3 対流伝熱  

 温度境界層方程式

 

対流伝熱とは固体面表面の流体の流れに起因する伝熱であり,固体面表面の速度分布が同じ場所の温度分布さらに伝熱量を支配する。その解析の基本は境界層方程式である。

平板に沿った流れによる速度と温度の層流境界層方程式は次式である。

 これらは偏微分方程式であるが,境界層厚みδを基にした相似変換により常微分方程式になる。すなわち,壁面からの無次元距離 と η の関数(流れ関数)f  を導入することで次式となる。

 これらは とおけば,以下の正規形の連立常微分方程式となる。

【例題1】温度境界層方程式 <therm4.xls>

空気のプラントル数 Pr =0.7として,温度境界層方程式を解け。

図は「微分方程式解法シート」である。セルB5, C5, D5に速度境界層方程式(式(11)),E5, F5に温度境界層方程式(12)を記述し,積分を実行する。速度f ’ および温度θT が積分の上限 η = 8で1.0 となるよう,f ’’, θ’T の初期値を試行する。解は θ’T (0)= 0.293 と得られる。温度分布の結果を図中のグラフで示す。速度分布と温度分布は相似である。

 

 ヌッセルト数 Nu

 

この例題のように,Pr =0.7の場合,速度勾配の厳密解0.332に対して温度勾配は,

と近似できる。壁面での温度勾配は,

  である。よって,平板固体面から層流流体への強制対流伝熱は次式で表せることになる。

ここで, ヌッセルト数

が導入された。ヌッセルト数が伝熱の大きさを表す基本無次元数である。これを長さL の平板平均にすると,

より次式となる。


ヌッセルト数Nuの物理的意味: Nu数の分母は温度差と代表距離による熱流束 q0 :

であり,これは計算できる量である。Nu数はこの 基準熱流束 q0に対して実際の熱流束 q が何倍かを表している。熱流束は壁面の温度勾配に比例するので, 言い換えればNu数は 壁面における実際の温度勾配が基準の温度勾配の何倍かを示している。

 

 伝熱係数 h

 

伝導伝熱における比例定数 λ(熱伝導度)に対して,熱伝導の距離が不明・不定な対流伝熱では伝熱速度 q を温度差を推進力として,その比例定数である伝熱係数 h [W/(m2 K)]を用いて表す:

(これをニュートンの冷却法則という。)伝熱係数 h の物理的意味は流体の熱伝導度 λ と伝熱距離すなわち仮想の伝熱境膜厚さ δ の比である。

これとNu数の定義式を比較すると次式であり,最終的に Nu = L/δ である。伝熱係数(伝熱境膜)を介することで,ヌッセルト数は代表長さと境膜厚さの比に帰着される。

例えば平板−空気間の伝熱では,境界層方程式の解に空気(300 K)の

より,強制対流伝熱における伝熱係数が次式で概算できる。

なお,伝熱係数はその大きさがつかみにくい(値が正しいオーダーなのか判断しにくい)。これに対しては,h の定義から流体の熱伝導度λ とh の比が境膜厚さδであるから,δで考えれば大きさの判断がしやすいであろう。例えばこの場合u =1 m/s, L =0.2 mなら,δ = 0.003 m= 3 mmである。

 

 強制対流伝熱の Nu数と伝熱係数 h

 

表に代表的形状における強制対流伝熱のNuの実験式と空気系での伝熱係数を示す。(空気は30℃として,λ=0.0263 W/m-K, ν=1.59×10-5 m2/s,Pr=0.717とした。)

 

 内部流れの対流伝熱

 

円管内流れの強制対流伝熱−熱流束一定―

内径D, 内半径Rの円管に平均速度 で流れる流体 への管壁からの伝熱を考える。流れの速度分布:

つまり円管内層流の壁面温度勾配は管径Dを基準にした温度勾配の4.36倍ということになる。

円管内流れの強制対流伝熱−壁温度一定―

壁温度Tsが一定での基礎式の解も得られている。解は級数解で複雑であるが,次のHausenの式で相関される。

円管内流れの強制対流伝熱−乱流―

管内流れが乱流範囲では次式である。

【例題2】太陽熱温水器(Incropera, p. 508)

 

 自然対流伝熱

自然対流伝熱は強制対流伝熱と異なり,温度変化に伴う流体の 密度変化により,浮力で対流が引き起こされ,伝熱が促進 される現象である。垂直平板上の速度・温度の境界層

表に代表的形状における自然対流伝熱の Nu の相関式と空気系での伝熱係数を示す。(空気は30℃として,λ=0.0263 W/m-K, ν=1.59×10-5 m2/s,Pr=0.717とした。) (Cengel, Ghajar, Heat and Mass Transfer, p. 528, McGraw-Hill (2011))

 

 輻射伝熱

 

壁面1−空間−壁面2間の輻射伝熱(熱放射)の基礎式は次式である。

Qr  [J/s=W]:輻射による伝熱量,F 12[-]: 形態係数,ε1[-]: 放射率,σ = 5.675×10-8 W/(m2 K4):ステファン・ボルツマン定数,A 1[m2]:固体の伝熱表面積,T 1, T 2[K]:壁面1及び2の絶対温度。これを伝熱係数で書くと次式である。

 


 

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