化学工学基礎  K エネルギー収支V

 燃焼熱,実際の温度での反応熱

 

12.1 標準生成熱 から標準反応熱ΔHr を推算する

 次式により反応中の各物質の標準生成熱データがあれば,どんな反 応でもその標準状態における反応熱が推算できる。

【例題12.1】
下の生成熱のデータより反応:
 4NH3(g)+5O2(g)→4NO(g)+6H2O(g)
の標準反応熱を推算する.

【例題12.1解】
ΔHr  =(4*(90.3)+6*(-241)) - (5*(0)+4*(-46.14))= -900 kJ
これはNH3 4 mol 当たりの値なので, NH3 1 molあたりの反 応(NH3(g)+(5/4)O2(g))では,
      ΔHr  = -225 kJ (発熱)

【例題12.2】メタノールは水素と一酸化炭素または二酸化炭素の反応で合成される.その反応と反応熱は以下のようである.

合成されたメタノールを原料として次の反応:

により酢酸が合成され,次の反応:

によりホルムアルデヒドが生成する.

である.(酸素および水素の生成熱は0.)メタノール,一酸化炭素,二酸化炭素,水(H2O(g))の生成熱[kJ/mol]を求めよ.(私が作った入試問題)

【解】メタノール,一酸化炭素,二酸化炭素,水(H2O(g))の生成熱を各々a, b, c, d とすると、

である。この連立方程式を解いて、a = -201, b = -111, c = -393, d = -241。

12.2 標準燃焼熱 

 標準生成熱はすべての反応熱が計算できる基準であるが,我々が 実際に測定できるのは標準燃焼熱である。標準燃焼熱は酸素との反 応により測定される.標準生成熱は標準燃焼熱からHessの法則を用 いて推算されたものである。

Bomb Calorimeter, material burned in excess oxygen, heat of combustin measured by temperature change of surrounding water

 燃焼熱を測定する方法: 図のような熱量計中で試料を加圧酸素 で燃やして室温に戻ってから発生熱量を測定する.燃焼による発熱 量が燃焼熱 (Heat of combustion)である.
 この測定方法に基ずく標準燃焼熱の規約
(a)炭素はすべてCO2(g),水素はすべてH2O(l ).他の元素も指定
(b)基準は標準状態25℃,1気圧
 総発熱量:H2Oは(l ), 真発熱量:H2Oは(g) (実用上は水蒸気の潜熱は利用できない)

【例題12.3】 燃焼熱からの生成熱の推算

【例題12.4】
メタンCH4の標準生成熱および燃焼熱
標準生成熱:元素から化合物が生成する際の反応熱

2*A+BーC より@のエンタルピー変化がすなわちメタンの標準生成熱
   =2×(-285.8)+(-395.5)-(-890.4) = -74.85 kJ/mol
標準燃焼熱すなわち標準反応熱ΔH :
 上のCが標準燃焼熱であるが,これを標準生成熱から逆算すると

(都市ガスの主成分はメタンであるが、この燃焼熱をガスの体積 1m3(44.6 mol)当りに換算すると、
(メタンの燃焼で発生する熱量)=890.4 kJ/mol =39,750 kJ/m3 = 9,510 kcal/m3=9.5 Mcal/m3
(プロパンの燃焼で発生する熱量)=2058 kJ/mol =91,875 kJ/m3 = 22,000 kcal/m3=22 Mcal/m3
となる。

ガス器具に「12A, 13A用」などと書かれているように、都市ガスは4A〜13Aまでの種類で分類されているが、数字はおよそMcal/m3単位での燃焼熱をあらわす。小さいガスストーブの13Aガスの流量(消費量)が 0.23 m3/hとした場合、発生熱量は3,000 kcal/h=3.5 kW。)

 

 

【例題12.5】 燃焼熱からの生成熱の計算

【例題12.6】(燃焼熱から反応熱を求める)(水素製造用改質炉)

メタンから水素を作る反応はメタンの燃焼熱を利用しておこなわれている。原料メタンと燃焼メタンの割合は?

The reaction of hydrogen generate from methane is driven by the combustion energy of methane. Estimate the ratio of raw methane to burned methane.

【解】

メタンと水蒸気から水素を生成する反応の反応熱を求める.
Estimate the heat of reacton

CH4+H2O(g ) →CO+3H2 ΔHr =?

測定可能なメタンの燃焼熱は
heat of combustion for methane (measurable)

CH4+2O2→CO2+2H2O(l ) ΔHr =-890.4 kJ (1)
この反応に関係した成分の燃焼熱,蒸発熱もまた測定可能である。

水素の燃焼

H2+(1/2)O2→H2O(l ) ΔHr =-285.8 kJ (2)

COの燃焼

CO+(1/2)O2→CO2 ΔHr =-283.0 kJ (3)

水の蒸発

H2O(l )→H2O(g ) ΔHr =+44.0 kJ   (4)

これらから水素生成反応を作るには (1)-3×(2)-(3)-(4) である。反応熱の項についてこの計算をおこなって、水素生成反応のΔHr =+206 kJ(吸熱反応)となる。これは(1)の反応熱0.23 mol分である。

よって原料メタン1 molにつき0.23 molのメタンの燃焼が必要である。
(以上は標準状態(25℃)での理論計算。実際は反応管を1000℃に維持しなくてはならない。)

12.3  実際の温度での反応熱

温度における反応熱:

【例題12.7】 
次の反応の実際の反応温度773Kでの反応熱を求める

よって標準反応熱はΔHr= -165.0kJ

なお,標準温度−反応温度間の平均熱容量pm が与えられて いれば,


で求められる.

JKエネルギー収支U,Vのまとめ

 必修事項26 生成熱,燃焼熱,反応熱の定義
 必修事項27 反応の組み合わせによる反応熱の計算(演習レポー
トJK)


【演習レポートK】 標準生成熱と反応熱  
指定の反応について量論係数を決めて反応式を書き,下表の生成 熱データ  [kJ/mol] を用いて標準反応熱ΔHr を計算しなさい。 この反応は発熱反応 か吸熱反応か?(各反応で量論係数が1の成分についても1molを乗 じていることになるので単位が[kJ]となることに注意)

                   
@メタンから水素を作る反応
 (反応物)CH4(g)とH2O(g)   (生成物)CO(g)とH2(g)
ACO→CO2
    CO(g)とH2O(g)   CO2(g)とH2(g)
BCO2→CO
   CO2(g)とH2(g)   CO(g)とH2O(g)
Cメタノール合成反応
   CO2(g)とH2(g)   CH3OH(g)とH2O(g)
Dナフサ(ヘプタン)から水素
   716(g)とH2O(g)   2(g)とCO(g)
Eホルムアルデヒド合成
   CH3OH(g)とO2   HCHOとH2O(g)
Fガソリン(ヘキサン)の燃焼
   614(g)とO2(g)   CO2(g)とH2O(g)
GClaus反応
   2S(g)とO2(g)   S(s)とH2O(g)


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