日常の化学工学 
金属は冷たく木は温かいのはなぜ −熱伝導度のはなしー

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伊東研


  化学工学,Vol. 72, No. 12, 706 (2008)

人体皮膚の温度センサー(温覚器,冷覚器)は各々皮膚表面から0.3 mm, 0.1 mmの深さにあります。つまり実際に温度を計測しているのはほぼ皮膚表面,物体との接触面としてよいでしょう。一方,体内は血流により体温の36℃で一定に保たれています。この深さを皮膚表面から仮に 1 mmとします。

このことから,皮膚が低温の物体に触れたときに冷・温を感じるしくみを図のようにモデル化してみました。皮膚は表面から1 mmの深さで温度変化し,それより深い部分は体温(36℃)で一定温度。一方の物体側も表面から1 mmで温度変化し,それより深い部分は20 ℃で一定温度とします。この皮膚,物体表面で温度勾配のある部分を境膜と呼んでおきます。

熱伝導に関するフーリエの法則は, (熱流束)=−(熱伝導度 λ )×(温度差)÷(距離) であり,皮膚表面温度をT1 ,距離を境膜の厚さ0.001 mとして,これを両境膜にあてはめると,

となります。ここで物質の熱伝導度の値は以下のようです。
    皮膚(λ1):0.21W/(m・K)
    金属(鉄)(λ2): 49,木材(λ2): 0.11 W/(m・K)
境膜内の温度差は熱伝導度に反比例します。この式から皮膚表面温度T1 が求められます。

金属,木材についてT1 を求め,モデルにおける温度分布として図に示します。境膜を介した温度差は熱伝導度に反比例し,これに応じて中間の皮膚温が上下します。金属に触れたときの皮膚温は 20.1℃,木のときは 30.5℃で すので,木の場合は相対的に温かく感じる訳です。

今回の疑問へのよくある答えとして「金属は手の熱を早くうばうので冷たく,木はおそいので温かく感じる」,つまり伝熱量(熱流束)の大きさの違いでの説明があります。この説明でもよいのですが,しかし熱伝導度の大小により, 実際に,金属に触れたときは皮膚表面温度が低く,木の場合ではそれに比べて体温に近いのです。 なお,物体側は均一の材料なので,今回の伝熱のモデルで物体表面に境膜を考えたのは簡略化しすぎています。次回の「非定常伝熱のはなし」でより実際に近いモデル解析を考えてみます。

下は今回の計算をおこなったExcelシート です。


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