管内流れの速度分布

 


層流と乱流

管内流れは層流域と乱流域で状態が大きく異なる。管内の流量が増加すると層流から乱流に遷移するが、その変化がどのような条件で決まるかを実験と深い考察により示したのが英国の物理学者レイノルズReynolds(1883)であった。


彼は管内の流動状態を観察するためインクを管内流れに導き、その乱れの変化を流量、管径と水温(密度と粘度)を変化させて観察した。その結果と次元解析に似た考察により以下の結果を得た。

管内流れが層流か乱流かは、レイノルズ数(Reynolds number)と名づけられた無次元数Reの大きさにより判別される。

ここでl は流れの代表長さ、代表流速u、流体の密度ρ、粘度μである。Re数は無次元数であるから同じ状態であれば使用する単位系にかかわらず値が同じである。管内の流れに対しては、流れの代表長さlに管の内径Dを用いて、ReuD/μを用いる。

円管内ではRe <2100ならば層流、Re >4000ならば乱流となる。この間のRe =2100-4000の範囲では不安定であって、遷移域(transition region)と呼ばれる。一般に流動が層流から乱流に変化するときの Re を臨界レイノルス数という。この値はレイノルズが実験的に得たRec=2300が多く採られており(そのほか2000, 2100, 3000などが教科書に書かれている)、状態によってはこれより大きいReでも層流が保たれるが、これが下限である。

境界層流れにおいては平板レイノルズ数Rexは平板前端からの距離xにより Rexux/μ で定義される.このとき主流にかなり乱れがある場合の層流-乱流遷移はRex =3×105 である.これは円管の臨界レイノルズ数2000とはずいぶん違う。しかし前章の図のようにControl Volumeを考えると、代表的速度勾配はu/δ(δ:位置xでの境界層厚み)なので,Reδu δ/μとなる.境界層では Reδ= 5.0√Rex (δ/x = 5.0/√Rex )なので、これを使うと遷移はReδ=2700となり、円管に近くなる.(円管のほうは径 Dでなく半径 r を使ったRe が対比できる)

結局,円管でも平板上でも,流れ込む運動量が速度勾配のせん断力により伝わる運動量Fluxの1000倍以上になるともはや定常な速度勾配によって運動量は移動しきれずに"渦"で移動し始める、と言うことができる。

管路の断面が円形でない場合には、 Re 中の代表長さとして次式で定義される相当直径(equivalent diameter)De を用いれば乱流遷移、圧力損失などが円管と同様に取り扱える。

De=4 S/lp

ここでS は流れの断面積、lp は流体が接触している固体壁周辺の長さ、すなわち浸辺長(wetted perimeter)を表わす。

円管内の層流の速度分布

前章で基礎式であるナビエ・ストークスの式からこれを簡略化することで管内層流速度分布を求めたが、ここでははじめから導出してみる。

半径r0のまっすぐな水平円管内を流体が層流で流れている。管内流体中心軸上の半径r, 長さLの円柱に働く力のバランスを考える。断面積πr2 の円柱の両端面にはP1,P2の圧力がそれぞれ反対方向に作用し、表面積2πrL の側面には流体の粘性にもとづくせん断応力τが流れと反対方向に働く。これらの力がバランスして、

π2(P1-P2)=πr2ΔP=2πrLτ

すなわち τ=ΔPr/2L である。層流のせん断応力はτ=-μ(du/dr)であるから、これを代入して、

が得られる。これをr=r0; u=0の条件で積分すると、円管内層流の速度分布として次式が得られる。

これは放物線型の速度分布を表わす。速度分布u は管の中心(r =0)で最大となり、

で与えられ、この値を用いると速度分布は、

円管の全断面積についての平均流速は、

すなわち、平均速度は中心速度の1/2。

さらに上式より、実用上重要な管内の圧力損失が次式となる。

これが放物線速度分布から求められた、円管内層流における流体の内部摩擦にもとずく圧力損失をあらわす理論式で、ハーゲンーポアズイユ(Hagen-Poiseuille)の式という。

 

管内の乱流の速度分布

厳密には乱流状態では同一位置でも速度がたえず変動しており、決まった速度分布というものはない。しかし工学的扱いでは時間的の平均値をもちいれば十分である。乱流における速度分布とはこのような時間平均値を意味している。

円管内乱流の最大速度umaxはもちろん管中心にあるが、管内平均流速umumaxの関係はRe数に依存して、um / umax =0.75-0.85にある。

円管内乱流の速度分布uに関しては膨大な研究と多数の方法があるが、(1)対数法則と(2)指数法則を述べる。

対数法則

 対数法則は半理論的に得られたもので、管壁から管中心までを3部分にわけ、各部分の速度分布の式を与えたものである。まず管壁面に働く摩擦せん断力τwにより摩擦速度u* を定義する。

これで速度を無次元化する:u +=u /u*

また、壁からの距離xを、

で無次元化する。(一種のレイノルズ数)これにより平滑面管にたいする速度分布は次式であらわせる。

x +でわけられた各領域はそれぞれ層流底層、遷移層、乱流本体と呼ばれる。この対数法則はRe数に無関係な一般的速度分布(universal velocity distribution)である。この式は平板に沿って流れる乱流の速度分布に対しても適用できる。

対数法則2 

乱流の構造に間する基礎モデルとして、混合長のモデルがある。これは乱流中のせん断力を:

で与えるものである。l がPlandtlの混合長というもので、分子運動における平均自由行程を乱流中の渦に対して考えたものである。第2項中のρl 2(du/dx)が乱流における粘度に相当する。

この第2項だけを考え、管壁付近について書くと、
 すなわち、

管壁付近ではと考えてよく、また混合長は壁付近ではκを定数として、
とおくことができるので、上式は摩擦速度により、 となる。これを積分すると、

を得る。定数を実測に合わせると、

が乱流の速度分布を表す式となる。この式も乱流の速度分布に対する対数則という。

 

指数法則 

指数法則は次式:

で与えられる実験式で、管壁に近い部分を除けば実測値と一致する。指数nRe数により変化する。平滑面管の場合にはRe が4×103から3×106まで変化すると、n は6から10まで変化する。Re <105の範囲ではn =7が実測値とよく一致するので、n =7の場合を特に1/7乗則という。

管内平均流速は、で与えられるから、指数法則を代入すると、

である。=7とすると、

Plandtlは以下のようにこの1/7乗速度分布を導いた。円管の半径をr0とする。管壁での摩擦力はτw=ΔPr0/2L であった。摩擦係数の定義から、

乱流範囲の管摩擦係数はBlausisの式:

が知られている。(Re =2r0ρum/μ) (um:管内平均流速)よって、
kは定数)
である。速度分布: を考えて、また、umumaxに比例することから、
。これを代入すると、
管壁の近くの速度分布は管壁からの距離yのみに比例する(層流底層)から、τwr0に無関係なはずである。よって、

すなわちm=7となる。よって速度分布は

Plandtlはこのようにして圧力損失の実測関係から乱流の管内速度分布を予測した。これを1/7乗則速度分布式(seventh power law)という。(先の無次元数によると)

助走区間

管入り口から一様速度で流入すると、管壁に沿って境界層が発達し、それが厚みを増して中心部に達すると、管内の速度分布は一定(放物線速度分布など)になる。この十分に発達した流れ(Fully developed flow)に達するまでの区間を助走区間(entrance region)、その長さを助走距離X (inlet length)という。

層流の場合X/DReの関数でBoussinesqによると、

である。例えばRe=1000のときX/D =65となり、管径の65倍の距離を経なければ定常速度分布にならない。助走区間では圧力損失が余分に生じる。オリフィスによる流量測定や毛細管による粘性係数測定では特にこの点に注意する必要がある。

 


演習レポート 8  (方眼紙で提出)

管の半径r0 =0.025m, 管の長さL =20mの円管中を、ρ=1000, μ=0.001 Pa・s の水が流量V (0.01〜0.02 m3/s)で流れる。このときの圧力損失はΔP= -9.93×104Paであった。管摩擦係数f = 0.0036とする。

  1. 平均流速[m/s]、レイノルズ数 、壁面せん断力 、摩擦速度  の諸量を計算する。

  2. 次表で乱流および層流の管内速度分布を計算する。

     

    r/r0

    x/ r0

    指数法則

    対数法則

    層流

    管壁

    1

    0

    0

    0

    0

     

    0.9

    0.1

         
     

    0.8

    0.2

         
     

    0.5

    0.5

         
     

    0.2

    0.8

         

    管中心
    uMAX

    0

    1

     

  3. 管内速度分布を描く


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