化学工学基礎 @単位


1・1 数値,変数と単位

 エンジニアの扱う数値は必ず実態があり,物理量である。物理量は数値と単位の積で表現される。

(物理量)=(数値)×(単位)

技術の場では、数値は単位が 付いてはじめて意味を持ち,他人にその量の意味と大きさが伝達できる。その単位の表記も大文字*・小文字・斜体の表記を含め世界共通の形式に従わなくではならない。例えば,単位の表記はローマン体であり,数値と単位記号の間には半角スペースを入れる。 (注参照)

(誤) 質量  1 Kg ⇒(正)  1 kg

(誤)  100 Kpa ⇒(正)  100 kPa

*) 人名由来の単位は大文字。N (ニュートン),W (ワット)など。

数値そのもの 1.03 ,オーダー ×105 ,単位 Pa は等しく重要である。(電卓を使 用すると数値の桁数を必要以上に多く出す人が多いようです。数値を書くときはその物理量の測定精度を想定しましょう。普通は数値の表示は3-4桁で十分です。)

数値と変数を明確に区別するため,数値には [ ] なしの単位(例: 300 m/s),変数には [ ] つきの単位 (例: [m/s] , p [Pa])をこの講義 での約束とします。
(SI単位系では  p /Pa のように / で変数の単位を表示することが推奨されている。 (応用化学系でも) しかし工学分野では [ ] を推奨する。)

=のある式(有次元式)中の記号で示された変数 は物理量ではなく、変数の定義中に[ ]で指定された単位で計測したときの数値をあらわしている. このときその数値を測定した単位も左右で等しくなくてはならない。

u = L/t  [m/s]

このふたつの式は意味が異なり、
上式はある実体のあるものの「物理量」が等しいこと
下式は単なる代数的な等号をあらわす

(注:この意味では「L = 3 m」のような書き方はオカシイのであるが(正しくは「L [m] = 3」),便利のため使わせてもらう。)

 

1.2 単位系

 世の中は国際単位系(SI)に移行しつつあるが,旧単位系による過去の 遺産は膨大なのでエンジニアは両方を使えなくてはいけない。日常でも単位系は混在している。下にクルマの動力表示と電気製品の質量表示の例を示す。

質量と重量: 先ずこの両者は別のものであることを確認する。質量の単位は kg を、重量の単位には Kg を用い区別する。重量を言い換えれば「重さ」であるように、重量は作用すなわちのことである。「このビンは1 Kgの重さがある」とはビンが1 kg の質量があり,(1 kg)(9.80 m/s2)=9.8 kg・m/s2=9.8 N に等しい力で 地表に引き付けられている(重量=重力による力)と理解する。

 

単位系による力の定義の違い

絶対単位系 ,国際単位系(SI)

 

重力単位系

ニュートンの法則の定義どうり

 

力と質量(kg)の数値が地上で同一になるようにした

加速度が入るので直感的でない

 

直感的・体感的にわかりやすい

kg

←質量→

Kg・s2/m

kg・m/(s2) = N

←力→

Kg or kgf or kgw

この両者を混用する工学単位系では重力換算係数cが必要 である。 gcがあらわれる場面は以下のようである。:

 @圧力 1 Kg/cm2=0.9807x105 Pa または
 f [Kg/m2]=(1/gc) [kg/(m・s2)=Pa]

 A流動 ρu2/2は圧力(動圧)

 Bトルク
(タイヤの締め付けトルクは 10〜13 kgf・m。レンチの長さは25 cm なので40 kg のモノを支える力を加える感じ。)

gc があらわれる場合の多くは[Kg/cm2]または[Kg/m2]単位の圧力を使っている場合である。例えばハーゲンポアズイユ式による円管内圧力損失の式は
 bce1_99.gif (1096 バイト)
と書かれる場合があるが、圧力に[Pa]を使った国際単位系(SI)で統一すればこのgcは不要である。c は工学計算のつまずきの石である。SI単位系に従っていればc を避けて通ることができる。 c は変数記号でなく「定数」であり、cを見たら無条件に 9.807 kg・m/(kgf・s2 ) と考えること。

SI基本単位 (国際単位系(SI)(Le Système International d'Unités))

SI誘導単位

SI補助単位

物理量 許容単位 単位の記号
時間 分,時間,日,年 min,h,d,a
温度 セ氏度 ℃
体積 リットル L
質量 トン,グラム t,g
圧力 バール bar (1 bar=105 Pa)

SI接頭語 数値が 0.1〜1000 の範囲になるよう、基本単位に接頭語をつけて使用する。接頭語は「単位」ではなく「数値」であることに注意.

(ここで先のSI基本単位における[kg]の[k]だけは例外で接頭語ではない。また、質量単位に接頭語をつける場合は[g]を基本にする。例えば 1 μkg ではなく  1 mg とする。これらの例外は慣用と整合性を保つためにしかたのないことである。)


接頭語と記号を組み合わせたものは単一の記号となされる。したがって累乗は括弧を用いることなくあわわす。
例:  cm3 は  (cm)3 のこと

単位まちがい探し(正しい書き方は?)

「本日の積雪は30センチ 雨は30ミリ」

「風速10メートル」

「この車の最大速度は250キロ」

「メモリは64 Kバイト」

「東京まで 450 Km」

「松坂  155キロ超えた!体も80キロ超えた!」

「握力 45 キロ」

「血圧が160 です」

1・3 分析と測定法の慣例

・比重:「密度(density)ρ [kg/m3]」と「比重(specific gravity)  [-]」は意識して区別し,「比重」はなるべく使わない。
・温度:   温度も温度差も [K] を使う
・圧力:従来単位:[Kg/cm2](キロ),[mmHg],[atm],[torr],[mb] 等と各分野で勝手に使われて混乱のもととなっていた.SI単位系で はパスカル[Pa]=[N/m2]に統一された.法令により今後機器類の表示もこれになる.ケタが多くなるので[kPa]での使用を推奨する.(1 気圧は 101.3 kPa)なお気象関係では「ヘクトパスカル hPa」を使用し ているので注意.(これもミリバール mbar からの移行をスムーズにするために仕方のないことであった。)


参考リンク

佐藤直樹, "教科書の記述を考える 14 物理量や単位の表記について": 化学と教育, 46巻, p. 569 (1998)
日置昭治:"量の表しかた", ぶんせき, 2, 66 (2011)
計量 標準総合センター 物理化学で用いられる量・単位・記号 

Powers of Ten (YouTube) ←有名なビデオ

 

単位に関する話題:
・マーズ・クリメイト・オービターの失敗は単位の取り違え
 【失敗百選】


注:単位に〔 〕をつける習慣

数値の単位に「2.69 〔 kg 〕」のように括弧をつける学生が多く,長年その指導にうんざりしていたところです。やっと最近は高校の教科書(下図)もマトモになっているようです。さらにこの特殊な括弧(〔〕)をキーボードにある括弧([])にしてもらいたいものです。


実教出版,化学U, H19検定済


 付録      対数・指数の復習

指数法則:     

対数:

常用対数 log10, log:

自然対数 loge, ln: (e = 2.718...)

(各自の電卓で log と ln を確認してください。)

 


演習レポート@  (A4レポート用紙にて提出)

 

この講義,演習で使う簡単な計算のチェックをします.以下の等式を完成して提出してください.

(今回の演習レポートは成績には関係ありません.次回より先着約40名5点,以降4点がつきます.(誤答は減点))

 

(分子量)

問1 炭素Cの分子量は?.   酸素の原子量は?,分子量は?

問2 水素と酸素を同じモル数混合した気体の平均分子量は?

(指数)

問3 0.0321=3.21×10?

問4 1×103 + 1×102 =?

問5 1×103 × 1×102 =?

問6 2.34E-2 = 0. ? (E-1,E-2, E2 程度は普通の形式で書いてください)

(対数)

問7 log100=?

問8 log10=?

問9 loge2.718=ln 2.718= ?

問10 log1 =?

(積分)

問11 

 

問12 対数目盛をレポート用紙に写し,座標を入れなさい。

 


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