生活を支える化学技術―化学工学への招待―伊東担当分第1回 

単位とスケール
定量的にモノをとらえることが科学技術のはじまり

数学や算数の世界では数字は単位をもたず、抽象的量でしかない。しかし日常生活や生産活動をふくむあらゆる人間の生活で使う数値には必ず単位がある。「身長は1.6m」のように、数値と単位が1セットで、はじめてその情報が他人に正確に伝わる。さらにこのとき、その使った単位について相互に共通の了解がなされていなければならない。

「単位系」はそのことを定めた世界共通の約束である。外国のひととも円滑にコミュニケーションをはかる目的という意味では、単位について知ることは、外国語を学ぶことと似ているのかもしれない。

高校までに習っている単位の再確認

高校の教科で出てきている単位を復習する。課程により習っていないものもあるかもしれないが このさい覚えよう。

物理

  • 1kgの物体に1 m/s2の加速度をあたえる力が1 N(ニュートン=kg・m/s2)
  • 物体に1Nの力を作用させて、力の向きに1 m移動したとき、その仕事は1 J(=N・m)
  • 1 s間に1 Jの仕事をするときの仕事率が1 W
  • 熱容量 C [J/K]:ある物質全体の温度を1 K変化させるのに要する熱量をその物体の熱容量という

(注:これは一般常識とは違うので訂正願います。大学では高校で習った比熱c [J/(g・K)](単位重量またはmolあたり)を熱容量と教え、比熱は忘れてもらう。ただしこの「比熱」はJISにもそのように記されているので間違いともいえない。しかし世界には通用しない。)

  • 圧力の単位はPa(パスカル)、mmHg (一方、化学ではatmを使用)
  • 物理での気体定数 R =8.31 J/(mol・K)

化学

・水中のナトリウムイオンNa+の大きさ 0.116 nm (ナノメートル)

・炭素Cの原子量(相対的質量) 12

・水H2Oの分子量 18

・原子量および分子量は炭素原子を12としてこれを基準にした相対値。したがって単位はない。

(注:分子量は[g/mol]の単位を持つ物理量と考えたほうが、技術計算には便利である。)

・1molはアボガドロ数個(6.02x1023)の分子のあつまりをあらわす。 molは「物質量」の単位。

 

・絶対温度T [K](ケルビン) セルシウス温度 t [℃] T =273+t

・容積 m l, l

・大気圧 1atm=760mmHg=1.013×105Pa(パスカル) (気象の方では気圧が1000mb(ミリバール)から1000hPa(ヘクトパスカル)に変わった)

・0℃, 1atmの気体1molの体積は22.4l より、気体定数R=0.082atm・l/(mol・K)。

・濃度 モル濃度 mol/l , (これは変な単位で、溶液(多くは水)1l 中に溶解している物質のmol数。)

・化学での気体定数0.082atm・l /(K・mol)

・熱量 1cal=4.18J

 

技術の分野では量には必ず単位がある。だから物理量の数値と単位を文中に書くときは特に [ ] はつけない。(○ 4m/s: ×4[m/s])

これに対して「速度はa [m/s]」のように記号であらわしたときは、そのa自身は[m/s]を単位とした場合の単なる数値をあらわすので、単位はいらないか、[ ]内に注記する。ただし、
a=4[m/s]
のように「式」の場合は4[m/s]のように書くことが多い。この場合もこの式の値は[m/s]単位の数値であると解釈する。「a [m/s]=4 」のように書けば誤解が減るのであるが、高校ではすべてこの方式で教えられている。

さらに記号を含まない物理量にもこの延長で「1000(cm3)×1.041(g/cm3)=1041(g)」の方式で教えられているが、この場合は物理量同志の演算なので()をつける必要は全くない。)

世界共通のものさし 国際単位系(SI)

国際単位系(SI) 昔は単位というものはは特定地域、特定職域の約束ごとであった。国や地域の交流が盛んになると相互に勝手な単位を使っいては不便であるし、さらにはある職域グループから他人を排除する手段にもなりかねない。

自由・平等をうたった18世紀末のフランス革命の動きの中から、普遍的な単位制度をめさしてメートル法の諸単位が作られた。メートル法は全人類的(a’ tous les peuples)・恒久的(a’ tous les temps)という崇高な精神をもっているのである。それが国際単位系 Le Syste’me International d’Unite’s (SI) へと発展してきた。その動きは遅いものであったが、ようやくSIが「国際単位系」として 日本で確立したのが1960年ごろであった。(日本工業規格JIS Z 8202「量記号、単位記号及び化学記号」(1974)))

現在ようやく我々の日常にSIがおよびつつある。たとえば、1995年ごろ 気象における1000mbが1000hPaに変わったこと、新課程の高校化学でcalがJになったことがある。

長さの単位はメートルm フランス革命のころフランス人ドランブルとメシェンが、スペインのバルセロナとフランスのダンケルクを結ぶ経線に沿った距離1,100kmを6年余りを費やして三角測量をおこない、地球の子午線全長(南北方向の地球一周の距離)を算出した。その4×107分の1を長さの基準として「アルシーブのメートル尺」を作った。すなわち地球一周が4万km。これをもとに1875年国際メートル原器が作られ、その標線間の距離として1mが定められた。その後より確かな基準が検討されているが、現在は光の速さc=299,792,458m/sがもっとも確かなので、「光が真空中で(1/29792458) s 間に伝わる行程に等しい長さ」を1mと定義している。

SIにより、μ(ミクロン)はμmに、Å(オングストローム)は0.1  nm となる。

質量の単位はkg  物体の量をあらわすのが質量でその単位は「キログラム kg」が基本単位である。「グラム g」も 1 g=10-3 kg と、kg を基準に定められる。kgにおけるkはこれだけ特別に接頭語のk=103の意味でない。JISには「キログラムは(重量でも力でもない)質量の単位であって、それは国際キログラム原器の質量に等しい。」と特に重量や力と違うことを強調したうえで質量が定義されている。質量の基準は絶対的なものはないので、国際キログラム原器が唯一の基準である。

 

力の単位はN(ニュートン)  SIで力の基本単位は「ニュートン N」であり、そのの定義は簡単で、「1 kg の質量の物体に働くとき、加速度の大きさが1 m/s2 の加速度を与える力の大きさ」となる。

これとは別の(重力単位系における)力単位がおなじみの重量キログラムkgw(kgf, Kg)である。これは質量の数値と力の数値が地上で同一になるようにしたもの。しかしこれでは正確さを欠く(地球上とはいえ場所によって異なってくる)ので、力としての1k gwは「質量1 kg の物体に働くとき加速度の大きさが9.80665 m/s2の加速度を与える力の大きさをいう」と再定義されている。

1 kg は質量。 1 Kg は力(重量)。

日常使う「重さ」とは物体が重力で地表に引きつけられる「力」である。この「重さ」=「重量」と「質量」とは日常では混用される。両者を明確に区別しなくても地上では同じ数値なので日常生活にはこまらない。(質量1.0 kg の物体は1.0 Kgの重さ(実は地球の引力による1.0 kgwの力)を持つ。)バネ秤は「重さ Kg」を測定しているのだが、目盛はその重さに等しい「質量 kg」で記してある。しかし質量(3.0 kg)は物質固有の絶対的なもので、それを月に持っていっても質量は変わらないが、重量は月の引力が小さいので数値が変わってしまう。バネ秤は月では「0.5 kg」を示すであろうが、これはその物質の質量が減ったわけでなく、重量が減ったもの。

(学習指導要領の指示により、中学までの教科書では「重さ」の語句に質量の意味が含まれている。一般社会もこの程度の理解でおさまっている。)

日常生活ではこまらないとはいえ、宇宙旅行もできる現在、場所によって異なる重量の数値で物体をあらわすのはやはり不合理である。そのため最近の商品カタログでは重さが「質量」で書かれている。(知っていましたか。)

 

 

さらに技術分野では絶対単位系と重力単位系が混在するので、その接点に「重力換算係数gc」というものが登場してくる。工学計算においてはこれの理解が難しく、多くの学生のつまずきの石となっている。(たとえば圧力は1 Kg/cm2=0.9807×105 Paだが、記号で書くとP’[Kg/cm2]=(1/ gc)P[Pa]。)いっそ力にニュートンNを採用してしまえば力を含む工学計算は大いに簡単になるのだが、重力単位系が主役の機械工学分野ではそうもいかず、機械工学専攻の学生は今後もgcに悩まされるであろう。(私は「gcを見たら無条件に9.807 kg・m/(Kg・s2)と書き換えてしまえ 」と教えている。)

 

温度の単位はK(ケルビン) 温度の単位はファーレンハイトのF(カ氏度)とセルシウスの℃が広く使われているが、SIでは記号をKとし、絶対零度と水の3重点(0.01℃)の間を273.16等分したものと決められた。Kは温度差をあらわす場合も使う。(degは使わない)

 

 

 

 

 

 

 

圧力の単位はPa(パスカル)  SIにおける圧力単位の定義はこれまた簡単で、1 m2に1 Nの力がかかる圧力(Pa(パスカル))である。定義は簡単だが1 atm=1.013×105 Paと大きな数値になるのが欠点である。しかし、技術関係の計器はすでに切り替えられているし、天気予報もmb(ミリバール)からhPa(ヘクトパスカル)となった。工学分野ではkPaを使うのが一般的になっているが、hPaとの新たな対立が生じはじめているようである。

それでも、日常では「気圧atm」や「mmHg」「キロ=Kg/cm2」が圧倒的に使われているのが現状である。Paは数値が大きすぎることもあり、一般社会への浸透の道は険しいであろう。

エネルギーと仕事さらには電力の単位はともにJ(ジュール) 新聞など一般社会の読み物でのエネルギーのものさしはたくさんある。カロリー、食物のカロリー(しばしば1000 calの意味)、エルグ、電力量のキロワット時(電力計の目盛り)、石炭換算のトン、石油換算のキロリットル等。SIにおけるエネルギーの単位はJ(ジュール)である。1Jは「1Nの力で1kgの物体を1m動かすときにする仕事」であり、「熱と仕事の同等性(エネルギー保存則)」により同時に熱量・エネルギーの単位となる。今後はすべてのエネルギーの単位はJに収斂される。すでに高校化学におけるcalはJに変更されている。

物質量の単位はmol(モル) モルは英単語ではmoleだが、単位としてはmolとなる。1 molとはアボガドロ数個(6.0229×1023)要素粒子の集合体をあらわす。ここで要素粒子とは原子、分子、イオン、電子などである。「分子量」は単位なしとされているが、[g/mol]の単位をもつと考えた方が物質量の計算が簡単である。(水は1 molあたり18 g)

 

 

 

 

 

SI接頭語

単位まちがい探し!

  正しくは・・
天気予報には多い
(これを皆使い分けているのはエライ)
 
雨の予想は30ミリです 30 mm/h
1時間あたりに降った水の高さ 
(水面の上昇速度)
本日の積雪は30センチ 30 cm (センチメートル)
実際の積雪高さ
 10メートルの強風  10 m/s 速度
台風は自転車並の12キロで北上 12 km/h 速度
スポーツも  
松坂 155キロ! 155 km/h 速度
計量で 1キロ オーバー 1 kg 質量
   
(道路標識) 東京まで 145Km  145 km
   

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