海水に溶解している塩類の濃度はおよそ3.5wt%。紅海の4.3wt%,バルチック海の0.7wt%まで変化する。これらはイオンとして完全に解離している。その組成は表のようであり、このほか微量の金(0.03×10-10〜440×10-10重量分率)やウランが溶解している。
海水中の溶解塩の組成 | wt% |
Na+ | 30.6 |
Mg2+ | 3.7 |
Ca2+ | 1.2 |
K+ | 1.1 |
Cl- | 55.0 |
SO42- | 7.7 |
HCO32- | 0.4 |
Br- | 0.2 |
飲料水は塩濃度が500ppm(0.05wt%)以下でなくてはならない。塩濃度が海水ほど濃くない水(1500〜10000ppm)を「かん水」と呼ぶ。
溶媒(水)は通すが溶質(イオン)は通さない半透膜をはさんで、純溶媒(水)と溶液(海水)を接触させる。すると純溶媒が溶液の側に浸透しようとする。この現象は漬物を作るとき塩を振って水を抜く場合のように、身近な現象である。熱力学的には、蒸気圧降下により溶液上(海水)の溶媒(水)の蒸気圧は低下しているため、蒸気圧の大きい純水側から低い側に水が移動することと解釈される。溶媒側に圧力を加えて、浸透が止まる圧力を浸透圧とよぶ。
海水の浸透圧πは約25気圧(25×105Pa)である。1molの海水を浸透圧に逆らって可逆的に膜透過させるエネルギー(最小仕事)Wminは、
Wmin=πVw=25×105N/(m2)・18×10-6(m3/mol)=45J/mol
すなわち得られる真水1m3あたり約0.69kWhである。(Vwは水のモル容積)半透膜で水だけを膜透過させて淡水が得られれば、その必要エネルギーは最小であると予想される。(水の1molを蒸発させるにはこの1000倍の 40
600 Jが必要である)
海水から真水を得る最も簡単なアイデアは水だけを蒸発させて、その水蒸気を凝縮させる蒸留である。塩イオンは蒸発しないから凝縮液は純水である。実際上は溶解塩により、はじめから100.5℃に沸点上昇しているし、さらに塩濃度が上がればさらに高温が必要である。このプロセスに必要なエネルギーはおよそ水の蒸発潜熱に等しく、40 600J/1mol真水=626kWh/1m3真水。
単蒸留で蒸発した蒸気の潜熱をもう一度利用して再度原料水の蒸発に使うアイデアが多重効用蒸発プロセスである。同じ温度では熱が移動しないので、下段ほど温度を低くして操作しなくてはならない。減圧することで下段ほど沸点を低下させている。
プロセスの駆動力は第一蒸発缶に送入される105℃のスチームである。このスチーム1kg の凝縮潜熱で3kgの真水が得られる。基本的にはn重効用缶ではエネルギー消費は1/nとなる。
実用上の効用缶数は固定費により制限される。固定費と運転費の合計が最小となるのは約10重効用に相当する。よって10重効用缶による淡水化エネルギーは、4 056J/1mol真水=63kWh/1m3真水。
多重効用缶は牛乳の濃縮など多くの適用例があるが、海水淡水化では次のプロセスが主役である。
多段フラッシュ蒸留法では同じ段で蒸気が凝縮されるので、蒸発缶の伝熱面が不要である。そのかわり高流速で加熱したかん水がプロセス中をリサイクルしている。かん水の冷却(66K)により水の蒸発潜熱を支給している。水66Kの冷却で生じる熱(顕熱)は6250J/molなので、この熱で水1molを蒸発させるには6.5molのリサイクルかん水が必要である。実際のプロセスでのリサイクル比は7.3。投入する熱エネルギーはリサイクルかん水の加熱用に使われる。116℃かん水を5K加熱するには376J/mol必要なので、このプロセスの必要エネルギーは2 741J/1mol真水=42kWh/1m3真水。
冷凍により海水から氷を得れば簡単に真水が得られる。必要エネルギーは生成する氷1molあたり6 025J、すなわち93kWh/1m3真水。
この原理を改良した「真空・冷凍−蒸気圧縮プロセス」が実用化されている。このプロセスの全エネルギー消費は10.6kWh/1m3真水である。