日常の化学工学 
扇風機の前でアイスを食べると?−現象のモデルのはなし−

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暑い日に扇風機の前でアイスを食べながら涼むのはよくあることです。しかし,扇風機の風でアイスがどんどんとけてあわててしまいます。このことは特に子供にとってたいへん不思議なことのようです。なぜなら扇風機の風は涼しく感じるのに,アイスにとって扇風機の風はかえって暑いかのように早くとけるからです。このことは子供から親へのFAQのひとつですが,おとなのみなさんはうまく答えられますか?

「アイスの表面には冷たい空気の層があり,これが扇風機の風ではぎ取られ,暖かい空気が直接触れるので早く溶ける」がレベル★の小学生向け説明です。よくある説明です。

「アイスの表面には静止した冷たい空気層があるが,その厚さが薄くなり空気の熱が伝わり易くなるから」がレベル★★の中学生向け説明です。風があるとなぜ空気層が薄くなるかは別に説明が必要でしょう。

大学レベルの伝熱工学で静止境膜モデル(レベル★★★)を教わります。このレベルでやっと「定量的」にとける速さ計算することができます。しかし「境膜」というのは工学特有のモデルであり,一般には「科学的でない」という印象がもたれ,これが高校物理で対流伝熱が排除されている原因です。

さらに移動論を学ぶことで,伝熱は表面の温度勾配が支配しており,風はその温度勾配に影響する,という機構(レベル★★★★)で理解されます。シミュレーションも可能です。

 

ひとに説明するときは,このようなモデル化のレベルを知った上で,相手に応じて適切なモデルを使うのが肝心です。参考資料↓ではレベル★★でありますが,小学生新聞ではこのレベルかもしれません。しかし特に境膜モデルは簡単で,日常の現象の説明に広範に使えるので,本シリーズでその有用性をアピールしているところです。


参考資料>朝日小学生新聞,2013/6/25, わくわく探検隊−理科−「扇風機の前でアイスを食べると?」


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