日常の化学工学 風船はどこまで飛ぶ −風船の滞空時間−


「風船はなぜしぼむ」に続く 風船シリーズ 第2段は,風船はどこまで飛ぶか・・は風船はどれだけ浮かんでいられるかなので,工学的に風船の滞空時間を推定する方法を考えます。

「風船はなぜしぼむ」同様,ゴム膜を通してのガスの透過の基礎は透過係数Q に関する次式です。
       
すなわち,膜面積A [cm2]の高分子均質膜を通過するガスの透過速度P [cm3(STP)/s]は,膜を介しての分圧差Δp [cmHg]に比例,膜厚みδ[cm]に反比例し,その比例定数が透過係数Q となります。透過係数は膜材料と透過ガス成分の組み合わせで決まる物性値で ,単位はここでは[cm3(STP) cm/(cm2 s cmHg)]とします。

【例題5.1】風船の浮いている時間<memb19.xls>

直径30 cm, 容積V =14130 cm3のヘリウム入り風船 を考えます。ガスの膜透過を考慮して,この風船が浮いている時間を求めます。ただし,簡単のため空気は窒素100%と仮定します。この計算に必要な 風船ゴムの質量,密度,ガスの透過係数は図5.2のシートのセルG1:G5のようであるとします。

風船の ゴム膜を通して,ヘリウムは風船内を出て,一方,外側の窒素は風船内に進入します。このことを,風船中のヘリウム体積V Heと窒素体積V N2に関する膜透過の基礎式(5.1)で書くと次式の微分方程式になります。 (もちろん風船内はHeとN2の混合ガスですが,V HeV N2は各成分に分けたとしての大気圧下での体積でとします。)
       

この微分方程式では,面積A, 膜厚みδ,およびxV HeV N2の関数であるところがメンドウなところです。それらはシートのセルG6:G10で計算されています。

この連立常微分方程式を積分することで風船内のガス量(V HeV N2)の経時変化が求まります。V Heが減りV N2が増加するにつれ風船内ガスの密度が上昇し,風船の浮力が低下します。風船にかかる力:

が0になるまでが風船が浮いていられる時間となります。 (g:重力,VM:モル体積[cm3/mol), Mi: 分子量[g/mol])

図5.2のExcelシートが「微分方程式解法シート」です。定数や膜面積A などをG1:G10に設定し,B5:C5に微分方程式(5.2), (5.3)を記述します。V HeV N2の初期値をB12,C12として,ボタンクリックで積分を実行します。V HeV N2の経時変化が求まるので,これらより,G, H, L列に風船の直径,風船内組成,風船にかかる力を求めます。図中のグラフにこれらを図示しました。

結果は5.7時間でかかる力が0となるので,これが滞空時間の推定値となります。



図5.2 風船膜透過の微分方程式解法 <memb19.xls>


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