1 定常伝熱


 伝熱工学の用語-熱伝達係数? 熱伝導係数?-

 

同じく熱移動を取り扱っているが,機械工学系の伝熱工学と化学工学系の移動論で訳語が異なっており,これが初学者・一般の混乱を招いている。先ず伝熱の形式のconductionとconvectionの訳語 が違う。 下図で青字が機械工学系伝熱工学での用語で ,黒字が移動論での用語である。もちろん歴史的には機械工学系の「convection = 熱伝達」が先輩なのであるが,やはり「伝導」と「伝達」が似た用語 であることが混乱のもとである。 また,同じ「」でありながら,「熱伝」と「熱伝」で単位が異なるのも 紛らわしい。 やはり移動論のようにconvectionを対流伝熱として,伝熱係数を使う方がスッキリしている。(高校の物理でも「熱の移動のしかたは熱伝導,対流,熱放射の3通りがある」と教わる。)ここではもちろん 「熱伝導度」「伝熱係数」式の移動論的用語を使う。

伝熱係数 熱伝達率 熱伝導度 熱伝導率

(googleで調べると熱伝達率が348,000件, 伝熱係数が133,000件なので,まだまだ熱伝達率がメジャーである。 (折衷の熱伝達係数も160,000件と多い・・))
(ところが最近は化工分野でも,化工便覧や最近の教科書で「熱伝達係数」式になっているなど押され気味である。Overall heat transfer coefficientが「総括熱伝達係数」はやっぱりヘン・・機械工学の伝熱工学では「熱通過率」であり,「総括熱伝達係数」は独自の造語である。)

 1次元 伝導伝熱

 

伝導伝熱の基礎であるフーリエの法則は「伝熱量は温度降下の勾配と断面積に比例し,距離に反比例する。その比例定数が熱伝導度である」というものである。式であらわすと,


1次元の場合はこれを微分した次式:

も基礎式である。これらは1次元・定常伝導伝熱では温度分布が直線(1次式)であることを意味する

1次元伝導伝熱の円柱座標での基礎式は,軸からの距離をr ,円柱の長さをl  として,

となる。(T  [K or ℃]: 温度,λ  [J/(m s K)]: 熱伝導度,Q [J/s = W]: 伝熱量,A [m2]: 伝熱面積) これを境界条件で解くと円柱の単位長さ当たりの伝熱量は次式となる。

また基礎式(1)を変数分離して積分すると,

さらに,

これは円管壁の温度分布が対数曲線になることを表している。 多層の場合は上式を連立させた次式のようになる。(第1層がr1-r2, 第2層がr2-r3など)

以上が普通の教科書に書いてあること(解析的に積分する方法)であるが,ここでは微分方程式(2)を直接数値積分する方法を紹介する。

【例題1】円管の保温<therm1.xls>
内径1.5 m,外径2.0 mの2重壁の耐火物製管がある。内側壁の厚みは0.1 m, 外側が0.15 mであり,材料の熱伝導度は内側がλ1=0.5, 外側がλ2=2.0 J/(m s K)である。管の内表面温度が1200℃,外表面温度が100℃であるとき,管長1 mあたりの伝熱量と管壁内温度分布を求めよ。

 r 1=0.75 m, r 2=1.0 mであり,微分方程式(1)をr 1からr 1まで積分することで解かれる。図が「微分方程式解法シート」である。定数をセルG2:G4に書く。ここで伝熱量Q は仮の値とする。また,G4のλは位置r (A3)で値が異なる。微分方程式(2)をB5に記述し,T の初期値(1200℃)を入れて,(r 1, r 2)区間で積分する。積分の結果,r 2でのT  が問題の条件,T = 100℃,となるようQ の値を試行する。結果は伝熱量Q = 20815 Wで,この場合の温度分布を図中のグラフで示す。

 

 2次元 伝導伝熱

 

x-y 2次元座標における定常伝導伝熱の基礎式(Laplaceの式)は次式である。

これを差分法で解いてみる。差分法(finite difference method, FDM)は解析領域を等間隔メッシュに分割し、基礎式を差分方程式に変換して解く方法である。各格子点での温度T (x, y )の値をT i, j であらわすと、各方向の二次微分は、

のように差分化される。これを基礎式に代入して、

が得られる。2次元伝導伝熱の式は2階の偏微分方程式であるが、差分方程式で書くと「ある点の温度はその周囲の4点の温度の平均値」という簡単な関係となる。

この関係を全格子点について解く。すなわち基本的には各格子点でのT に関する連立方程式となる。

計算上はこのような大規模な連立方程式を直接・同時に解くことは困難なので、仮の初期値から出発して近似計算をおこない、収束した値を解とする。

【例題2】 2次元定常伝導伝熱 <therm3.xls>

図のセルA1:L13で断面が示される長方形の中空材料がある。内部表面温度が100℃,外部表面温度が0℃のとき材料内部の温度分布を求めよ。

 セルB2に式(4)を書き,これを領域内全てのセルにコピーする。この際「循環参照」の警告がでるがキャンセルする。ツール−オプション−計算方法で反復計算にチェックを入れて再計算実行をおこなう。得られた温度分布を図中の3-Dグラフで示す。


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