膜プロセス解析法 透過流束を支配する因子 透過流束の経時変化

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伊東研


表に実際の膜濾過処理例と操作条件,透過流束を比較します。実際の操作での透過流束は10〜100 kg/(m2-h)の範囲でおこなわれており,前項で述べた膜の純水透過流束【47】よりかなり小さくなっています。同じ差圧で比較した場合,逆浸透操作の透過流束は膜の純水透過流束の1/2, 限外濾過では1/10, 精密濾過膜では1/100程度です。同じ圧力で透過流束が小さいということは,膜以外の要因で膜濾過の抵抗が大きくなっていることです。

その濾過抵抗の要因は膜プロセス毎に異なり,概略図のようです。 先ず逆浸透,ナノ濾過では,原液と透過液(水)間の浸透圧が膜濾過抵抗の主因です。加えて濃度分極層が浸透圧の変化を通じて影響する場合もあります。 限外濾過では浸透圧と,膜面の濃度分極層およびゲル層の透過抵抗が複合的に関わります。

限外濾過における膜面堆積層の状態は,濃度分極層からゲル層へ連続的に変化してゆきます。

精密濾過では原液中の溶質・粒子が膜面上にケーク層と呼ぶ粒子の層を形成し,これが膜濾過抵抗の主因となります。ケーク層は粒子の堆積層であり,これを通る水の流体力学的抵抗はその厚さと粒子径に支配されます。

全体として膜自身の流体力学的透過抵抗は逆浸透から精密濾過へ割合が小さくなります。 そして,これら膜面上の溶質堆積層の厚さは膜面上の供給液の流速(クロスフロー流速 ,膜面速度,u)が支配します。膜濾過では原液の供給で膜面速度は存在するのですが,膜面速度を積極的に増やしたり,スペーサーメッシュにより流れを乱流にするなどして,膜面上の濃度分極層【56】,ケーク層【58】厚さの制御をすることが実用上重要です。

膜分離プロセスでは原液処理の進行にともない透過流束の値および阻止率が変化し、その膜濾過過程の解析を複雑にしている。図に水溶液の処理である逆浸透(RO)、限外濾過(UF)、精密濾過(MF)における透過流束の経時変化の特徴を示した。

海水淡水化などの逆浸透操作では透過開始直後から浸透圧により支配される透過流束で始まり、その後数ヶ月単位でゆっくりと透過流束の低下がおこる。これは原液に共存している微量成分の堆積などによるファウリングの影響である。

高分子物質を含む原液を対象とする限外濾過では、先ず数秒から数十秒で透過流束が低下する。これは膜面上にゲル層が形成される過程である。その後定常透過流束となるが、定常透過流束も数日単位で低下傾向を示す。この2次的低下はゲル層の変質によるものである。高分子物質からなるゲル層は高圧下(圧密化)や温度の影響で変質しやすい特徴があり、長時間ではその変性がゲル層の透過性に影響してくる。これが進行しすぎると洗浄によっても透過流束が回復にくくなるので、実用上は短い間隔での周期的洗浄および洗浄手順が重要となる。

懸濁粒子を対象とする精密濾過では、初期の透過流束は純水の透過流束である。それが濾過の進行に従い、膜表面にケーク層が形成され、その厚みに応じて透過流束が低下する。すなわち透過した液量、濾液量に応じて透過流束が低下する。透過流束の減少速度は溶質濃度に依存し、通常数十分から数時間である。工業的な精密濾過操作では透過流束がある程度低下したところで洗浄ないし、膜モジュールの交換がおこなわれる。

一般に膜プロセスにおける透過流束の低下および阻止率変化を含む膜機能の低下現象はファウリングと劣化に分類されている1)。それによるとファウリングとは膜自体の構造は変化しないもので、洗浄などでその機能が回復できる可逆的なものとされる。ファウリングの原因は膜表面の付着層(ケーク、ゲル、スケール)および膜細孔の目詰まりである。一方、膜の劣化は物理的、化学的に膜の構造が変化することに原因があり、膜機能の低下は非可逆的である。それらの詳細は参考資料1)に詳しい。


1) 大矢晴彦、渡辺敦夫監修、「食品膜技術-膜技術利用の手引き-」、光琳 (1999)


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