膜プロセス解析法 透過流束のモデル

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伊東研


膜モジュールの透過・分離性能は透過流束と溶質の阻止率のふたつであらわされる。透過流束Jvは透過液の透過速度 v [kg/h]を膜面積A [m2]で除したものである。

Jv =v/A [kg/(m2・h)]

Jv の単位は透過液の透過速度vを体積で表した場合([m3/h])は[m3/(m2・h)]すなわち[m/h]となる。
水の場合はJv =10 kg/(m2・h)= 0.01 m/h = 2.8 μm/s

逆浸透法:浸透圧

逆浸透法では透過流束は加える圧力と図の関係にある。すなわち、加える圧力が溶液の浸透圧Δπを越えて初めて水が透過し始め、その後は加える圧力ΔPに比例して透過流束が増加する。

下図はショ糖水溶液の逆浸透膜透過における透過流束を操作圧力に対して示したものである。透過流束はΔP と比例関係にあり、この直線を横軸に外挿した点が逆浸透法で透過流束が零となる圧力、すなわち溶質濃度Cb= 50 g/L での浸透圧Δπである。この場合はショ糖水溶液の浸透圧が0.3 MPaと推定される。

下図はショ糖水溶液の逆浸透膜透過における透過流束を溶質濃度Cbに対して示したものである1)。パラメータが操作圧力ΔPである。透過流束はCbの増加に伴い直線的に減少する。ある操作圧ΔPで、透過流束が零となるCbがその濃度での溶液の浸透圧となる。

グルタミン酸ナトリウムの逆浸透膜透過において、圧力一定で濃度を変えて透過流束を調べたものが図である。(実際は連続の濃縮運転で得られたもの)別に測定した同じ膜の純水(Cb=0)透過透過流束もあわせて直線をひくことで、Cb=5.5%での浸透圧がこの運転圧力1.5 MPaであることがわかる。さらに、前図にみるようにこの直線の傾きが操作圧力によらず同じで、かつ純水透過流束は圧力に比例することを利用して、例えば1 %水溶液の浸透圧が0.27 MPaと推定することもできる。

 

限外濾過・精密濾過: ゲル分極モデル

タンパク質などの高分子溶質を濃度Cb [kg-溶質/m3-溶液]で含む溶液の限外濾過操作では、透過流束Jvは時間とともに減少し、やがて定常値となる。この定常値は膜間差圧ΔPが小さい範囲ではΔPとともに増加するが、ΔPが大きくなると圧力に依存しない一定値となる。これを限界透過流束という。この限界透過流束の値は溶質濃度Cb が大きいほど小さくなる。また供給液の膜面速度が速いほど大きくなる。この透過流束の傾向は以下のゲル分極モデルにより解析される。

限外濾過では膜面に溶質が濃縮される濃度分極現象が生じるが、高いΔPではその濃度分極の程度が大きくなり、膜表面の溶質濃度Cm が原液の数十倍に達する。しかし膜表面の溶質濃度の上昇はやがて最大値Cgで一定となると考えられている。これは濃縮された溶質が自身でゲル状態となり、それ以上濃度分極層の溶質濃度が上がらない状態である。このゲル化が生じるとその後の膜表面に堆積する溶質により、ゲル層の厚みのみがΔPに比例して増加する。その結果透過流束がΔPに依存しなくなると考えられている。このモデルがゲル分極モデルで、

で記述される。ここでk は物質移動係数であり、供給液の膜面速度の影響をあらわす。このゲル分極モデルではゲル層濃度Cgは溶質のみにより決まる値であり、物質移動係数kが操作条件に依存する値である。

図はタンパク質水溶液(ホエー)の限外濾過における透過流束(限界透過流束)と供給液中のタンパク質濃度Cbとの関係の例2)を示した。横軸の溶質濃度を対数にとることで透過流束値が直線となり、ゲル分極モデルに従うことがわかる。この場合k =4, Cg = 300 kg/m3 がゲル分極モデルの定数となる。
前節の逆浸透法ではJv Cbのプロットは横軸Cbが等間隔目盛りで直線になったが、限外濾過のJv は横軸Cbが対数目盛りで直線になることが異なる。

図は多成分の懸濁粒子や高分子を含む醤油オリを対象に、セラミック膜により精密濾過をおこなった場合の、原液中の懸濁物質濃度と透過流束との関係を示したものである3)。横軸の溶質濃度は対数であるが、上の限外濾過と異なり直線が得られない。このような粒子状溶質の多い原液の場合はゲル分極モデルには従わないという例である。

限外濾過:浸透圧モデル

透過流束を表す式:
に膜面濃度Cmにおける浸透圧式(指数相関式)を代入すると、

である。また、濃度分極式: において阻止率を1とすると、 なのでこれらより、

となる。これが限外濾過の透過流束をあらわす浸透圧モデルである。操作圧力ΔP から透過流束J vを求めることは、数学的にはJ vに関する非線形方程式を解く問題となる。

【例】牛血清アルブミン(BSA)水溶液の浸透圧が

であらわせる場合、透過流束と操作圧力ΔPとの関係を求める。ただし、
(訂正: k =3.9)
とする。これらのパラメータによりモデル式を解き、透過流束および膜面の濃度Cmを操作圧力Δとの関係で示したのが図である。限界透過流束がよく表されている。

<memb23.xls>


1) 大西、土井:化学工学会第35回秋季大会講演要旨集、H205 (2002))
2) L.J. Zeman and A.L. Zydney," Microfiltration ans Ultrafiltration," Marcel Dekker, Inc.(1996)
3) 松下、伊東、渡辺:日本食品科学工学会誌、 vol. 49, pp. 585-590 (200)
4) 大矢晴彦、渡辺敦夫監修、「食品膜技術-膜技術利用の手引き-」、光琳 (1999)


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