一定量の原液を缶に仕込み加熱沸騰させ、発生蒸気を凝縮器で凝縮させ、原液中の低沸点成分を濃縮する方法が単蒸留である。古代からある最も簡単な分離操作であり、醗酵により得られた低濃度アルコール水溶液から蒸留酒を得る製法である。
この方法は蒸留の進行につれて缶内液中の低沸点成分の濃度がしだいに減少して凝縮液の濃度も低下するから、操作上は蒸留を打ち切る蒸発量が重要である。単蒸留における凝縮液の濃度変化を計算してみる。
ある2成分混合溶液がラウールの法則に従う(理想溶液)と仮定すると、溶液中の低沸点成分モル分率x
、それに平衡な蒸気中の低沸点成分モル分率y
との関係が、
となる。αが比揮発度であり、両成分の純粋液のその温度における蒸気圧p*iの比(α=
p*1 / p*2)
である。
スチル(沸騰容器)中に濃度x0[低沸点成分のモル分率]の2成分系混合液をF0[mol]仕込む。加熱操作中のスチル中の溶液の量をF [mol]、濃度をx, この液から発生する蒸気の濃度をy とする。 y はその時の留出液(凝縮液)の濃度でもある。
始めからその時まで留出した液量は(F0-F)である。留出率θを、θ=(F0-F)/F0で定義する。全留出液の平均濃度をxDとする。
蒸留途中のある時間におけるスチル中の全液量F,濃度xの状態から、液がdF[mol]だけ蒸発して、その濃度がdxだけ低下したとすると、低沸点成分の物質収支は次式となる。
Fx =(F -dF)(x-dx)+ydF
dF・dxの項を省略して整理すると、
dF/F=dx/(y-x)
(2)
すなわち、
これを、初期条件:
x=x0 at θ=0
から積分することで留出率θに対するx およびy の経時変化が求められる。
留出液の平均濃度は
である。
(3)式の積分形:
を単蒸留におけるレーリーの式という。理想溶液の場合はこの式の解析解も簡単に得られ、
である。
実験 メタノール/水系の単蒸留
実験操作
1.蒸留装置の保温器を入れる.全縮器冷却水を流す.
2.メタノール水溶液を400cm3程度とり,重量,濃度を測定する.
測定事項:初期液量 F0 [mol],初期原液濃度 x0 [モル分率]
3.原液と沸騰石をスチルに仕込み,スチルヒーターを入れる.
4.還流なしの状態で留出液を20〜30cm3程度ずつ採取し,重量,濃度を測定する.
測定事項:各留出分画液のモル数と濃度 y [モル分率]
5.全留出率が0.5程度で実験終了.ヒーターを切る.
6.スチル液を抜く.
[ガスクロマトグラフによるメタノール水溶液の濃度分析]
@チャートよりピーク高さと半値幅をmm単位で求める。両者を乗じてピーク面積[mm2]とする。
Aメタノールモル数MMeOHは
(ピーク面積[mm2])×2.29×10-6mol/mm2、
水のモル数MWaterは
(ピーク面積[mm2])×1.08×10-6mol/mm2
で計算される。これらはあらかじめ検定済みである。
Bこれらよりメタノールのモル分率x を計算する。x =
MMeOH /( MMeOH + MWater)
実験結果の整理および考察
1.テキスト中の図2の様式の蒸留曲線を描く.これを図1とする.
2.蒸留曲線を外挿してy0を決める.x0,y0より比揮発度αを推算する.
3.このαを使って式(5)よりθ対x の理論曲線を図中に描く.さらに,そのx よりy を式(4)で計算して図中に描く.
4.メタノール水系の気液平衡の実測値(右表)と式(4)を x-y 線図で比較しなさい.その違いが蒸留曲線にあらわれているのか考察しなさい.
表1メタノール/水系の気液平衡(1気圧)
x | y | t[℃] | α |
0 | 0 | 100.0 | |
0.05 | 0.278 | 92.4 | 7.31 |
0.1 | 0.425 | 87.7 | 6.65 |
0.2 | 0.602 | 81.7 | 6.05 |
0.3 | 0.692 | 78.0 | 5.24 |
0.4 | 0.752 | 75.4 | 4.54 |
0.5 | 0.798 | 73.2 | 3.95 |
0.6 | 0.838 | 71.2 | 3.44 |
0.7 | 0.878 | 69.4 | 3.08 |
0.8 | 0.915 | 67.7 | 2.69 |
0.9 | 0.96 | 66.0 | 2.66 |
1 | 1 | 64.6 |
ラウールの法則に従う2成分系の単蒸留操作につき、指定のα、x0からレーリー式(微分形)を数値積分する。
変数の割り当て
テキスト | プログラム |
θ | x |
x | y0 |
【プログラム】
1000 '====レンリツ ジョウビブン ホウテイシキ ========
1010 ' RUNGE-KUTTA METHOD FOR SYSTEMS OF DIFFERENTIAL EQUATIONS
中略
2000 '---------ビブン ホウテイシキ
2010 '----ホウテイシキ ノ カズ
2020 DATA 1
2030 '----セキブン クカン [a,b]
2040 DATA 0,0.5
2050 '----ショキチ x=a ニオケル Y(0),Y(1),Y(2)...ノ アタイ
2060 DATA 0.45
2070 '----xノ キザミハバh, ゴサ ノ キョヨウ ゲンカイ E
2080 DATA 0.05, 0.001
2090 '----EQUATIONS( Y,X,N デハジマル ヘンスウ ハ ツカワナイ)
2100 ON NK + 1 GOTO 2110
2110 ' [ DYDX=Y(0)' ]
2115 AL = 2.16
2120 DYDX = -(((AL * Y(0) / (1 + (AL - 1) * Y(0))) - Y(0)) / (1 - X))
2125 RETURN
@指定のαによる気液平衡関係をx-y線図上に表す。
A留出率θを横軸にとり、x,y,xDの変化を示す。θ=0.5まで。