化学工学実験 吸収


ガス吸収は混合気体の分離・精製には第一に選択される分離法である。排気ガスの浄化,炭酸ガス除去など多くのプロセスに応用されている。ここでは簡単な物理吸収である炭酸ガスの水への吸収操作をおこない,ガス吸収プロセスの取り扱いの基礎を実習する。

実験装置(図1)

 炭酸ガス(CO2)と水を充填塔で向流接触させる。充填塔は径4 mmのラヒシリング充填塔で,充填物高さ Z = 0.27 m, 塔断面積 S =0.002 m2である。塔底からCO2/空気混合ガスを供給し,塔頂から水を供給して,ガス−液を向流接触させる。塔頂のCO2メーターにより供給ガス中のCO2濃度低下を測定する。

実験操作手順と測定事項

1.炭酸ガス濃度計の検定 ガス供給口とCO2メーターを直結する。ガス全流量200 cm3/minとし,CO2濃度を0.15, 0.10, 0.05, 0.0 の4点変えて調整し,各々の炭酸ガス濃度計出力(mV)を記録する。この検定によりレコーダ記録からガス中のCO2濃度を決める。

2.気液平衡の測定 ガス全流量200 cm3/minとし,CO2濃度を設定する。三角フラスコ中に水道水1100 gを入れ,このガスを通気し,出口ガス中のCO2濃度をモニタする。通気によりCO2濃度が低下し,10-20分で供給濃度に戻る。濃度低下の積分値が水に吸収されたCO2量である。CO2濃度は0.15と0.08で測定する。

(吸収CO2[mol])=(全ガス流量[mol/min])×(平均濃度低下[モル分率])×(測定時間[min])
であり,x =(吸収CO2[mol])/(吸収液(水)量[mol]) である。

測定事項:吸収液量[mol], 吸収CO2量[mol], 平衡ガス相CO2濃度y [モル分率]

3.ガス吸収 ガス全流量200 cm3/minとしCO2濃度をy1=0.1に調整する。水(水道水)と向流接触させて出口濃度y2を測定する。水流量を3点変えて測定を繰り返す。CO2濃度低下(y1-y2)とガスの流量[mol/min]からCO2吸収速度[mol/min]を求める。これと水流量[mol/min]との比がx1である。x2=0とする。

測定事項:吸収液(水)流量[mol/min], y1, y2
計算事項:x1, x2, 塔断面積あたりのガス・液流量G, L [mol/(m2・s)]

吸収における物質移動の取り扱い

 炭酸ガスの水への吸収プロセスは液相支配と考えてよい。すなわち塔のある位置におけるCO2濃度分布は,ガス相はy,液表面でyに平衡なx*,液境膜を介して液本体濃度xにある。塔の微少高さdz [m]における境膜を介しての被吸収ガス(CO2)の物質移動速度dNA[mol/s]は次式のようにモデル化される。

Kxa [mol/(m3・s)]:液境膜基準総括物質移動容量係数,(Kx [mol/(m2・s)]:物質移動係数,a [m2/m3]:単位体積あたり気液接触面積)S [m2]:塔断面積)これを塔高さZ まで積分して,

である。( の平均値。)

一方,塔全体の被吸収ガスの物質収支より次式が成り立つ。

L [mol/(m2・s)]:塔の単位断面積あたり液流量,G [mol/(m2・s)]:塔の単位断面積あたりガス流量)式(2)と(3)より,

である。左辺を操作因子であるH.T.U. , HOL,と平衡に関係する移動単位数, NOL, に分けて,吸収塔高さZ はそれらの積で表される。
 

参考資料>W.G. Whitman: "The two-film theory of gas absorption," Chemical and Metallurgical Engineering, vol. 29, pp. 146-148 (1923).

実験結果の整理法とプロセス設計課題

1.実験結果を図2のように平衡線と操作線で表す。これをレポートの図1とする。
2.データ処理を表1のようにおこない,各実験におけるHOLNOLを求める。
 3.ここで求めたHOLを用いて,塔断面積 1 m2の吸収塔でガス流量25 m3/hのガスを水で洗浄し,CO2濃度y1=0.1をy2=0.02まで低減させるための充填塔高さZ [m]を求めよ。ただし気液モル流量比L/G =1500とする。これを「プロセス設計課題解答」とせよ。

 

図1

 

表1 データ処理法


化学工学実験 流下液膜による炭酸ガスの吸収


 吸収操作はガスの液への溶解性を利用しておこなう分離操作である.本実験では濡れ壁塔を用いて水への炭酸ガスの吸収実験をおこなう.

流下液膜への吸収における物質移動速度

 垂直壁を流下する液膜(水)への純炭酸ガスの溶解を考える.水中での炭酸ガス拡散の基礎式は次式である.

cA :水中の炭酸ガス濃度[mol/m3], DAB:拡散係数, y:界面からの距離, z:流下方向距離, vz: : 液膜内局所速度).

炭酸ガスは液膜表面から内部へと溶解するのであるが,溶解の浸透距離が液膜厚みに比較して小さいという仮定を用いると,vz は液膜の表面速度vmax(定数)で置き換えられる.すると上式は解析的に解けて,各位置の濃度分布は

c
A0 :液膜表面での炭酸ガス濃度, erfc:誤差関数)となる.

液膜表面における吸収速度は濃度の勾配より,

となり,これを積分すると濡れ壁平均の物質移動流束N
A [mol/(m2・s)]は次式となる.

ここで,c :液のモル密度(=5.55×10
4mol/m3), x*:液膜表面炭酸ガス濃度[モル分率], l :界面長さ[m].なお,シャーウッド数Sh, 流下液膜表面速度vmax,流下液膜厚みδは各々次式である。
absorpCO2156.gif (1428 バイト)

実験装置および方法

濡れ壁塔を用いて水への炭酸ガスの吸収実験をおこなう.濡れ壁塔は内径9mm,長さ20cm.圧力はほぼ大気圧としてよい.定常状態で炭酸ガスの吸収速度が石鹸膜流量計で測定される.

水の流量を3点変化させて炭酸ガスの吸収速度を測定する.

実験結果の整理

1.次のようにデータを処理する.これを表1とする.

 

記号   

単位 実験1 実験2 実験3

温度 t

[℃]      

濡れ壁塔径 

[mm] 9    

濡れ壁塔長 l

[m] 0.2    

気液接触面積 S

[m2]      

CO2吸収速度 NA''

[cm3/s]      

NA'

[mol/s]      

NA(=NA'/S)

[mol/(m2・s)]      

シャーウッド数(データ) Sh

[-]      

水流量 V''

[cm3/min]      

V'

[m3/s]      

V

[mol/s]      

出口水中のCO2モル分率 xo

[-]      

1気圧CO2の飽和溶解度 x*

[-]      

出口水中の飽和度 xo / x*

[-]      

(理論の部)

       

濡れ浸辺長 Γ

[m] 0.0283    

水の密度 ρ

[kg/m3] 998    

重力加速度 g 

[m2/s] 9.8    

水粘性係数 μ 

[Pa・s] 1.01×10-3    

流下液膜厚み δ

[m]      

液膜表面速度 vmax

[m/s]      

水-CO2拡散係数 DAB

[m2/s] 1.75×10-9    

NA(理論) NA

[mol/(m2・s)]      

シャーウッド数(理論) Sh

[-]      

液膜レノルズ数 Re=δ(2/3)vmaxρ/μ

[-]      

2.片対数方眼紙上で,液膜レイノルズ数Reを横軸に縦軸(対数軸)にシャウーウッド数Shをとり,データ点,理論線を示す.これを図1とする.

考察

1.水流量に従って吸収速度が増加するのは何故か.「物質移動の推進力」の語句を用いて説明しなさい.

(参考)1気圧の炭酸ガスの水中への飽和溶解度

温度[℃] 10 15 20 25 30
x*[モル分率] 0.000962 0.000821 0.000701 0.000608 0.000537

 



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