日常の化学工学 
金属は冷たく木は温かいのはなぜ2 −非定常伝熱のはなし−

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伊東研


  化学工学,Vol. 73, No. 1, 53 (2009)

前回の「金属は冷たく木は温かい−熱伝導度のはなし−」では,境膜のモデルで皮膚表面温度の違いを説明しました。しかし物体は厚さがあるので,物体表面に境膜(厚さ一定の温度変化層)を考えるのは簡略化しすぎています。 例えば畳の上に座ったとき,初めは冷たく感じるのですが,徐々に温かくなります。これは皮膚からの伝熱により材料表面・内部の温度が上がってゆく現象なので,より 現象に近いモデルとしては非定常の伝熱を考える必要があります。

非定常伝熱の基礎式は1次元(x 方向)では 時間 t と位置 x に関する偏微分方程式です。
   
これまではこれを解くのにフーリエ級数などの高等数学を持ち出していたのですが,現在は表計算Excelのシート上で差分法による解法が簡単にできます。

整数 Pn により時間を t =P Δt , 位置をx =n Δx で区切り, を数値解における温度(節点値)T nP とします。(上付きのP は累乗の意味でなく,P Δt 時間での温度を表します。)すると上式の各項は以下のように差分化されます。
   
これにより基礎式は次のような差分式になります。
   
ある節点値は前の時間の前後の節点値から求められることになります。Excelシート (下図)で列を位置,行が下に向かって時間進行として各セルにこの差分式を記述 すれば,伝熱の基礎式を解いたことになります。

例えば図のシートは10 mm厚の鉄板を36℃の温水に浸けたときの温度変化です。数秒で鉄板内部まで温まる様子が示されます。

これを皮膚とそれに接触する材料のモデルにしたのが下図です。皮膚側は境膜を考え,物体側が半無限固体中への非定常伝熱問題として計算します。金属(鉄)および木材に触れてからの温度変化の計算結果をグラフで示します。皮膚表面温度は,数秒のオーダーでは前回の簡易モデルとさほど違わず,「金属は冷たく,木は温かい」が再度示されています。


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