流れの性質

液体と気体と流体

気体と液体では体積が1000倍も違い、分子オーダーではその構造は全く異なる。しかし流体工学で取り扱う流れではそのスケールが液体の分子間距離(1nm)や気体の平均自由行程(0.06μm)に比較して十分大きいので、液体も気体もともに連続体として同様に扱える。これが流体工学の立場である。

連続体の仮定が成り立たなくなるような場合は例えば真空装置内や超高空における低圧・低密度気体の場合である。地上150kmの高空では空気が希薄となり、分子の平均自由行程λが25mに達する。またnmオーダーの孔径の多孔質膜を気体が透過するような場合もこれがあてはまる。

一般に平均自由行程と物体の代表長さlとの比をクヌーセン数Kと呼ぶ。

K=λ/l

K >0.01の範囲では通常の流体力学的取り扱いはできなくなる。

流体の粘性

流体を各種外力をもって動かそうとした場合、流体内にこれに逆らう力を生じる。すなわち変形に対する抵抗である。このような性質を流体の粘性(viscosity)という。粘性は流動を支配する第一の性質である。

2枚の板間に流体を満たして下を固定し、上の板に面に平行方向の力 F[N]を加えてこれを一定速度u0[m/s]で動かす。このとき壁の単位面積についての力F/A[N/m2=Pa]u0に比例し、x0に反比例する。このx軸に垂直な面のy方向の力をせん断力τxyと書き、比例定数をμとして、

の形であらわす。τの単位は圧力と同じである。(面に垂直な力、垂直応力は静止流体では圧力のことである)この関係をニュートンの粘性法則(Newton’s law of viscosity)といい、比例係数μを粘性係数または粘度(viscosity)という。SI単位系における粘度μの単位は [kg/(ms)] すなわち[Pas](パスカル秒)である。粘度の単位は従来は「ポアズ(poise;[P](1P=1g/(cms))およびその1/100の「センチポアス[cP]」が広くもちいられてきた。(水の粘度が1cP

粘性率の測定はこの定義どうりの測定法でおこなわれる。

粘度と密度の比μ/ρ[m2/s]を動粘度または運動粘度(kinematic viscosity)という。この単位は物質移動における拡散係数D、および熱伝導における熱拡散率αに同じであることに注意する。

fl1_98.gif (2366 バイト)なお、力[N]は、運動量mu [kg×m/s]÷時間t [s] に同じであるから、単位断面積を通しての運動量の移動速度がすなわちせん断応力である。このことは分子運動を考えれば容易に理解される。分子は平均自由行程進んで他の分子と衝突し、運動量を交換する。分子は静止した壁に衝突することで流れ方向の運動量を失う。次にその分子は再度壁から少し離れた分子と衝突し、再度運動量を交換する。このような過程を繰り返すことで壁から離れるとともに流れ方向の分子速度は増加し、速度分布が形成される。このように速度分布に伴うせん断力・せん断応力を運動量の移動とみることで、他の物質および熱の移動と関連づけられる。これが移動論の基本視点である。

粘度の性質1 温度依存性

粘度は気体と液体でおよそ100倍異なる。(水:1×10-3Pas、水蒸気:1×10-5Pas)粘度のひとつの特徴は気体と液体で温度依存性が逆であることにある。

気体の粘度の温度依存性について考える。図で面Aを通過する運動量を考える。分子の平均分子速度c[m/s](およそ460m/s)、平均自由行程l[m](およそ1.1×10-7m)とし、単位体積に含まれる分子数をNとすると、A面は(1/6)Ncの分子が通る。この分子の正方向の運動量(1/6)Ncm(u)y=l、負方向(1/6)Ncm(u)y=-l の差が「面を通した運動量の移動速度τ」となる。

mN=ρなので、

平均自由行程 l は圧力に逆比例、cは温度の平行根に比例する。よってμは温度に比例する。

これは気体の場合である。液体の場合は分子間力が支配的となるので、粘度の温度依存性はこの逆となる。

粘度の性質2 非ニュートン流体

流体について速度勾配とせん断応力の関係をとると、流体によっては必ずしも直線でなく図のような特徴的曲線となる。この曲線により流体が分類される。

A:ニュートン流体 通常の流体は原点を通る傾きμ一定の比例関係にある。このような流体をニュートン流体(Newtonian fluid)という。しかし一般に流体では図のように単純な比例関係に無いものも多い。これらを総称して非ニュートン流体(non-Newtonian fluid)という。

B:ビンガム塑性流体(Binbham plastic fluid) 固体粒子の懸濁液(スラリー)ではせん断応力がある値に達するまでは流動がおこらない。小さいせん断力では流動が起きず、ある応力から初めて変形すなわち流動がおこる。速度勾配ゼロで応力があり、この値を降伏値という。この性質を「塑性plastic」という。ビンガムが印刷インキで初めてこの性質を発見したので、この流体をビンガム流体と呼ぶ。顔料、ペンキ、タンパク質水溶液、クリーム類などがある。

C:擬塑性流体(pseudo plastic fluid) 粘性係数が速度勾配が増すにつれて減少する流体。コロイド溶液、塗料、高分子の溶液など、食品ではオレンジジュース、ソース類、マヨネーズ、チョコレート、練乳など。せん断力により流体内部分子同士の結合が切れることによると考えられる。

D:ダイラタント流体(dilatant fluid) 高濃度の固体懸濁液ではτが大きくなるほど流れにくくなる。この例は少ないが、海岸に濡れた砂の上を走れることや、デンプン粒が水に沈殿していると硬くなるような現象である。

このような非ニュートン粘性を相関式であらわすには、

Power Law Model:  μ=A (du/dx)B-1

Carreau Model: μ= μ∞+ (μ0 - μ∞) [1+ (A (du/dx)2] (B-1)/2

などの式が使われる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[参考資料] キリヤ 化学Q&A「トマトケチャップは液体固体?」

表面張力 

流体工学では液体と気体を同じように扱うが、この2相が共存する状態では界面があり、界面に沿って表面張力が働く。表面張力は気泡、液滴の生成、液面の波などに関与する。 

【例題】ピペットの先端などから落ちる水滴は 30 mg ( 質量 m = 30×10-6 kg)程度である。(これは水滴径にして 3.85 mm。)液滴が落下する直前のくびれ部の径を 2 mm ( d = 0.002 m) として、水の表面張力 γ を概算する。 
【解】(表面張力)×(くびれ部の周長さ)=(液滴に働く重力) より、 
γ π d = mg 。よって、γ = 4.6 ×10-2 N/.m = 46 mN/m

流体の圧縮性

密度ρ[kg/m3] の逆数が比容 v [m3/kg]である。流体の密度は温度と圧力により変化する。圧力により流体の密度が変化することを圧縮性(compressibility)と呼び、圧縮性をもつ流体を圧縮性流体(compressibule fluid) という。厳密には流体はすべて圧縮性であるが、液体のように圧力による密度変化がきわめて小さい場合は非圧縮性流体(incompressible fluid)として、密度・比容が一定として取り扱える。

層流と乱流

流体粒子が流れ方向に向かってすべて平行に動く流れを層流(Laminar flow)といい、流体粒子が流れ方向以外の方向にも分速度を持ち、その大きさを絶えず変化させながら流れる乱れた流れを乱流(turbulent flow)という。円管内流れの場合、管内の平均流速uは、層流の場合には管の中心速度の1/2であるが、乱流の場合は中心速度の0.81~0.83倍である。

層流か乱流かはレイノルズ数Reという無次元数で決まる。円管の場合は Re=Duρ/μで定義され、Re <2100ならば層流、Re >4000ならば乱流となる。(中間は遷移域)

流体工学で使う量

力・運動・エネルギー

圧力とせん断応力

流体中に面を想定し、その面の片側に働く力のうち面に垂直な成分を垂直応力(静止流体では圧力)、面に平行な成分をせん断応力(shearing stress)と呼ぶ。単位はともに[Pa]である。

圧力は圧縮する向きを正とする。せん断応力は必ず速度勾配のある場で生じ、速度差を少なくする方向(早い面を減速し、遅い面を加速する)向きに作用する。

応力と変形速度の関係

運動している流体中の6面体を考えると、各面に働くせん断応力(圧力を含む)は合計9個である。これを一点とみなすと、流体中の一点での応力Pは次ぎのテンソル式で表わせる。

ここで添え字2つのうちはじめのものはその軸に垂直な面、第二は力の方向を示す。例えば添え字xxはx軸に垂直な面にはたらくx方向の力すなわち垂直応力・法線応力(≒圧力)を示す。回転モーメントのつりあいから τxy=τxy, τxz=τzx, τyz=τzyがなりたつことは明らかである。

τyxはニュートンの法則よりの項を含み、τxyは同様にの項を含むはず。そしてτyx=τxyである。

, かつ

したがってごく自然な類推として、

同様に、

ここでは「x,y軸に平行な平面(z面)内の流体のせん断速度」をあらわしている。すなわち応力テンソルは変形速度に比例する。残る法線応力は非圧縮性流体ではこれに圧力を加えて、

と表わせる。当然静止流体ではせん断変形がないので圧力となる。(τxx=-p


演習レポート 1

【粘性により消費される動力】直径d=0.1mの軸が幅l=0.2mの軸受け中を N=(a×100+b×10)rpmで回転している。軸受けのすきまはy=(a×0.1+b×0.01)mmである。潤滑油の粘度を0.049Pa-sとして、この軸受けで消費される動力を計算する。

【解】(レポートはこの様式で)

軸の周速度 v[m/s]

   m/s

潤滑油の膜面積は

   m2

よって粘性抵抗力は、

   N

粘性抵抗により消費される動力は、

     N-m/s=        W

 


 

演習レポート 0

1.【単位の換算法】水の粘度(20)1.0cP(センチポアズ)。これをSI単位系での粘度の単位[Pa-s](パスカル秒)に所定の様式で単位換算しなさい。([P=g/(cm-s)], 1 Pa-s=10P

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2.【式の次元】オリフィイス計により管内の流量を測定する場合、管内流体の流速 u[m/s]とオリフィス前後の圧力降下Δp[Pa]に次式の関係がある。

             

ここでρ[kg/ m3]は流体の密度。比例定数cの単位はなにか。([Pa=N/m2], [N=kg-m/s2]

 

inserted by FC2 system