5 熱応答と制御 |
熱応答
物体・流体には「熱容量」があるため,その温度を変えるには時間を要する。これを考えるのが熱応答の問題である。撹拌槽の伝熱問題を例に示すが,これは伝熱係数h を適切にとればどんな状況でも共通である。
表面温度T 0の加熱・冷却コイルにより,撹拌槽内の液温T を変えることを考える。時間をt [s]とし,液量をV [kg], 液の熱容量をCp [J/(kg K)],
コイルの伝熱面積をA [m2], コイル−槽液間の伝熱係数をh [J/(m2 s K)]とする。熱収支: (液温の上昇速度)=(伝熱速度) より,
が基礎式となる。整理すると,
である。τ を「時定数」と呼ぶ。
下図にT 0 の時間変化に対するT の応答例を示す。
(例1:ステップ応答) 液温T =0℃から,加熱コイル温度を100 ℃に上げ,一定に保つ。
(例2:一定温度上昇) 液温T =0℃から,加熱コイル温度をT 0= 0.5t で一定速度で上げる。
(例3:指数関数冷却) 液温T =100℃から,加熱コイル温度をT 0= 100 exp( -0.02t )で指数関数的に低下させる。
(例4:周期変化) 液温T =50℃から,加熱コイル温度をT 0= 20 sin(0.05t )と周期的に変化させる。
この例でT はτ =50 sだけT 0 の変化に遅れる。これが時定数の意味である。またステップ応答ではexp型で応答するが,時定数分の時間でステップ変化の63%になることも特徴である。
【例題8】周期変化の熱応答
τ =50 の系において,はじめの液温T =30℃から,加熱・冷却コイル温度を T0= a sin(bt )と周期的に変化させる場合の液温変化を求めよ。a =10, b =0.04 とする。
系の特性である式(27)とT0 を微分した次式:
の連立常微分方程式を解く問題となる。図の「微分方程式解法シート」で,セルB5:C5に連立常微分方程式を記述し,初期値をB12:C12に設定してボタンクリックで実行する。結果を図中のグラフで示す。
次に加熱と冷却が同時に起こる系を考える。温度T の撹拌槽内液が,温度T 1 のヒーターで加熱され,外気温T 2 で冷却される。
この系の熱収支は次式となる。
である。
【例題9】加熱・冷却槽の温度応答
時定数が τ1=50, τ2=200 として,T 1=T =T 2 =20 ℃の状態から,ヒーター温T 1を120℃ に上げた場合,および元に戻した場合のT の応答を示せ。
微分方程式(30)でT 1を変化させる。図は「微分方程式解法シート」で,セルB5に式(30)を記述する。定数をG2:G5に書くが,このときT 1についてt =50 sからT 1= 120, t= 250からT 1=20とする。ボタンクリックで積分を実行することでT の応答が示される。図中のグラフのように,T はexp型の応答を示す。
温度制御
【例題10】加熱・冷却槽の温度制御<therm12.xls>
上の例題の系において,T を100℃および80℃に設定するにはT 1 をどう変化させればよいかを検討せよ。さらに外部条件変化(T
2を0℃にする)についても示せ。
T 1 が制御変数,T が被制御変数のフィードバック制御系の問題である。比例・積分制御系を用いると,ヒーター温度T
1の設定に関する微分方程式が次式となる。
この式と式(30)の連立常微分方程式を解く問題となる。図が「微分方程式解法シート」で, B5,C5に微分方程式を記述する。G2:G7に諸パラメータを書く。ここでT
setがT の目標値で,はじめは100,
t =250 sから80とする。また外部条件変化のため,T 2をt =450 s以降 0 とする。ボタンクリックで実行すると,A,B列にT ,
T 1の経時変化が得られる。図中のグラフの破線がT 1であり,T に関する初期設定,設定値の変化(t
>250)および外部条件の変化(t
>450)に対応するT 1の変化の様子が示されている。