日常の化学工学 
煙突の煙はCO2?―白煙防止のはなし―

「化学工学資料のページ」に戻る
 


(2011/3/19)

地球温暖化問題を報じるテレビなどでは,白い煙(白煙)を出している煙突がいつも映されるものですから,煙突からの白煙が二酸化炭素CO2だと思っているひとも多いようです。それもあって清掃工場では煙突から白煙を出さないよう気を遣っています。この白煙防止について化学工学的な図式解法で考えてみます。

もちろん白煙の正体は燃焼排気ガス中の水蒸気が凝縮したものです。例えばメタンを理論空気量で燃焼すると排気ガス中の水蒸気割合は18%, 水蒸気分圧が18 kPaです。排気ガス温度が80℃として,この排気ガス(図1の@)が煙突から出て,回りの大気と混合して,温度と水蒸気分圧が同時に下がり,やがて大気と同じ温度と水蒸気分圧(A)になります。この過程は空気温度と飽和水蒸気圧のグラフ(図2)上で@―Aの直線として表せます。白煙はこの線が飽和水蒸気圧線を越える場合に生じます。

白煙が出ない,すなわち水蒸気が凝縮しないためには,この排気ガス希釈の過程が飽和水蒸気圧線の接線になるような直線上となればよいわけです。(図3)排気ガスをこの接線上にもってゆくにはいくつかの方法が考えられます。

A: 燃焼ガスを直接再加熱する。この場合は120℃以上にする必要があります。実際は別に加熱した空気を混合することで排気温度を上げています。

B: 燃焼を過剰空気でおこない排気ガス中の水蒸気分圧を下げる。この場合は理論空気量の1.6倍以上の空気で燃焼することで,水蒸気分圧が12 kPa以下となり,白煙を生じない条件となります。

C: (排ガスの浄化も兼ねて)水をスプレーして先ず排気温度を下げることで水蒸気分圧を下げ,その後再加熱する。

多くの清掃工場などでは(C)の冷却後再加熱方式をおこなっているようです。しかしこのような排気ガスや空気の再加熱はエネルギーが必要なのはいうまでもありません。しかもそのまま捨てるのですから,白煙防止のためにムダなエネルギーを使っていることになります。白煙防止に清掃工場の発電量の1, 2割を使っているとの試算もあります。実際,最近はいくつかの清掃工場で白煙防止装置を止める試みがおこなわれ,白煙に対して住民の理解を求めようとしています。自分たちが出したゴミの行く末を見守るという気持ちで,煙突からの白煙をおおらかに見たいものです。


inserted by FC2 system