膜プロセス解析法 精密濾過の透過流束経時変化

「化学工学資料のページ」に戻る
伊東研


精密濾過法にはRO, UFと同様に、原液を保持液と透過液に分離するクロスフロー濾過と、通常の濾過のように透過液のみ取り出すデッドエンド濾過がある。

デッドエンド濾過の基本 ルースの濾過方程式 固形分を含む原液を濾過して濾液を得る場合を考える。濾過の膜面積をA [m2]とする。単位濾液量に対して得られる(湿潤)ケークの体積をc [m3-ケーク/m3-濾液]とすると、得られた濾液量V [m3]に対してケーク厚み Lc [m]は、

である。Darcy則によると、粒子層を通る水の透過流束JV [m3/(m2・s)]は圧力差ΔP に比例し、水の粘性係数μ および粒子層の厚さすなわちケーク厚み L に反比例する。k が抵抗係数である。

ここで、Lm は濾材(膜)の水の透過抵抗を相当するケーク厚みに換算したものである。(ここがポイント)濾液量V と流束は、

の関係なので、

である。濾材の抵抗相当のケーク厚みLm  ができるための仮想の濾液量をV0とすると、

を考慮して、V に関する微分方程式となる。

(この式の逆数をとると なので、V 対 dt/dV のプロットで濾過定数が求められる。(微分法))

解は次式である。

これをルース(Ruth)の濾過方程式 (注参照) といい、K, V0を濾過定数という。ケークの濾過抵抗であるK と濾材(膜)の濾過抵抗に関係するV0 がわかれば、濾過の過程をモデル的にあらわせたことになる。ただし、濾過定数K のなかにΔP が含まれているので、ΔP が一定のプロセスすなわち定圧濾過に関してのモデルである。

この式をV で解くと次式となる。

また、透過流束およびケーク厚みの経時変化は次式となる。
,
下の例題のパラメータによりこれらを示したのが図である。

【例題】ある濾過で濾液量と時間との関係が表のようであった。上式とデータをグラフ上で比較して濾過定数を求めよ。

【解】K = 9.0e-8, V0=1.0e-4でのモデルとの比較が下図。<mf02.xls>

ルースの濾過方程式


注)実際には、Ruthは濾過実験のデータ解析により、先ず実験値をあらわせるものとしてこの式を発見し、その後に理論的に導いている。当時から、濾液量V に関してV 2が時間  に比例することはわかっていた。これに対して、RuthはV 2のプロットにおける時間初期の「直線からのズレ」に着目し、データを(V +V0)2でプロットすれば直線が得られることを見いだしたのである。

いまや「化学工学の古典」であるRuthの論文。

Ruth, B.F.; Montillon, G.H.; Montonna, R.E., "Studies in Filtration, I Critical Analysis of Filtration Theory", Ind. Eng. Chem.,25, 76 (1933).
Ruth, B.F.; Montillon, G.H.; Montonna, R.E., "II Fundamental Axiom of Constant-Pressure Filtration",Ind. Eng. Chem., 25,153 (1933).

Ruth, B. F., "III Derivation of General Filtration Equation",Ind. Eng. Chem., 27, 708 (1935).
Ruth, B. F., "IV Nature of Fluid Flow through Filter Septa and Its Importance in the Filtration Equation",Ind. Eng. Chem., 27, 806 (1935).


クロスフロー濾過の透過流束 次にクロスフロー形式の精密濾過における透過流束をRuthの濾過方程式を基礎にして考える。

原液の粒子濃度をCb [m3-固体/m3-水]とする。ケーク層の厚みをL 圧力差をΔPとすると、透過流束Jvは上と同様:

のようにあらわせる。Lc が膜面に実際に堆積しているケーク層の厚みである。このケーク層の厚みの時間変化は透過流束とクロスフローによるケークのはく離速度Jc [m3-固体/(m2・s)]により式のように表せる。

これらの式からJvを消去して、ケーク厚みLc の時間変化に関する微分方程式が得られる。

ここで、濾過流束の初期値と定常値から以下のような関係がある。

この微分方程式の解析解は次式のようである。

この式により、クロスフロー精密濾過におけるケーク厚みと透過流束の時間変化が計算できる。野菜ジュース希釈液を精密濾過した場合のデータについて計算したのが図の実線である。また、下の図は推定されたケーク厚みの変化を示している。

 

<memb22.xls> <memb22_temp.xls>

クロスフロー濾過のリフト速度モデル


inserted by FC2 system