非定常収支モデル

ある系の物質量や熱の収支は、

(蓄積)=(流入)−(流出)+(発生)−(消費)

で定式化される。しかし、プロセスの場合は流入、流出が速度なので、すべての項を速度であらわす。

(系内の増加量)=(流入速度)−(流出速度)+(生成速度)−(消費速度)

すなわち、

と書ける。定常プロセスでは左辺が0であったが、このように非定常プロセスの記述は時間t に関する微分方程式となる。微分方程式を解くには階数に応じた境界条件、初期条件が必要であるが、この章では1階の微分方程式だけなので、初期条件だけ与えればよい。

タンク内の液量

流入・流出をともなうタンクが最も基礎的な非定常物質収支のモデルである。

V をタンク内の液量として、容積を基準とした物質収支は、

である。

【例】タンクに水が一定流量q =0.05 m3/sで流入している。t =0からタンクの漏れが進行し、流出量がq' =0.0025 t で増加している。初めタンク内液量がV =1.2 m3 であったとき、V の時間変化を求める。 (Felder p. 548)

【解】微分方程式、初期条件が
    
である。変数分離して、積分する。

タンクとバルブの系の液面高さ

タンクの断面積をA 、液面高さをh とすると、V =Ah である。流出ラインにバルブが設置されている。このような場合一般に流出量q' は液面高さh に比例しバルブの抵抗R に反比例する。

物質収支式を液面高さh で書くと、

【例】底面積 A =2 m2のタンクがある。初めは流入量q =1 m3/sの状態で液面高さがh = 5 mで定常状態にあった。t =0でq =2 m3/sに変えると液面高さはどうなるか。

【解】基礎式は である。初めの状態は定常なので、(dh/dt)=0, h =5, q =1 より、R =5。

微分方程式、初期条件:

を解く。 変数分離して、 

図のように流量q をステップ状に変化させると、次の定常状態に指数関数的に変化する。流量を入力、液面高さh を出力とみれば、ステップ入力に対する指数関数的応答は多くの現象にみられる。このような系を一般に一次遅れ系とよぶ。

非定常熱収支

1成分系で流入・流出および熱の発生、消費がある場合の系の熱収支は次式となる。

T :系の温度、M :質量、Cp :熱容量、 :流出・流入速度、Q :熱の発生、消費速度

【例】180 L (180 kg)、温度T [K]の水槽に50℃(323 K)のお湯が 0.15 L/s(=0.15 kg/s)で流れ込み、同じ流量で流出している。外気温が0℃(273 K)であり、水槽から外気への熱のロスが:
であらわせるとする。時間t =0でT =295 K (20 ℃)であるとき、水槽の温度はどう変化するか。

【解】(水槽の温度上昇に必要な熱量)=(流入・流出流れで出入りする熱量)−(外気への放熱) 
を定式化すると次式となる。 
 
ここで、M : 水槽の水量 180 kg、Cp :水の熱容量 4200 J/(kg-K)、v :流入・流出速度 0.15 kg/s 
すなわち、
 

よって、微分方程式
    を解く。

変数分離して、積分する。   

濃度の非定常挙動

ある系における特定成分Aについての物質収支を考える。CA [mol/L]を成分Aの濃度とし、mol基準でA成分の物質収支を書くと次式となる。

完全混合槽の濃度の応答

「完全混合」槽とは槽内の濃度と流出流れの濃度が等しいことを言う。(「完全に混合していること」ではない。)

完全混合槽で流入・流出がともにW であり、反応がない場合の基礎式が次式となる。

【例】V =10, W= 1 L/s, CA0=1 mol/Lのとき、はじめにCA=0の場合、CAの経時変化を求める。
【解】  初期条件:t=0:CA=0 を解く。

【例題(公務員試験)】2000 Lの容量のタンクに20 wt%の食塩水が入っている。これに1000 Lの水を供給すると、食塩水の濃度はいくらとなるか。タンクが十分に撹拌されており、供給水と同量の水が絶えず流出しているものとする。

【解】基礎式でV =2000, CA0=0, t =0でCA=20。仮にW =10 L/sとすると1000 L供給される時間は t =100 s。

一次反応の連続流れ完全混合槽型反応器(CSTR (continuous stirred tank reactor))

液容積 V [L]の完全混合槽にともに速度W [L/s]で流入・流出がある。流入流れ中の成分A の濃度がCA0[mol/L]であり、槽内と流出流れ中の濃度がCAである。槽内では一次反応:


により成分Aが成分Cになる。

成分Aについての物質収支式は次式。

これより、CAに関する微分方程式が次式となる。

この式はt =0で CA= CA(0)の初期条件で解くことができる。例えば、CA(0)=0とし、

の場合の解は、  である。

【例】 W = 0.15 L/s, CA0= 10 mol/L, V= 10 L,k =0.005, 初期条件t =0 : CA= 2 mol/L で解く。
【解】


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