化学工学科の変遷 伊東 章

化学工学, 75, 156 (2011)

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大学における「化学工学科」の名称は,1970-1980年代は30近くの大学にみられたが,現在は2大学(東工大,大阪府大)のみとなっている。しかし実際に化学工学を学ぶ大学生が減っているわけではなく,多くの大学では「化学工学コース」として化学工学教育は工学系でゆるぎない地位をしめている。ただ化学工学が外から見えにくくなっているのは事実である。本記念誌編集委員会ではそのような現在の化学工学科の現状をみるため,大学,高専,工業高校を通して化学工学科変遷調査をおこなった。

現在化学工学教育をおこなっている46大学の学科の変遷を示したのが表1である。また,これら学科・コースの卒業生数の年次推移を図1に表した。多くの化学工学科は1960年ころの石油化学,鉄鋼,合成繊維産業の発展を背景に,これらプロセス産業に従事する化学技術者の必要性から応用化学系の拡充という形で国立大学を中心に設立された。表にこのような例が15学科を数える。この結果,化学工学の卒業生も1970年に1600人に達した。

 1970-1980年代はこのように化学工学科の存在が明確であった時代である。しかし,1990年以降は各大学の化学工学科が改組・名称変更で化学工学の名前が消えてゆく。この背景には大学制度としての小講座制を解消し,大学科・大講座制への転換があった。多くの大学で学部の応用化学系学科がひとつになり,化学工学はその中に一つのコースとして存続する大学が多くなった。この再編の動きは工学部全体の動向であり,特に化学工学科に再編の必要性が内在していたものではない。しかし結果として化学工学が外部から見えにくい現状となった。

現在化学工学を学んで卒業する大学生は1500人を維持しており,工学系でもしっかりとした存在価値を示している。しかしコース選択により化学工学に進んだ学生と化学工学系研究室卒業で化学工学修得とみなされる学生で2/3を占めている現状は認識しておく必要があろう。以前のように化学工学を専門にするという自覚で大学入学した学生は少ない。よって化学工学に優秀な学生を引き寄せるためには新たな努力が必要と言える。先ず化学工学研究を社会にアピールすることが重要であろう。JABEEを活用して化学工学分野の存在を示すことも有効である。また,高校生や大学初年生への化学工学の宣伝に大いに力を入れる必要がある。これらのことを本調査の結論・提言とする。


 

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