日常の化学工学 |
化学工学,Vol. 73, No. 5, 249 (2009)
人体がおこなう積極的な放熱手段が「汗をかく」ことです。これはもちろん汗(水)の蒸発潜熱を利用しているのですが,このことを具体的に計算 するのはなかなかめんどうです。
先ず温度 T∞の空気流れに接した水面を考えます。水面の温度Twは空気の温度より低いので,この温度差
(T∞-Tw) を推進力として空気から水面へ伝熱が生じます。これはフーリエの法則から次式で表せます。
一方,水面に接した空気中の水蒸気分圧は飽和蒸気圧 p* であり,空気流れのp ∞より水蒸気濃度が高くなっています。両者の水蒸気分圧差 (p∞-p* ) を推進力として水の蒸発が起こります。
(空気中の水蒸気分圧
p は温度と湿度の関数です。)この水の蒸発速度NA [mol/(m2・s)]にともない,蒸発潜熱が水面で消費されます。
ここで。伝熱における境膜厚さと水蒸気濃度に関する境膜厚さが近似的に同じ δ です。
気温36℃,湿度60%で空気流れ速度 3 m/sの状況を考えます。境界層端からの 2 cmの位置での境膜厚さ δ は境界層の数値計算から 2 mmとなります。
図のように,空気からの伝熱q 伝熱は水面温度が低いほど絶対値が大きくなります。逆に 蒸発潜熱q 蒸発 の方は,水面温度が高くなると水面の水蒸気圧が上がって,蒸発速度が大きくなるので,水面温度に比例して増加します。この 合計が零( q 伝熱 + q 蒸発 = 0) が実際の現象であり,ここでは 28.9℃と求められます。下図がこのときの温度および水蒸気 濃度(分圧)分布です。
ここで求めた水面の温度は,ある温度と湿度の空気に接した水について普遍的な値です。空気の流速に依存しません。この温度のことを専門的には湿球温度と呼びます。
このように皮膚上の水滴の温度は常に気温より低くなっているので,この水滴の温度と皮膚温度との差によって体表面からの放熱がなされています。
実際の体内からの放熱は(体内)−T0→(皮膚境膜)−Ts→(水の層)−Tw→(空気境膜)−T∞→(空気流れ)の多段階で生じています。この場合,皮膚面上の水の温度は湿球温度よりやや高く,その分が体内からの放熱になっています。
ここでは皮膚面上の水層の厚さを0.2 mmとしてこの全伝熱の過程を示してみます。詳細はexcelシート