実験 液相回分反応
反応速度は反応装置設計の基礎である.反応速度を測定するには回分法と流通法があるが,液相反応では簡単な回分法が用いられる.この実験では液相回分反応の例として、酢酸エチルの水酸化ナトリウムによるけん化反応をおこない,反応速度を測定し、反応速度定数に対する温度の影響を検討する.
けん化反応と反応速度定数の求め方
酢酸エチル(エステル)のけん化反応は、OH-の触媒作用によってまず加水分解反応が起こり、,続いて中和反応により酢酸ナトリウムを生成する次のような逐次反応と考えられている.
CH3COOC2H5 +H2O → CH3COOH +C2H5OH (1)
CH3COOH +NaOH → CH3COONa +H2O (2)
このうち(1)式の反応が律速段階である. 希薄な水溶液系では次のように表してもよい.
CH3COOC2H5 +NaOH → CH3COONa
+C2H5OH (3)
(化学種(A)) (化学種(B))
この式の反応速度は
r = -dCA/dθ =-dCB/dθ = kCACB (4)
のように近似できる. ここで, C ;各成分の濃度[mol/l ], θ ;時間[s], k; 反応速度定数[l/(mol・s)]、また、添字Aは酢酸エチル、 B は水酸化ナトリウムを表す.
反応速度定数 k を求めるには、CA,CBの経時変化を知る必要がある.ここでは水溶液の導電率すなわちOH-の濃度を測定することにより、水酸化ナトリウム NaOH の濃度 CB の経時変化を測定する.(NaOHのような強電解質は水溶液中ではほとんど完全に電離している.)
測定する反応中の溶液の導電率がNaOH濃度CB を表し、両成分の初濃度 CA0,CB0は既知(本実験では、CA0=0.01mol/l,CB0=0.015mol/lに調整する)なので、
CA=CA0-(CB0-CB) (5)
また、転化率 xA は
xA= 1-CA/CA0 (6)
で算出できる. (4)式を転化率 xAで書くと次式となる.
-dCA/dθ=kCA0(1-xA)(CB0-CA0・xA) (7)
従って、-dCA/dθ 対 CA0(1-xA)(CB0-CA0・xA)のプロットは直線となり、その勾配として速度定数 k が求められる. この方法が微分法である.
-dCA=CA0dxA
の関係を用いて (7)式を積分すると
(8)
となる. 従って、左辺とθのプロットの勾配として k が求められる.
これが積分法である.
実験方法
以下の測定を恒温槽温度(反応温度)を約25℃と45℃でおこなう.
実験結果の整理方法
(1) 各 データ系列は次表のような形式で整理する.
実験条件:(温度),(初期濃度)
時間θ[s] | 導電率 | CB [mol/l ] | CA[mol/l ] | xA | -dCA/dθ |
0 | S0 | 0.015 | 0.01 | ||
(2) 全実験のCA
の経時変化を示せ. これを図1とする.
(3) この CA vs.θの曲線の接線から上表の
-dCA/dθの項を求める.
(4) 各データ系列について微分法のプロットで反応速度定数 k
を求めよ.これを図2とする.
(5) 各データについて積分法のプロットをおこない反応速度定数 k
を求めよ. これを図3とする.
考察
(1) 微分法,積分法で求めた反応速度定数を比較,考察しなさい.
(2) logk 対1/T [K] のプロットから活性化エネルギー E
を求めよ. これを図4とする.