物質保存の法則

物質保存の法則をある系(管路、装置、プラントの一部および全部)に適用して、着目物質の出入り・蓄積の収支関係をとることを物質収支(matrial balance)という。物質収支をとること、とれることがケミカルエンジニアのアイデンティティである。

連続の式

断面積の異なる管を流れる流体を考える。各断面(面積A1,A2)の平均流速をu1, u2とする。物質保存の法則により、各断面を単位時間に通過する物質量すなわち流体の質量は等しいので、

w

これが簡単な形式の連続の式である。 w[kg/s]は単位時間あたりの流体の質量で質量流量(mass flow rate)と呼ぶ。管内の定常流れでは管の任意の断面における質量流量はどこでも等しい。このことを連続の式(equation of continuity)という。

流体が非圧縮性(ρ12)なら次式となる。 =V

この場合は任意の断面における体積流量V[m3/s]が等しい。

連続の式 2

図のような微小立方体要素を通過する密度ρの流体の流れについて各面で物質収支をとる。Δt時間にこの要素に

蓄積する量=

流入する量=

流出する量=

(蓄積)=(流入)−(流出)の関係に以上の式を代入して、Δを0に近づけると以下偏微分方程式となる。

これが流体力学における正式な連続の式である。ベクトル形式では以下のよう。

(・:内積、:ベクトルの微分演算子ナブラ)

ベルヌーイの定理・エネルギー保存則

管内を流れる流体に各種のエネルギーが加えられている場合について、入り口断面1と出口断面2間のエネルギー収支を考える。 基準面からZ1, Z2[m]の高さにある管断面1,2における流体の平均流速を1, u2 [m/s]、圧力P1, P2、流体1kgあたりの内部エネルギーU1, U2[J/kg]とする。流体には中途でポンプまたはブロアによって機械的エネルギーW[J/kg]が、加熱器によって熱エネルギーq[J/kg]が与えられる。v[m3/kg]を流体の比容(=1/ρ)とする。エネルギー保存の法則により、断面1を通過するエネルギーと、断面2までで加えられたエネルギーの和が、断面2を通過する流体のエネルギーに等しい。

右辺の各項は順に(運動エネルギ)、(位置エネルギ)、(圧力エネルギ)、(内部エネルギ)、(途中で与えられたエネルギ)の意味をもつ。この式の各項の単位は[J/kg]。この式を全エネルギー収支の式という。

ここで(圧力)×(比容)=Pvの項がなぜエネルギになるかというと、流体が圧力Pに逆らって管内に流入するためにはPvの仕事が背後の流体によって加えられなければならないからである。体積で考えると、この場合の流体の流量をV[m3]とすると、断面1で流体が受けている力はP1A1 [N]であるから、単位時間の仕事は、P1A1u1=P1V[N-m/s=J/s]であり、断面2における流体が前に進む流体に与える単位時間の仕事は、P2A2u2=P2Vである。よってこの断面間で流体が圧力差により得たエネルギーはこの仕事の差分である。
P1V - P2V [J/s]

上の式はこの項を質量流量ρV[kg/s]で割り、単位流体質量あたりに換算したものである。

圧力のエネルギーと内部エネルギーの和すなわち

(エンタルピー)

は流体1kgあたりのエンタルピーであるから、これをiであらわすと、次のようにも書ける。

流体が断面1から2まで流れる間に、ポンプで流体に与えられた機械的エネルギーは管壁と流体の摩擦などにより熱ネネルギーに変化する。この機械的エネルギーの損失量をF[J/kg]であらわす。熱力学の第一法則により、この機械的エネルギー損失(摩擦損失といってもよい)と加えられた熱エネルギーとの和は、流体の内部エネルギーの増加量と流体自身が圧力に抗してv1からv2まで膨張するさいに行った仕事との和に等しい。

各項は順に(内部エネルギー増加)+(仕事)=(外部からの熱)+(摩擦によるエネルギー損失)

の意味を持つ。

また、

なので、エネルギー収支式は次式のようにも書ける。

流体が非圧縮性の場合には、

これらの式は最初のエネルギー収支式の単なる書き換えであるが、見かけ上は熱エネルギーの項を含んでいないので、機械的エネルギー収支と言う。この式をベルヌ ーイの式(Bernoullis equation)という。この各項[J/kg]を重力加速度g[m/s2]で割ると各項は[m]単位となる。([J]=[N-m]=[kg-m2/s2])流体のエネルギーを位置エネルギーであらわしたものである。この単位の各項を 頭(head) とよぶ。

u2/(2g):速度頭 Z:位置頭 Pv/g:圧力頭 F/g:頭損失

さらに流体に粘性がなく(したがって内部摩擦がなく)、ポンプなどが無い場合は、W=0, F=0だから、

のように簡単なる。この式は運動、位置、圧力の各エネルギーの和が一定になることを示したもので、ベルヌイ式の基本形である。

【例題】ポンプで25mの高さに液を上げている。A槽とポンプは内径50mmの管で、ポンプ出口からは内径30mmの管が使用されている。50mm管の内部を流れる液の流速は1.5m/sで、ポンプで流体に与えられる動力は1kWである。 液密度850kg/m3とする。この輸送の全頭損失を求める。

 

【解】A槽の液面を基準面にとり、この液面を断面1、30mm管の液出口を断面2としてベルヌイの式を適用する。断面1における流速u1は液面の降下速度であるが、液面の面積が断面2に比べて十分大きいので, u1=0としてよい。

u2=(1.5)(50/30)2=4.17m/s

質量流量 ω=(π/4)D2uρ=(π/4)(0.05)2(1.5)(850)=2.5kg/s

よって流体1kgあたりの動力は、

W=1000/2.5=400J/kg

各量をベルヌーイの式に代入する。

u21/2

+gZ1

+P1v

+W

=

u22/2

+gZ2

+P2v

+F

0

0

0
(P1=P2)

400

 

(4.17)2/2

(9.8)(25)

0

 

よって

F=146J/kg

頭損失としては、 F/g=14.9m。これは粘性抵抗により失われたエネルギーを位置エネルギーとしてあらわしたもの。このエネルギー分は熱として失われた。

【例題】海水(ρ=1025kg/m3)がポンプで0.12m3/sの速度で送られている。ポンプ前後の入り口管、出口管の径はそれぞれD1=0.205m, D2=0.131mである。出口は入り口より1m上にある。ポンプ前後の圧力計の読みはそれぞれ、-18.6kPa, 65.3kPaであった。ポンプはどれだけの仕事率を流体に与えているか。

【解】u1=Q/A1=(0.12)(4)/(π×0.2052)=3.636m/s

u2=Q/A2=(0.12)(4)/(π×0.1312)=8.905m/s

各量をベルヌーイの式に代入する。

u21/2

+gZ1

+P1

+W

=

u22/2

+gZ2

+P2

+F

3.6362/2

0

82.7E3/1025

   

8.9052/2

9.8×1

166.6E3/1025

0

よってW =124J/kg。 質量流量はw =1025×0.12=123kg/s。したがって仕事率は、

wW =123×124.1=15.26×103J/s=15.26kW

 

【例題】絞りを設けた管を水平におき、これにV=0.028m3/sの体積流量で水を流すと断面1,2にはどれだけの圧力差が生じるか。これを水銀マノメータで測ると水銀柱の差として何mmになるか。

【解】各断面での平均流速は、連続の式から、

各量をベルヌーイの式に代入する。

u21/2

+gZ1

+P1v

+W

=

u22/2

+gZ2

+P2v

+F

3.572/2

0

 

0

 

(14.28)2/2

0

 

0

水の比容v=(1/1000)m3/kg。よって P1-P2=95 444Pa=95.4kPa。

水銀の密度ρ=13600kg/m3。水銀マノメータの高さは

 

【例題】速度u0の一様な流れの中の円柱の周囲の速度は
u =2u0sinθ
となる。 u0=1m/sのとき、θ=0
°、30°、90°では円柱周囲の圧力が上流に比べてどれだけ変わるか。

【解】ベルヌーイの式より、

すなわち

θ=0°では、 u =0であるから、
p0-p=-(1000/2)
×12=-500Pa

となり、圧力が高い。(速度を持つ流体がせき止められると圧力を発生する。(静圧))

θ=30°では、 u=2u0sin30°=u0であるから、
p0-p=0 となり、周囲圧に同じ。

θ=90°では、 u=2u0sin90°=2u0であるから、
p0-p=(3ρ/2) u02=1500Pa となり、減圧となる。(揚力)

 

【例題】図のような噴水の噴出速度u, および噴出高さHを求める。

【解】噴出口部分について、

より、u =(2×169 000/1000)1/2=19.8m/s。

噴出口と噴出頭間にベルヌーイの式を適用して、

より、H=19.82/(2×9.8)=20m。

 


演習レポート 4

【演習1】ベルヌーイ式の記号の定義および単位を書く

 

【演習2:トリチェリの定理】貯水タンクの水面からD [m]の深さの側壁の直径0.6mの孔から水を噴出させるとき、その噴出速度を求める。

【解】この場合、圧力は等しい(大気圧)とするとベルヌイの式より、

また、大きな容器では液面の降下速度u1は無視できる。したがって、

これをトリチェリの定理(Torricellis theorem)という。しかしこれは理論的な取り扱いで、実際には流出時の損失をさらに考慮する必要がある。(後述)


 

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