運動量の法則

 

ロケットはガスを吹き出すことで推進力を得る。壁に水流があたると壁に静圧以上の力がかかる。このような流れが物体(流体中の固体)に及ぼす力や物体の運動にともなう流体の動きは,巨視的に運動量の法則で理解される。ベルヌーイ式とならんで運動量法則は流体−物体間の作用に関する基礎的問題を理解するために重要である。

 

 流体の運動量

 

力学で運動量とは物体の質量 m と物体の速度 u の積,mu [kg-m/s]である。これが流体の場合,流体密度ρ [kg/m3],検査面を通る流量をQ  [m3/s]とすると,時間Δt [s]間に通過する流体の質量が ρQ Δt [kg]であるから,流体の運動量はとなる。

 

 運動量の法則

 

質量m [kg]の物体がはじめu 1 の速度で運動しており、これがt 秒間に他の物体にF [N]の力をおよぼしたことで速度がu 2 に変化するとき,

である。これはニュートンの第2法則と言って,物体の運動量の変化速度が物体に作用する力または外におよぼす力であることを示している。

これを流体について考える。流体の場合は対象領域を「検査面」で区切り,その出入りで調べる。密度ρ の流体が流量Q で流れており,検査面内の物体に力F をおよぼしている。検査面入口で流速u 1 ,出口で流速u 2 とすると,(質量)/(時間)が質量流量ρ Q [kg/s]であるので,上式のm/t をρ Q に置き換えれば流体に適用できる。すなわち,

であり,これを運動量の法則という。運動量の法則は「(定常流れにおいて)検査面に単位時間あたり流入した運動量と流出した運動量の差がその検査面内の物体に加えられた力に等しい」と言い表せる。 また,入口・出口で圧力差がある場合には検査面境界に力Fp がかかることになり,これを考慮する場合は,

である。 以上は1次元で考えたがu, F をベクトル量に置き換えれば,2次, 3次元でも同じ法則となる。

 

運動量の法則の応用 噴流

速度u 1 の噴流が平板に垂直にあたっている場合に、平板に働く力を求める。 噴流の方向のみの運動量を考えると検査面の出口ではこの方向の運動量は 0 である。したがって、板に働く力F は、 FQu1 [N] である。

【例】流速u 1 =5 m/s, 直径 D =0.01 mの水の噴流が垂直に平板に衝突する場合に平板におよぼされる力を求める。

 上式より

 

 傾斜平面への噴流

図のような速度v の2次元噴流に対して角度θで平板が置かれている。流体−壁間の摩擦を無視すると噴流は平板に衝突後も同じ速度v で平板に沿って流れる。平板に垂直な方向にx 軸,平行な方向にy 軸をとり(z 方向は単位幅),検査面を図のようにする。x方向の運動量は入口で出口1,2で 0 である。平板におよぼされる力はx 方向のみにかかり,これをF とすると,運動量の法則は

である。y 方向の運動量は入口で出口1で 出口2で であり,板に及ぼされる力は 0 である。よって運動量の法則は, である。 を考慮すると,流量の配分は である。

 

 噴流と推力

ジエットエンジンは吸入した空気と燃料を燃焼させ、発生した燃焼ガスを後方に噴出することで推力を発生する。エンジン入口・出口での流体密度ρ、平均流速u 、断面積A を各々1, 2であらわすと、 。 物体(エンジン本体)は流れ方向と逆向きに力F を受け、これが推力(thrust)となる。

【例】 ジェット機の飛行速度が139 m/s(=500 km/h),エンジンの排気速度が1000 m/s,エンジンの吸気口における空気の質量流量が3.0 kg/s,燃料の消費が0.15 kg/sのとき推力を求める。

質量流量が上式のρQ であるので,

【例】 容器内の圧力により水(密度ρ=1000 kg/m3)を噴射して発射される,ペットボトルロケットの推力を計算する。容器内圧力P 1= 201 kPa, 噴出ノズル断面積 a = 0.0002 m2とする。

 噴出速度u 2 を求めるため図の流線上1, 2間でベルヌーイ式を適用すると, より,

である。Q =au2であることから運動量の法則より次式となり,推力(上昇力)が得られる。

 

 絞り管にかかる力

断面積がA1からA2へ縮小する絞り管を通して流体が流れている。このとき絞り部の管にかかる力を考える。検査面入口(絞り管入口)の圧力がP1, 絞り管出口の圧力がP2とすると,この圧力差により検査面にかかる力は。よってこれを考慮した運動量の法則式は次式である。

【例】 絞り管の断面積がA1=0.03 m2, A2=0.008 m2の絞り管部に流量Q =0.15 m3/sで水が流れているとき,絞り管部に働く力を求める。P1=300 kPaであった。

流速は,。ベルヌーイの式より, なので,P2=136 kPaである。よって運動量の法則より,

である。

 

 曲がり管に働く力

断面積A の90°曲がり管を流体が流量Q ,流速u で流れるとき,曲がり管に働く力を考える。管内圧力はP である。x, y 2方向を考えると,x, y各方向についての運動量の法則は次式となる。

F はこれらの合力で である。力F の方向は入口流れ方向から45°の角度である。

【例】 管径D = 0.4 mの配管内を水が平均流速u =10 m/sで流れている。管内の圧力はP =0.1 MPaである。90°エルボ部にかかる力を求める。

 

 角運動量の法則

運動量を軸のまわりの角運動量、力を同じ軸まわりのトルク(モーメント)に置き換えると角運動量法則が得られる。角運動量は質量,モーメントアーム,速度v の接線方向成分の積: mrv cosα である。トルクT は力の接線方向成分とモーメントアームの積:Fr である。

図において羽根車中で旋回しかつ外側に流れる流体を考える。この絶対速度をv 周速度u とする。 v は羽根車の面に垂直な速度である。ABCDの流体が微少時間Δt 後にA’B’C’D’へ移動した。その流量をQ、密度をρとすると、Δt 間にABおよびCDを通過した質量m はρQΔtである。この間に流体はABB’A’分の角運動量 を失い、CDD’C’分の角運動量 を得た。この差を時間Δt で割ると各運動量の時間変化率となり、これが流体に働いたトルク(モーメント)T に等しい。

これを角運動量法則という。すなわち流れのもつ角運動量の時間変化はトルク(モーメント)T に等しい。

 

 流れ中の回転体に働く力

流れ中に置かれた回転体は上下の流速の差により垂直方向の力(揚力)を受ける。これを一般にマグヌス効果という。ベルヌーイの定理より回転体表面で流れの速くなった側の圧力が低くなりそのために力が働くと解釈される。

理想流体流れの理論によると円柱の回転渦強度:

より円柱単位長さあたりの揚力L [N/m]は, L =ρΓu となる。これをクッタ−ジューコフスキーの定理と呼ぶ。(理想流体を考えているので,実際には関与するはずの流体粘性μが入っていない。)

図 理想流体における円柱周り流れと循環をともなう流れ

【例題】 u = 10 m/sの空気流れ中で,N = 20 /sで回転している径D = 0.05 mの円柱に働く揚力を求める。


(空気中での実測はこれより1オーダー小さいようである。)

参考>NASA資料

 飛行機はなぜ飛ぶか -翼の揚力とは-

飛行機はエンジンの推力*)で揚力を得て,空気中に浮く(飛ぶ)のですがそれはどのくらいの力で可能となるのでしょう。ジャンボジェット機の質量は333 tonですので,働く重力は3.3 MNです。これをその翼面積(511 m2)で浮かせるには(重力)÷(翼面積)で,単位面積あたり6.4 kN/m2の力が必要です。この力(揚力)は圧力としては6.4 kPaです。つまり翼の下面の圧力が上面よりΔP = 6.4 kPa大きければ,ジャンボジェット機を浮かすことができます。(図1)この圧力は大気圧(101 kPa)に比較してそれほど大きくはないので,実在の可能性があり,実際,ジャンボジェット機は飛んでいる(浮いている)わけです。

この圧力をベルヌーイの定理:
    ΔP = ρ (Δu )2/2 (数値例: 6400 Pa=6400 N/m2= 1.3 kg/m3 ×(99 m/s)2/2 )
で流速の差Δu に変換します。すると,Δu =99 m/sです。ジャンボジェット機が巡行速度で飛んでいるときは, 向かい風流速 222 m/s(= 800 km/h)に対して,翼の上面で相対的に+50 m/sの,下面で逆方向(進行方向)に- 50 m/sの,付加的な流れが生じていることになります。ではこの流速差の原因は何でしょう。

この翼上下の流速の差を生じさせているのが翼まわりの渦です。一般に流体中の渦は2次元では対にでき,3次元では渦輪として生じます。前者は水面の渦,後者は空気砲でおなじみです。(図2) (循環は足して零になる。(ヘルムホルツの定理))

飛行機の翼について,2次元で考える場合は,翼後方に生じた渦の対の循環流れが翼の周囲に発生していると考えられます。(図3)これは流れ中の円柱の後方に出来る 「カルマン渦」と類似の現象です。流れ中の円柱は下流にできる交互のカルマン渦により上下に力(揚力)を受け,振動することは電線の振動などで日常経験することです。 (カルマン渦による揚力発生は数値計算でも確認されています。 )飛行機の翼では,形状と向かい角によりこの後方渦を一方向(左を進行方向として時計まわり)に発生することで,翼上面の流れが加速されるような循環流を常に生成しています。これにより翼上下に圧力差がもたらされ,揚力として現れるわけです。

流れ中に回転する物体があると,流れに垂直方向に力(揚力)を受けることはマグヌス効果として知られています。野球のボールの動きなどでよく説明されています。この揚力は,物体の動きに引きずられた表面の2次流れにより物体上下に速度差が生じ,ベルヌ−イの定理に従い圧力差が生じることで発生するものです。(これは万人が納得。)次に流れ中の回転していない円柱を考えます。この場合も流れの速度が速くなると円柱は振動します。すなわち交互の揚力が発生します。この原因が円柱後方に交互に発生するカルマン渦であることも知られています。円柱後方の渦の発生は円柱まわりに対の渦を生じ,これが上のマグヌス効果と同じ原理で揚力を発生しています。(これも納得してもらえますか?)そして,飛行機の翼は後方渦を一方向に発生させることで,翼まわりに常に同じ方向の渦を発生させて揚力を得ているのです。(これでどうでしょう。


 (参考) 流れ中で回転する物体は垂直に揚力を受ける(マグヌス効果)


 (参考) 回転していなくても流れ中の 円柱は後方に出来るカルマン渦により揚力を受ける

3次元的には翼後方の渦が翼の直後にある必要はありません。図4のように,飛行機全体が大きな渦輪の一部であるような渦により,翼まわりの流れが生じてい ます。この飛行機の後方に常に発生している対の自由渦は,雲や空気の条件で見えることがあります。(YouTube資料に実験があります。)



参考資料 1) 永井實,イルカに学ぶ流体力学,オーム社(1999)

YouTube資料 C-5A Wing Vortice testsBoeing 747 Wing Tip Vortex Test Airfoil starting vortexhow wings work? Smoke streamlines around an airfoilTacoma Narrows Bridge【ゆっくり解説】ホントの揚力理論【ゆっくり解説】飛行機はなぜ飛べるのか?【揚力理論】

基礎科学研究所:飛行機はなぜ飛ぶかのかまだ分からない??


*) ジャンボジェット機のエンジンの推力は209 kN×4基で,合計0.84 MNです。自重にかかる重力 3.3 MNの1/4のパワーで飛べていることになります。(機体をそのまま垂直に持ち上げるにはエンジンが16基以上必要。)


 演習

 

【4-1】車輪をつけた水タンクの底から水を噴出させて,タンクを動かす。推力F を求めよ。噴出孔から水面までの高さH = 0.6 m, ρ=1000 kg/m3, 噴出孔断面積 a = 0.0001 m2とする。

【解】 噴出速度u2を求めるため図の流線上1, 2間でベルヌーイ式を適用すると, である。Q =au2であることから運動量の法則より次式となり,推力(上昇力)が得られる。

【4-2】水の噴流が速度10 m/s, 流量0.02 m3/sで曲面にあたり180°向きを変えられた。曲面に働く力を求めよ。

 


 

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