日常の化学工学 
同じ33℃で気温は暑く水温は冷たいのはなぜ
−空気と水の伝熱係数のはなし−
化学工学, 73巻, 4号, p. 199 (2009)

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 化学工学,Vol. 73, No. 4, 199 (2009)

先ず人体が感じる「暑い」,「冷たい」の定義をしておきましょう。これまで使っている皮膚温感のモデル (人体の温度センサーは皮膚表面にある)で,風速 0.5 m/s,空気温度を 28℃としたのが下図です。

皮膚温は体温より1-2 K低い34℃台にあります。このとき,伝熱量すなわち体内からの放熱量 q はフーリエの法則から,
 
となっています。これに体表面積 1.7 m2を乗じると,102 W= 2112 kcal/day であり,基礎代謝量(1日に摂取する必要のあるエネルギー量)にほぼ付合しています。つまり皮膚表面−体内間の温度差が1-2 K程度で,人体は発熱と放熱がバランスした熱的平衡にあるため体温は安定しており,この状態を「暑くもなく寒くもない」と感じているわけです。なお,専門的には体表面からの放熱量 58.1 W/m2 ( = 50 kcal/(h・m2-体表面 )) を 1 MET という単位で表し,安静時の熱平衡の基準値としています。

この状態から気温が 33℃に上がった場合が下図です。皮膚温は 35℃台で,放熱量は 22.5 W/m2に低下します。 この状態では体温が上昇してしまうため,人体はこれを「暑い」と感じ,対処しようとします。

次に皮膚と水が接触している状況です。前回,空気流れの境界層の計算を示しましたが,今回は水流れの境界層を計算してみます。水の流速 0.5 m/sに接した固体面上の速度分布,温度分布が図のように計算されます。

 これにより,皮膚面上の水中の温度境界層は 0.4 mmの厚さになります。空気の場合の1/10です。これは水では速度の境界層が薄いことと,粘度に比べて熱拡散率がやや小さいことによります。伝熱係数としてはh = 1500 W/(m2・s)であり空気のそれ(8.8 )の170倍であり,それだけ熱を伝えやすくなっています。

この温度境膜厚さ 0.4 mmと水の熱伝導度から,33℃の水に接した皮膚の温度分布が下図のようになります。皮膚表面温度は33.1℃で,このとき放熱量は 152 W/m2であり,熱平衡基準値の3倍で,この状態では体温が低下して危険です。 人体はこれを「冷たい」として,対処しようとします。

以上のように子供の質問のような「同じ33℃で気温は暑く水温は冷たいのはなぜ」ですが,よく考えると人体のサバイバルにも直結する重要事項と言えます。

では宿題です。お風呂の温度からすると,「熱い」ほうは皮膚温が 42℃ くらいまでは大丈夫なようです。これから考えて,サウナでは何度の空気温度まで入っていられると推定できますか?

なおレポート課題は 「「体感温度」とはなにかを ,「皮膚温」を中心とした本シリーズのモデルをもとに考察せよ」 とします。


この「伝熱境膜」シリーズのまとめがこのようになります。


参考資料:35度くらいのお湯に浸かるとぬるくてどちらかと言うと冷たいのに、35度の気温だと直射日光を浴びていなくても暑く感じるのはなぜか。(レファレンス協同データベース)


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