のデータに合わせることでセル上にデータの数値が取得できます。

 

Excel Tips    10 cm×10 cmでグラフを印刷したい

Excelでグラフだけを別紙に印刷しようとする場合,誰もが悩むのが 決まった大きさで印刷する方法です。ラベルを含むプロットエリアはVBAで数値指定できますが,残念ながらグラフの軸の長さを数値指定する方法はありません。数値指定できるものを使った便法を紹介します。

1.グラフを作成します。
2.シフトキーを押しながらグラフをダブルクリックすると[サイズに関するプロパティ]が現れますので,これでグラフエリアの大きさを指定します。(例えば15 cm×15 cm)
3.グラフの印刷プレビューで,グラフエリアが印刷時に実寸になるようページの余白を調整します。(A4用紙なら左右余白2.8 cm,上下余白7.3 cm)
4.シートに戻り,グラフエリア内で枠だけの[四角形]を描きます。これは右クリック→[書式設定]→[サイズ]で大きさが数値指定できますので、所定の大きさ(10 cm×10 cm)にして,これをガイドとしてグラフの縦軸・横軸の大きさを調整します。

以上でほぼ希望の大きさでグラフが印刷できます。

追記:上記方法も面倒なので,Excelのグラフをコピーし,Wordの文書上に [windowsメタファイル]形式で貼り付け,それを拡大するという方法が実用的です。

 


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