生活を支える化学技術−化学工学への招待− 伊東担当分第2回 

Separation の夢  分離技術のアイデアと実現

分離と ものの価値

図はいろいろな素材製品の価格をその原料中の存在比との関係でプロットしたものである。このようなプロットをSherwood Plotと呼ぶ。製品は原料から分離された純成分であるから、この図は

製品の価格は原料の価格でなく、それからの分離に要する費用が支配している

ことを示している。

注:Sherwood(シャーウッド)氏は化学工学分野の著名な学者であり、名著 Mass Transferは標準的教科書である。化学工学の物質移動に関する基礎的無次元数Sh数(シャーウッド数)としてその名が記念されている。

また右図は

生物分野における酵素などの価格

と存在比をSherwoodプロットしたものである。ここでも分離の費用が製品の価格を支配していることが見て取れる。さらに、身近な薬品のカタログでもたとえばエタノール(エチルアルコール)の500mlの価格(\)を調べると、純粋なものほど価格が高い。

 

消毒用エタノール \700
無水エタノール(薬局) \920
エタノール一級(試薬) \1,300
エタノール特級(>99.5%) \1,400
脱水エタノール(水分50ppm以下) \4,000

普通はものの価値は原料の価格によると思われるだろうが、じつはそれを製品まで

「分離」する手間がそのものの価値を大きく支配

している。例えば金やウランは海水中にも多量に溶けているが、その存在比が小さいので、海水から回収しても採算がとれない。しかし、これは現在の分離技術の現状ではコストがかかりすぎるということであり、画期的な分離技術が将来開発されれば実現されるかもしれない。実際、海水中のウラン回収は、吸着法によりもう一歩で鉱物ウランに対抗できるところまできている。Sherwoodプロットの直線は分離技術の現状をあらわしているだけであり、これを打ち破る

分離技術の開発がこそ工学(化学工学)の使命

であろう。

分離技術に正解はない。

ものを分ける方法、プロセスはいくらでも考えられる。その

アイデアの多くはだれでも考え付く簡単なもの

である。しかしそのアイデアが分離技術として証明され、かつ最もコストの安かったプロセスのみが実現する。本講では、海水の淡水化とエタノールの分離に例をとり、分離に関するどんな

アイデアと夢がどのように実現されているか

を紹介する。

どのような性質を使ってものを分けるか

分離技術は目的物質の物理的・化学的性質を使ってプロセス(処理工程)として実現する。

物質の性質はいろいろあるからそれをもとにした分離プロセスも幾種類もある。

物理的/化学的性質  分離プロセス 海水淡水化 エタノール分離
分子の大きさ 濾過 精密濾過 透析 ガス分離 ゲル浸透クロマトグラフィー
蒸気圧 蒸発 蒸留 膜蒸留
凍結点 晶析 冷凍  
分離剤に対する親和性 抽出 吸着 吸収 パーベーパレーション アフィニティクロマト  
電荷  イオン交換 電気透析   
密度  遠心分離    

 



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