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 Excelで気軽に制御の基礎 ― 一次遅れ系,二次遅れ系,一次遅れ+むだ時間系―

1 プロセスの動特性

1槽モデル(一次遅れ系):  化学工学における非定常プロセスの典型的モデルとして,図のようなタンクとバルブによる流通系のモデルが用いられる。タンクの断面積をA,液面高さをhとする。流入速度をQ,タンク内の液量はV =Ahである。流出速度は液面高さhに比例し,バルブの抵抗Rに反比例するものとする。 (実際は√hに比例する。(トリチェリの定理))

 

このプロセスが初期状態で定常(ss)であると,各定常値は次式の関係にある。

このプロセスで流入Qを操作したことによる液面高さhの非定常変化を考える。制御の観点からはこれをプロセスの動特性といい,Qは操作量,hは被制御量という。(1)式を用いて物質収支より操作量Qと被制御量hの関係が次式となる。

この式は整理すると

という形の常微分方程式であり,一般に一次遅れ系という。

 

【例題1】1槽モデルの動特性(ステップ応答)<pc1.xlsm>

底面積A =5 m2のタンクがある。初めは流入量Q=Qss =0.1 m3/sの状態で液面高さがhss=h (0)= 1.0 mで定常状態にあった。この定常状態から,バルブの抵抗RはR=10 s/m2である。t =50 sでQ =0.25 m3/sに変えると液面高さはどうなるか。これは1次遅れ系のステップ応答を求める問題である。

(解)図2のシートでG4にQのステップ変化を記述して,式(3)(セルB6)を積分する。結果をグラフで示す。hはexp型の曲線で応答してh=2.5 mに至る。

図2 1槽モデルのステップ応答<pc1.xlsm>

2槽モデル(二次遅れ系):  次にタンクとバルブ系の液面高さのモデルを2つ連結した2槽のモデルを考える。(図3)槽の断面積はともにA(A1=A2)として,第1槽の液面レベルh1,第2槽の液面レベルh,第1槽の流入流量Qとする。流出部のバルブの抵抗は1, 2槽共にR(R1=R2)とする。

すると,第1槽からの流出流量 が第2槽の流入流量になることを考慮して各液面レベルの時間変化を表す式が次の連立常微分方程式となる。

この式はh1を消去して二階の常微分方程式になる。

この形式のプロセスは二次遅れ系という。

 

【例題2】2槽モデルのステップ応答<pc2.xlsm>

前の例題のR=10のタンクを連結した2槽モデルで,初期にQss= 0.1 m3/s,h (0)= 1.0 mの定常状態であった。第1槽への流入流量をQ=0.25 m3/sにステップ変化させた場合の第2槽の液面高さhの応答を求めよ。

(解)図4のシート上のG2:G4にモデルの定数,B5,C5に微分方程式(5)を記述し,B7:B9に積分区間と分割数を設定して,ボタンクリックで積分を実行する。結果をグラフで示す。2槽モデルのステップ応答は,立ち上がり時に変曲点が現れるS字状である。

図4 2槽モデルのステップ応答<pc2.xlsm>

一次遅れ+むだ時間系:二次遅れ系ではQを変えてもhは直ちには変化せず,遅れ時間がある。これは実際のプロセスでは普通にみられる挙動である。しかし二次遅れ系では初期の小さい遅れ時間しか表すことができない。そのため一次遅れモデルに任意の遅れ時間tdを加えた動特性モデルが実用的である。

これが一次遅れ+むだ時間系であり,操作変数Qを変化させても,被制御変数hへの影響が時間tdだけ遅れる動特性である。

【例題3】一次遅れ+むだ時間系の動特性(ステップ応答)  <pc7.xlsm>
例題1の一次遅れ系モデルで,流量変化Q(t)が槽に達するまでにむだ時間td遅れて入口流量Q(t-td)となる場合を考える。初めは流入量Q=Qss =0.1 m3/sの状態で液面高さがh (0)= 1.0 mで定常状態にあった。こt =50 sでQ (t)=0.25 m3/sに変えると液面高さhはどうなるか。
(解)下図のシートで上式をB5に記述して,G7にQ(t-td)を設定する。これはG列にQ(t)を出力し,td時間前のQ(t- td )をH列に書き出して用いる。計算した結果を図のグラフで示す。液面hはtd=30 s遅れて応答する。

 

2 プロセス制御

タンクの液面レベル系のモデルの入力(操作量)Qのステップ変化に対する液面(被制御量)hの応答を示した。ステップ入力に対して1槽モデルではexp型の応答,2槽モデルではS字状の応答となる。これらが各プロセスの動特性である。

このような動特性を持つプロセスに対して,先ずQ, hがある定常状態Qss, hssのとき,時間tで液面高さの目標値をhsetに設定変更し,操作量である流入流量Qを変化させて,hを目標値hsetにすることを考える。これが液面制御の問題である。制御では被制御量hとその設定値hsetとの差すなわち偏差e:

をもとに操作量Qを変えてhを目標値hsetにする。

2.1比例制御

比例制御では操作量Qを偏差eに比例させて操作する。

Kpを比例ゲインという。

 

【例題3】1槽モデル・比例制御系の応答<pc3.xlsm>

1槽モデルでQss=0.1 m3/s,h(0)=1.0 mの定常状態であった。t ≧10で新たなhの設定値hset=2.5 mを与えて,比例制御によるhの応答を示せ。Kp =0.1とする。

(解)1槽のモデル(式(3))と比例制御の基礎式(式(8)) による以下の常微分方程式を解く問題となる。

図5がこれを解いたシートである。セルG4:G6に定常値Qss, 設定値hsetとKpの値を設定する。B5, G9に式(3), (6)を記述し,B7:B9に積分区間,区間分割数,B12にhの初期値を入れ,ボタンクリックで積分を実行する。得られたQ, hの時間応答をグラフに示す。比例制御では設定値hset=2.5 mに至らずに定常値になる。これが比例制御の特徴のオフセットである。

図5 1槽モデル・比例制御系の応答<pc3.xlsm>

 

2.2 比例・積分制御

比例制御で不可避のオフセットを解消するため,比例・積分制御では偏差eの時間t=0からの積分値を計算し,これが0になるまで操作変数を変える。

Tiが積分時間である。

 

【例題4】1槽モデル・比例・積分制御系の応答<pc4.xlsm>

1槽モデルでQss=0.1 m3/s,h(0)=1 mの定常状態であった。t ≧10で新たなhの設定値hset=2.5 mを与えて,比例・積分制御によるhの応答を示せ。Kp=0.2, Ti=20とする。

(解)モデル(式(3))と制御式(式(9))から次式の常微分方程式を解く問題となる。

図6のシートでG2:G7に定数を入れ,B5に式(3)を記述する。C列の変数Ihで,式(9)の積分項( )を計算する。これを用いて,G10に式(9)のQ(t)を計算する。積分区間,初期値を設定してボタンクリックで積分を実行する。得られたQ, hの時間応答を図中のグラフに示す。hは目標値hsetに至り,積分を加えることでオフセットを無くすことができる。


図6 1槽モデル・比例・積分制御系の応答<pc4.xlsm>

 

【例題5】2槽モデル・比例・積分制御系の応答<pc5.xlsm>

2槽モデルでQ=0.1 m3/s, h=1 mの定常状態から,t=50 sでhの目標値hset=2.5 mを与えて,比例・積分制御によるhの応答を示せ。Kp=0.2, Ti=50とする。

(解)動特性モデルモデル(式(5))と制御式(式(9))によりh1,h, Qに関する次式の連立常微分方程式を解く問題となる。

これを解いたのが,図7のシートである。B5, G11に上式を記述し,D列の変数Ihで,式(9)の積分項( )を計算する。区間,分割数,初期値をいれて,ボタンクリックで積分を実行する。得られたQ, hの時間応答をグラフに示す。2槽モデルは比例・積分制御で十分な制御ができる。


図7 2槽モデル・比例・積分制御系の応答<pc5.xlsm>

 

【例題7】一次遅れ+むだ時間系・比例・積分制御系の応答  <pc8.xlsm>
一次遅れ+むだ時間モデルでQ=0.1 m3/s, h=1 mの定常状態から,t=20 sでhの目標値hset=2.5 mを与えて,比例・積分制御によるhの応答を示せ。むだ時間td=20 s, Kp=0.1, Ti=50とする。
(解) 一次遅れ+むだ時間系動特性モデル(式(4))と制御式(式(6))によりh1,h, Qに関する次式の常微分方程式を解く問題となる。

これを解いたのが,図のシートである。B5, G11に上式を記述し,D列の変数Ihで,式(6)の積分項( )を計算する。G11に( Q(t-td)) を設定する。区間,分割数,初期値をいれて,ボタンクリックで積分を実行する。得られたQ, hの時間応答を図のグラフに示す。

 

2.3 比例・積分・微分制御(PID制御)

さらに制動を早めるためにおこなうのが比例・積分・微分制御(PID制御)で,操作変数が次式となる。

Tdが微分時間というパラメータである。PID制御では比例ゲインKp,積分時間Tiと微分時間Tdの3つのパラメータを用いる。

 

【例題5】2次遅れ・PID制御系の応答<pc6.xls>

2槽モデルでQ=0.1 m3/s, h=1 mの定常状態であった。t =50 sで新たなhの設定値hset=2.5 mを与えて,PID制御によるhの応答を示せ。Kp=0.2, Ti= 50, Td=40とする。

(解)動特性モデル(式(5))と制御式(式(10))によるh1,h, Qに関する連立常微分方程式を解く問題となる。

下図のExcelシートで,B5:C5に式(3)を記述し,D列の変数Ihで式(10)の積分項を計算する。これを用いて,G11に式(10)のQ(t)を記述する。式(10)の微分項 はC5を用いる。積分を実行して,得られた h, Qの時間応答をグラフに示す。微分項を加えることで比例・積分制御に比べて目標値に達する時間を短くできる。


図8 2槽モデル・PID制御系の応答<pc6.xlsm>


 

 Excelで気軽にプロセス制御 の基礎 −タンクとバルブ系(トリチェリの定理ver.)−

 

1 プロセスの動特性

化学工学における非定常プロセスの典型的モデルとして,図のようなタンクとバルブによる流通系のモデルが用いられる。

タンクの断面積をA,液面高さをhとする。タンク内の液量はV =Ahである。流入速度をQ, 流出速度をQ1として,ここで流出量Q1は液面高さ√hに比例し(トリチェリの定理),バルブの抵抗Rに反比例するものとする。

これを用いて物質収支式を液面高さhで書くと次式となる。

 

【例題1】1槽モデルの動特性(ステップ応答)<1槽動特性.xlsm>

底面積A =5 m2のタンクがある。初めは流入量Q=Qss =0.1 m3/sの状態で液面高さがh (0)= 1.0 mで定常状態にあった。この定常状態から,バルブの抵抗RはR=10 s/m^(2.5)である。t =50 sでQ =0.158 m3/sに変えると液面高さはどうなるか。これは1次遅れ系のステップ応答を求める問題である。

(解)図2のシートで計算した結果を図3のグラフで示す。hはexp型の曲線で応答して,新たな定常値はh=2.5 mである。

 

タンクとバルブ系の液面高さのモデルを2つ連結した2槽のモデルを考える。(図4)

槽の断面積はともにA(A1=A2)として,第1槽の液面レベルh1,第2槽の液面レベルh,第1槽の流入流量Qとする。流出部のバルブの抵抗は1, 2槽共にR(R1=R2)とする。すると,第1槽からの流出流量 が第2槽の流入流量になることを考慮して各液面レベルの時間変化を表す式が次の連立常微分方程式となる。

 

【例題2】2槽モデルのステップ応答<2槽動特性.xlsm>

前の例題のR=10のタンクを連結した2槽モデルで,初期にQss= 0.1 m3/s,h (0)= 1.0 mの定常状態であった。第1槽への流入流量をQ=0.158 m3/sにステップ変化させた場合の第2槽の液面高さhの応答を求めよ。

(解)図5のシート上のG2:G4にモデルの定数,B5,C5に微分方程式(3)を記述し,B7:B9に積分区間と分割数を設定して,ボタンクリックで積分を実行する。結果を図中のグラフで示す。2槽モデルのステップ応答は,立ち上がり時に変曲点が現れるS字状である。

 

2 プロセス制御

化学工学ではタンクの液面レベル系が制御系のモデルとしてよく使われる。(図1, 4)前節でこれらのモデルの入力(操作変数)Qのステップ変化に対する液面(被制御変数)hの応答を示した。ステップ入力に対して1槽モデルではexp型の応答,2槽モデルではS字状の応答となる。これらが各プロセスの動特性である。

このような動特性を持つプロセスに対して,先ずQ, hがある定常状態のとき,t=0で液面高さの目標値をhsetに設定変更し,操作変数である流入流量Qを操作して,hを目標値hsetに近づけることを考える。これが液面制御の問題である。制御では被制御変数hと設定値hsetとの差すなわち偏差e:

をもとに操作変数Qを変化させてhを制御する。

2.1比例制御

比例制御では操作変数qを偏差eに比例させて操作する。

 

【例題3】1槽モデル・比例制御系の応答<1槽P制御.xlsm>

1槽モデルでQss=0.1 m3/s,h(0)=1.0 mの定常状態であった。t ≧0で新たなhの設定値hset=2.5 mを与えて,比例制御によるhの応答を示せ。Kp =0.1とする。

(解)1槽のモデル(式(2))と比例制御の基礎式(式(5)) による以下の常微分方程式を解く問題となる。

図7がこれを解いたシートである。セルG4:G6に定常値Qss, 設定値hsetとKpの値を設定する。B5, G9に式(2), (5)を記述し,B7:B9に積分区間,区間分割数,B12にhの初期値を入れ,ボタンクリックで積分を実行する。得られたQ, hの時間応答を図8のグラフに示す。比例制御では設定値hset=2.5 mに至らずに定常値になる。これが比例制御の特徴のオフセットである。

 

2.2 比例・積分制御

比例制御で不可避のオフセットを解消するため,比例・積分制御では偏差eの時間t=0からの積分値を計算し,これが0になるまで操作変数を変える。

Tiが積分時間である。

 

【例題4】1槽モデル・比例・積分制御系の応答<1槽PI制御.xlsm>

1槽モデルでQss=0.1 m3/s,h(0)=1 mの定常状態であった。t ≧50で新たなhの設定値hset=2.5 mを与えて,比例・積分制御によるhの応答を示せ。Kp=0.2, Ti=20とする。

(解)モデル(式(2))と制御式(式(6))から次式の常微分方程式を解く問題となる。

図6のシートでG2:G7に定数を入れ,B5に式(2)を記述する。C列の変数Ihで,式(6)の積分項( )を計算する。これを用いて,G10に式(6)のQ(t)を計算する。積分区間,初期値を設定してボタンクリックで積分を実行する。得られたQ, hの時間応答を図中のグラフに示す。hは目標値hsetに至り,積分を加えることでオフセットを無くすことができる。

 

【例題5】2槽モデル・比例・積分制御系の応答<2槽PI制御.xlsm>

2槽モデルでQ=0.1 m3/s, h=1 mの定常状態から,t=50 sでhの目標値hset=2.5 mを与えて,比例・積分制御によるhの応答を示せ。Kp=0.1, Ti=200とする。

(解)動特性モデルモデル(式(3))と制御式(式(6))によりh1,h, Qに関する次式の連立常微分方程式を解く問題となる。

れを解いたのが,図8のシートである。B5, G11に上式を記述し,D列の変数Ihで,式(6)の積分項( )を計算する。区間,分割数,初期値をいれて,ボタンクリックで積分を実行する。得られたQ, hの時間応答を図9のグラフに示す。2槽モデルは比例・積分制御で十分な制御ができる。

 

2.3 比例・積分・微分制御(PID制御)

さらに制動を早めるためにおこなうのが比例・積分・微分制御(PID制御)で,操作変数が次式となる。

Tdが微分時間というパラメータである。PID制御では比例ゲインKp,積分時間Tiと微分時間Tdの3つのパラメータを用いる。

 

【例題5】2次遅れ・PID制御系の応答 <2槽PID制御.xls>

2槽モデルでQ=0.1 m3/s, h=1 mの定常状態であった。t =50 sで新たなhの設定値hset=2.5 mを与えて,PID制御によるhの応答を示せ。Kp=0.1, Ti= 200, Td=40とする。

(解)動特性モデル(式(3))と制御式(式(7))によるh1,h, Qに関する連立常微分方程式を解く問題となる。

下図のExcelシートで,B5:C5に式(3)を記述し,D列の変数Ihで式(7)の積分項を計算する。これを用いて,G11に式(7)のQ(t)を記述する。式(7)の微分項 はC5を用いる。積分を実行して,得られた h, Qの時間応答をグラフに示す。微分項を加えることで比例・積分制御に比べて目標値に達する時間を短くできる。


 

 

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