装置内の流れ 混合特性
装置機器内を流れる流体は乱流、拡散、流れの経路の違いにより混合される。この混合状態は装置による反応操作や分離・混合操作に大きく影響する。装置内混合状態を完全に予測することは困難なので、化学工学の普通の取り扱いのように、理想的なモデルを考え、それをもとに実際の現象を解析する。
滞留時間分布
装置内混合の状態は流体の滞留時間分布であらわせる。滞留時間分布の測定にはインパルス応答法とステップ応答法が用いられる.
インパルス応答法について述べる.図のように容積V [cm3] の容器に流体が流量 v [cm3/s]で定常的に流入・流出している. 時刻 t =0 でトレーサーを装置入口から瞬間的に注入して、装置出口において排出されるトレーサー濃度 C を連続的に測定する.
装置の平均滞留時間 t m (=V/v) で規格化した無次元時間 θ (= t / tm )により濃度変化をあらわして、次式; (1)
で出口のトレーサー濃度を規格化する.この関数 E(θ)が滞留時間分布である.
この定義から明らかなように,
(2)
の関係が成立する. (なお、実験ではデータをこれが成立するよう処理する.)
理想流れ
この流通装置・機器の内の混合状態を理想化したものとして、押し出し流れと完全混合流れがある。反応装置の場合にはそれぞれ、押し出し流れ反応器( plug flow reactor, PFR )、完全混合槽型反応器( continuous stirred tank reactor, CSTR )とよぶ。
押し出し流れは装置内の流れ方向に流体の混合・拡散がなく、また流れと直角方向に均一な速度を持つ流れである.押し出し流れのE 関数は θ=1において全トレーサーが瞬間的に流出するので次図左のようになる.
完全混合流れは流入した物質が装置内で瞬間的に一様濃度に混合され,装置内濃度と装置出口流体濃度が等しいとして定義される流れである.
完全混合流れでは、トレーサーは注入後瞬間的に反応器内に均一に分散し、その後は出口流れの濃度
C は反応器内濃度に等しいことから、物質収支は
-V(dC/dt)=vC (3)
となる. これを規格化すると、
-d(E(θ))/dθ=E(θ) (4)
したがって E 曲線は次式である.
E(θ)=exp(-θ) (5)
現実の流れ
実際の装置内の流れはこの二つの理想流れの中間にあり,装置内の混合の度合いが強くなるに従って押し出し流れのE 曲線から偏り,完全混合流れのE 曲線に近接する.この理想流れからの偏りを表示する方法として完全混合槽列モデルと分散モデルがある.
完全混合槽列モデルは装置を等しい容積の完全混合槽が直列に連結していると考え,混合の程度を槽の数 N で表すものである. それぞれの完全混合槽のE曲線は(5)式で与えられるので,N 個から成る完全混合槽列に対するE 関数は次式;
(6)
で与えられる. 図にその曲線のいくつかを示す.トレーサー応答から求まるE 曲線と(6)式の理論曲線を図上で比較することにより,このモデルにおける混合のパラメータN が求められる.
装置内混合のもうひとつの表し方が分散モデルである.これは押し出し流れにトレーサーの流れ方向前後への拡散の項を重ね合わせたものである.これを式で表すと次式となる.
(7)
この偏微分方程式の,押し出し流れからの偏倚が小さいと仮定した場合の解は,
(8)
である.これはθ=1を中心とする正規分布関数である.ここで,無次元数が分散モデルにおける混合のパラメータ「分散数」であり,D が軸方向分散係数である.(u [m/s]:管内流速,L[m]:管長さ)
実験 混合特性
実験では、押し出し流れに近い長管と充てん層,完全混合流れに近い撹拌槽の3つの流れについて、インパルス入力したトレーサーの滞留時間分布の測定をおこなう.
装置のモデルとして
A:撹拌槽 V =1615cm3
B:充てん層 V =171cm3
C:チューブ 内径6mm, L=1057cm,V=298.7cm3
の3つがある. トレーサーに NaCl
水溶液を用い、濃度を導電率計で検出する.
各装置毎に次の手順で実験を行なう.A,Bは流量を変えて2回、Cは1回測定をおこなう。
1)
流量調節バルブにより水の流量を設定する.
2)導電率計,レコーダーのレンジを設定する.レコーダー記録開始.定常値をみる.
3) 注射器によりトレーサーを約1cc注入. この時間がt =0.レコーダーのチャート紙にその位置を記入する.
4) 出力ピークが定常値に戻ったら終了.
5)
レコーダチャートを数値化してデータとする.時間には秒をとる.出力値はNaCl濃度であるが,無次元の数値で表す.
実験結果の整理
各実験につき、次の表を作成する.レコーダに記録された出力を数値化し10点程度で応答曲線が再現できるようにする.濃度C の数値をθ=0から測定終了時間まで積分し, の値を求め,式(1)によりE の値を計算する.これをレポートの表1〜5とする.
実験条件:(装置種類、V、v、),(流速u[m/s](Cのみ)) | |||
時間 t[s] | 無次元時間θ | 濃度C (単位なしの数値) |
E曲線[-] |
0 | 0 | ||
考察
1) A:撹拌槽 の実験(2回分)について片対数方眼紙上で、E 曲線と(5)式を比較せよ. これを図1とする. 完全混合が成り立っているか考察する.
2) B:充てん層 の実験(2回分)について方眼紙上でE 曲線を示し、(6)式の曲線をあてはめて槽列モデルの混合パラメータN を求めて比較せよ. これを図2とする.
3) C:チューブの実験(1回分)について方眼紙上でE 曲線を示し、対応する(8)式の曲線をあてはめよ.θ=1近辺がピークとなっているはずなので (E の最大値) と近似して(D/uL)が得られる. これを図3とする.得られた軸方向分散係数D を、水中のNaClの相互拡散係数(濃度勾配に基ずく拡散係数)D AB =1.5×10 ー9 m 2 /s と比較せよ. 軸方向分散係数には相互拡散係数以外のどんな要因が含まれるのか考察しなさい.
マクドナルドのおまけおもちゃ。圧力計までついた立派な撹拌混合槽反応器である。さすが化学工学の本場アメリカ、子供のおもちゃに「化学装置」があるとは。(実は”フラバー”というガレージ化学者の映画の宣伝用。) |
演習 混合特性
槽列モデルおよび分散モデルの理論応答曲線(式(6)、(8))の計算をEQUATRANでおこなう。グラフも描いてみる。
表4 「槽列モデル」のリストと計算結果 |
GLOBAL N=10 VAR x(N) x(1)=1; x(2:N)=x(1:N-1)+1 F=PROD(x)/x(N) /*階乗の計算*/ E=(N^N/F)*t^(N-1)*exp(-N*t) REPEAT t[0,2] step 0.25 TREND E 計算結果 N=10 ------------------------------ t 1:E ------------------------------ 0 0 0.2500000 0.008629007 0.5000000 0.3626558 0.7500000 1.144405 1.0000000 1.251100 1.250000 0.7651491 1.500000 0.3240717 1.750000 0.1065187 2.000000 0.02908153 |