膜分離工学 限外濾過の細孔モデル

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伊東研


阻止率の細孔モデル多孔質膜での成分分離は溶質分子が細孔を通る/通らないが原理なので,細孔より大きな分子の阻止率が100%なのは当然ですが,細孔より小さい分子は全て細孔を通れる,すなわち阻止率0%と考えられがちですが,実際はそうではありません。限外濾過膜の分画曲線のように,特に細孔径以下の径の溶質の阻止率には幅があり,阻止率は溶質の分子量すなわち大きさに対してS字状の分布を示します。

この理由は膜の細孔径に分布があるということも一因ですが,仮に細孔径が均一でも細孔径以下の溶質の透過には阻止率があることが簡単なモデル解析,「細孔モデル」で示されています。

いま多孔質膜の細孔を半径 r0 の細管で代表します。溶媒分子(水分子)はこの細管の全断面積 A0を通ります。一方,半径 aの球形である溶質分子は,大きいので壁の影響を受け,径が (r0-a) の管路しか通れません。細孔内の流れを速度 v の一様速度分布と仮定した場合,溶媒透過量はA0×vであるのに対して,溶質の透過量はCb×A×vです。透過液の濃度はCp= Cb×(A/A0)となります。よって式(1)から阻止率 Rは(2)式となります。これを仮に細孔径 r =6 nmとして示したのが図で,細孔径の半分の径, a= 3 nmの分子でも,阻止率が R =0.75あることが示されます。

このモデルは細孔内の速度分布に放物線速度分布を仮定して修正されます。その場合透過液濃度 Cpが式(3)のようであり,これにより阻止率が(4)式(Ferry-Renkin式)です。放物線速度分布を仮定すれば,阻止率が実際に近いS字状の曲線となります。

 図中に限外濾過膜による5種のマーカー分子(球形タンパク質)による阻止率データ例を示します。このデータは r0 =6 nmとした細孔モデル(放物線速度分布)と一致しています。よって,この限外濾過膜の理論細孔径を6 nmとしてよいと言えます。

 


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