2.1 物理量,物性値の単位
物理量の測定の基本概念を次元(dimension)といい,次元を表わす手段が単位(unit)である。絶対単位系の基本量である質量、長さ、時間をそれぞれ M , L, T という記号で表すと、他のすべての物理量(誘導量)は基本量のべき乗積 Ma×Lb× Tc で表現できる。この表しかたを次元という。例えば,速度の次元は LT -1、力の次元は MLT -2、圧力の次元は ML -1T -2 と なる。
物理量はその定義にもとずいて次元は 一義的に決まるが,その数値および単位は単位系により異なってく る.
たとえば高分子膜を気体が膜表裏の圧力差により透過する現象を 定量的にあらわすには「透過係数P」を用いる.単位膜面積あたりの 気体透過速度J [cm(STP)/(cm2・s)]は圧力差Δp [cmHg]に比例し,膜 の厚みδに反比例する.よって(気体透過速度)×(膜厚)/(圧 力差)で定義される「透過係数P」は下表中のような単位と次元を持 つ.
式の左右の次元,単位は同じであることを利用して式中の変数の 単位が決められる.
【例題2.1】
オリフィス計により管内の流体の流速を測定する場合,管内の流速uとオリフィス前後の圧力降下 Δp
は次式の関係にある。
ここでρは流体の密度,cは比例定数である.c
の単位はどうなるか。
【例題2.1解】
[Pa]=[N/m2]=[kg・m/s2]*[1/m2]なので単位だけの等式:
よりc[-] (無次元)
なお、微分記号は単位,次元に影響はない。
単位換算表の使い方は,同じ行の数値と上の単位をつけて,「1 cm= 0.01 m 」 のような等式を作成すること。
【1】長さ [L] (VBScript版)
【2】質量 [m] (VBScript版)
【3】力および重量 [MLT-2],[F] (VBScript版)
【4】圧力 [ML-1T-2],[FL-2](VBScript版)
【5】仕事,エネルギー,熱量 [ML2T-2],[FL],[Q](VBScript版)
【6】粘度,粘性率 [ML-1T-1],[FTL-1](VBScript版)
【7】動力,工率 [FLT-1],[QT-1]
(VBScript版)
【8】温度 (温度の換算は「単位換算」ではなく「目盛り」の変換なので、単位はつけず数値だけで計算すること。)
絶対温度とセ氏温度: (℃で表した温度)=(Kで表した温度)-273.15
セ氏(Celsius)温度[℃]とカ氏(Fahrenheit)温度[°F]:
(Fで表した温度)=1.8×(℃で表した温度)+32
(℃で表した温度)=((Fで表した温度)+40)÷1.8 -40
2.3 数値の単位換算法
数値 (数字+単位) の単位換算は「1を作って代入する」でおこなう。
【例題2.2】
水の粘度 1.0 cP (センチポイズ)(P=g/(cm・s)))を [Pa・s=kg/(m・s)]単位に換算する。
【例題2.2解】
【例題2.3】気体定数Rの換算
「高校化学」での気体定数Rの値は,ボイル・シャルルの法則と「1atm,0℃(273K)で,理想気体 1
molの体積は22.4 l」より,
であった。これをSIに換算しなさい。
【例題2.3解】単位換算表より, 1 L =0.001 m3、1 atm=1.013×105P a
これらより1を作って数値と単位の間に代入する
なお,この単位の分子は m3・Pa=(N/m2)・m3=N・m=J
なので,この単位は熱容量Cpの次元と同じである。気体の体積から導かれる気体定数がなぜ熱の次元を持つのであろうか
。これは熱力学の基礎に関係する.その答えは講義の後半で取り上げる。
【参考】気体定数Rのいろいろ
8.314 m3・Pa/(mol・K)
0.08314 L・bar/(mol・K)
0.08206 L・atm/(mol・K)
62.36 L・mmHg/(mol・K)
8.314 J/(mol・K)
1.987 cal/(mol・K)
0.7302 ft3・atm/(lb-mole・゚R)
10.73 ft3・psia/(lb-mole・゚R)
1.987 Btu/(lb-mole・゚R)
(゚R:Δ゚F=Δ゚Rとした絶対温度)
変数により構成される「式」は,本来左右の次元が同じであり, 単位が統一されていれば,単位系によらず成立するものである。し かし,実験式のように係数が式中にあるとその式の単位系により係数が異なる問題が生じる。実験式の単位換算(係数の変更)は以下のようにかな り面倒であり,できればおこなわないのが無難である。式ではなく,一度数値に直して,数値そのもの(数字+単位) で換算するとまちがいが少ない。
【例題2.4】
水平に置かれた円柱の外表面からの自然対流伝熱速度が次の実験式:
で表わされている。ここで q は単位時間当りの伝熱速度[Btu/h], A
は円柱の外表面積[ft2], DO は円柱の外径[ft], Δtは円柱の表面温度と大気温度との差[゚F]である.
。本式中の各変数をSI単位で表わした新しい実験式を作成せよ。
【演習レポートA】
2.1 管内を流れる流体の摩擦による圧力損失の式は
Δp=2fLρv2 /D
である。ここでΔp=圧力損失,L=管長さ,
ρ=流体密度,v= 流速,D=管径である。SI単位系では摩擦係数fの単位は何か。
2.2 電子の荷電を1 Vの電位差で加速したときのエネルギーが 1 eV(電子ボルト)である 。化学反応の例として炭素C(β)の燃焼反応 を取り上げると,炭素C(β)の燃焼熱は1モルの炭素あたり ΔH ^c=-393.1kJ/mol-C である。アボガドロ数6.023×1023 個/mol と下の単位換算表を用いて,炭素 C(β)1分子あたりの燃焼熱 [J] をeV単位で求めよ。
(核反応を実験室的におこすには天然の放射性元素の出すα線を用 いる。α線1粒子は数100万eVのエネルギーを持つ。上の答えと比較
すれば核反応は化学反応の100万倍の規模のエネルギを持つことが わかる。)