リサイクルとパージ操作は工業的に多くおこなわれる気相触媒反応 の特徴である.気相反応は本質的に平衡反応なので転化率が低い. このため反応器出口の未反応ガスを再び反応器入り口に戻す操作が おこなわれる.これがリサイクル操作である.リサイクル操作に伴 い,不活性成分の蓄積の問題が生じ,パージ操作が必要となる.
たとえば窒素と水素を原料とするアンモニア合成プロセスでは,
N2:H2=1:3の混合ガスを原料(補給原料)として触媒層を高温・
高圧下で通してアンモニア合成:
N2 + 3H2 → 2NH3
をおこなう.この反応は平衡反応なので一回通過転化率は数10%程度
にすぎない.そこで合成塔からの反応後ガスを冷却して生成したア
ンモニアを凝縮させて捕集し,未反応の窒素と水素は循環ガスとし
て補給原料に混合して再び合成塔に戻される.この場合,空気を原
料として得られる窒素中には通常1%弱のアルゴンが含まれている.
反応系から生成物のみ除去すれば,系内にアルゴンが蓄積する.そ
の量が限度を越えると目的の反応を阻害するにいたるであろうし,
ガス循環圧縮操作のエネルギーが無駄である.このため循環ガスの
一部を系からのぞいて不活性ガスの蓄積を防止する必要がある.こ
れがパージ操作である.
パージされるガスはバルブ操作で放出され る循環ガスの一部なので,組成は循環ガスに同じである.定常状態 では系に入る補給原料中の不活性ガス流量とパージガスにより系か ら去る不活性ガス流量は等しい.また,パージガス中に原料ガスが 含まれているため,パージ操作をおこなうとプロセスの総括収率は 100%以下となる.
【参考例題】
この教習所は1年で修了である.毎年新入生(原料)が100人
入学し,1年後卒業試験(反応器)があり,合格者は卒業し(生成
物)不合格者(未反応物)は再度在籍する.卒業試験の合格率(一
回通過転化率)が25%とすると教習所では何人分の教室(反応器送
入量=原料+リサイクル)を用意すべきか.
【例題6.1】
石炭の水蒸気存在下の部分酸化によって生成した COとH2を洗
浄したあと燐酸触媒反応器に送り,メタノール合成反応:
CO+2H2→CH3OH
をおこなう.原料ガスはCO,H_2が量論比の組成(1:2)で供給され
る.反応器におけるCOの一回通過転化率は18%である.@イナート
ガスを含まない場合のリサイクル量Rを求める.A原料中に1%のイ
ナートガス(CH4)を含む場合に,反応器入口でイナートガスが10%
を越えない条件,および総括収率がKの条件でプロセス中の各流量
を計算する.
【例題6.1解】
@イナートガスを含まない場合,リサイクル量 R を求める. 一回
通過転化率は18%.
反応器まわりの収支より,
反応物×(1一(ー回通過転化率))=出口の未反応物
(90+R)(1-0.18) = R
Aイナートガスを含む場合
上図のように各流量を未知数x1,x2,
x3,x4とする.以下
の物質収支式をたてる.
@系全体の収支 90 = x3 + 3*x4
A反応器まわりり収支 (原料)×( 1-(一回通過転化率))=(未
反応物)
(90 + x1 )* ( 1 - 0.18 ) = x3
+x1
B制約条件1 : リサイクル流れとパージ流れは組成が同じ
x1/ x2 =
x3 / 1
C制約条件2 ・反応器入り口ガス中のイナートガス濃度の制限
(x2+1)/(x1+x2+90+1)=0.1
(制限濃度)
・または総括収率K 90*(1-K) = x3
多段分離操作プロセスについては単位操作の講義で扱うが,その解 析は物質収支と平衡関係の連立方程式で記述される物質収支問題の 延長にあるのでここで例題にもとづいて基本を紹介する.
【例題6.2】
向流3段の気液接触装置で吸収をおこなう。気液平衡関係は
y= mx で表せる。気体流量G,液流量Lは一定とし,各段では理論段
の仮定が成立する。吸収成分の気体中モル分率y,液体中モル分率
xの各段出口の濃度の定義を図に示す。G,L,
出口液濃度x1,
供給ガス濃度y0が既知のとき,その 他の濃度x2,x3,x4,y1,y2,y3を求める連立方程式を書きなさい。
【例題6.2解】
必修事項11 用語「一回通過転化率」「総括収率」
必修事項12 リサイクル・パージを含む物質収支問題で収支式
が書けること
演習 非線形連立方程式によるリサイクル・パージ問題の解法
【6.1】
メタノール合成におけるリサイクル・パージをともなう物質収支問題(例題6.1)で、一回通過転化率を
条件 @: 0.1 E: 0.15
A: 0.11 F: 0.16
B: 0.12 G: 0.17
C: 0.13 H: 0.18
D: 0.14 I: 0.19
として
総括収率 K =(指定)の場合のリサイクル量R (=x1+x2)と反応器入り口ガス中のイナートガス濃度(x2+1)/(x1+x2+90+1) を求めなさい。
レポートは図、式、解を書くこと。
ヒント:これは未知数が4つの(非線形)連立方程式を解く問題となる。
90=x3+3x4
(1),
(90+x4)(1-c) =x3+x1
(2),
x1/x2=x3/1
(3),
90(1-K)=x3 (4)
より、
(4)からx3, (1)からx4,
(2)からx4, (3)からx2の手順により求める。
【6.2】エチレンC2H4の酸化によりエチレンオキサイドC2H4Oを合成する。(2C2H4+O2→2C2H4O)原料ガスは反応物 90 mol (C2H4 60 mol, O2 30 mol), N2 113 mol とする。反応器での一回通過転化率は0.5 である。総括収率を 0.9 とした場合の物質収支を計算しなさい。