日常の化学工学 
連載の趣旨

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伊東研


「 化学工学」という工学分野はプロセス産業の基礎技術の体系化と,そこへ専門知識を持った技術者を送り出すことを目的としています。化学工学は石油化学工業の発展とともに分野的にも確立し,研究面でも バイオ等各分野への展開を遂げてきました。しかし,日本においては化学工学分野は応用化学,高分子,無機材料などの他の化学系分野の中に埋没して,一般社会や高校生に対する認知度が低いままにとどまっています。さらに最近は化学工学における研究テーマ自身が,粒子製造やバイオ分野へと拡散して,化学工学のアイデンティティが問われるような昨今です。

しかし,化学工学が長年積み上げてきた「複雑なプロセスや現象を簡単なモデルにより定量的に解析・設計する手法」は十分に独自性があり,また一般性があるものです。それは理学的な視点とは別の,現象の本質をとらえた大胆なモデル化 とともに「計算できること」に特徴があります。これまではそのような化学工学的見方,解析法は 生産現場で使うものとしてしかとらえられていませんでしたが,この化学工学的視点は日常現象の理解のためにも十分有用です。

生活や日常の素朴なギモンに化学工学的見方から答えることで,理科的ないし理学的とは別の,工学的な考え方を紹介し,ひいては化学工学を一般にアピールしようと,化学工学誌に「身のまわりの化学工学」を連載しています。これまでの掲載と予定原稿の題目を以下に示します。

 【伝熱シリーズ】
2008.12号 「金属は冷たく木は温かいのはなぜ−熱伝導度のはなし−」
2009.1号 「金属は冷たく木は温かいのはなぜ2−非定常伝熱のはなし−」
2009.2号 「煮物は冷めるときに味がしみるというのはなぜ−伝熱と拡散のはなし−」
2009.3号 「扇風機で涼しいのはなぜ−伝熱係数のはなし−」
2009.4号 「同じ33℃で気温は暑く水温は冷たいのはなぜ−水と空気の伝熱係数のはなし−」
2009.5号 「汗をかくと涼しいのはなぜ−湿球温度のはなし−」
 【流体の渦シリーズ】
2009.7号 「「ハー」は暖かく「フー」は冷たいのはなぜ−流体の混合のはなし−」
2009. 12号 「飛行機はなぜ飛べる−渦と揚力のはなし−」
 【物質移動シリーズ】
2009.9号 「ヘリウム風船はなぜ早くしぼむ−膜透過のはなし−」
「水が乾くのはなぜ−工学モデルのはなし−」
「境膜と境界層」
2010.1号「洗濯物は風があるとなぜ早く乾く−物質移動境膜のはなし−」
「お洗濯の化学工学−driving forceのはなし−」
 【エネルギーシリーズ】
「煙突の煙はCO2?−物質収支のはなし−」
「炎はなぜ熱い−断熱火炎温度のはなし−」
「爆発とはなにか−エネルギーの変化のはなし−」
 「食べ物のカロリーと燃料のカロリーは同じ?」

これらの連載では以下のことに留意しています。
@図,イラストを多用してわかりやすく
Aしかしモデル計算などで定量的な説明を心がける
B化学工学の専門用語を出して化学工学への導入とする
Cモデル計算を実際に確認してもらえるよう,Excelファイルなどの資料もweb上に掲載する。


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