日常の化学工学 |
化学工学,Vol. 74, No. 1, 42 (2010)
お洗濯を化学工学の眼で見てみましょう。先ずは洗濯物の乾燥を考えます。
家政学の本1)によると,衣類の乾燥において,乾燥速度(衣類中の水分率の時間変化)は,繊維の種類によらず図1のようです。これをみると,乾燥過程の大部分は一定の速度で水分が減少し,その後水分減少速度が低下します。このように,衣類の乾燥でも化学工学の教科書に書いてある「定率乾燥期間」と「減率乾燥期間」が明瞭にあらわれています。 したがって衣類の乾燥も主として定率乾燥の問題として取り扱ってよいようです。
定率乾燥の特徴は材料表面に常に水があり,その水の温度が「湿球温度」にあることです。湿球温度の原理と具体的計算法は以前(2009年5号)述べました。
その湿球温度を計算するシート(<pche06.xls>
ここで風速を0.5 m/sから5 m/sに上げると,空気境膜の厚さのみが3 mmから1 mmに薄くなります。(温度,水蒸気分圧は変化ありません。)これにより水の蒸発速度が230 g/m2-hまで,3倍に増加します。つまり風があると伝熱および物質移動境膜が薄くなるので洗濯物は早く乾きます。 この湿球温度の状態では潜熱と顕熱移動の大きさがバランスしています。この場合は各々その大きさが155 W/m2です。
洗濯物を日にあてた場合はどうでしょう。日に当てると日射エネルギー800 W/ m2分が顕熱移動に加わり,それにバランスして,潜熱移動および水の蒸発速度が増大します。計算によると水面温度は26.5℃に上昇し,水蒸発速度が1131 g/m2-hとなり,5倍早く乾くということになります。
参考資料 1) 中西茂子,「新コロナシリーズ33 洗剤と洗浄の科学」,p. 123, コロナ社 (1995)