膜分離工学 電気透析

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伊東研


電気透析法はイオン交換膜と電気を利用する膜分離法である。イオン交換膜は電荷をもつ多孔質膜であり、陽イオンまたは陰イオンのみを通す性質をもつ。電気透析法ではこれらを組み合わせて水に溶けているイオン成分の除去や濃縮を行う。この分離法の駆動力は電気量であり、加えたた電気量に比例して水中のイオンを分離できる。そのため、逆浸透などの圧力駆動の膜分離法に比較して、除去率、濃縮倍率が高いのが特徴である。分離対象となる水中のイオン成分はナトリウム、カルシウムなどの無機塩類から低分子量の有機酸やアミノ酸である。

電気透析法の代表的な応用が海水濃縮による食塩製造である。ここでは3.5%の塩濃度の海水を18%濃度まで濃縮している。電気透析の装置は小型から大型まで対応でき、運転も容易なので、廃水処理、食品分野など、脱塩・濃縮が必要ないろいろな処理に用いられている。

電気透析法の応用分野
水処理分野 海水濃縮による食塩製造
地下水の塩水脱塩による飲料水(工業用水)の製造
工業分野 メッキ廃液からの金属塩の回収
食品分野 オレンジ果汁の酸度調整
減塩醤油の製造
アミノ酸溶液の脱塩精製
乳製品の処理

電気透析法の仕組みを解説する。塩を含む水溶液には必ず陽イオンと陰イオンが存在している。(1)この溶液に電極をいれ電気を流すと、電気泳動によりイオンは反対の極に引き寄せられる。(2)電極の間に陽イオン交換膜を挿入すると、電気泳動していた陰イオンはこの膜を通過できない。一方、陽イオンは膜を通過して電極側に移動できる。(3)陰イオン交換膜を挿入した場合はこれと逆になる。(4)電気透析装置では電極の間に陽イオン交換膜と陰イオン交換膜を交互に挿入して、ふたつの水の流路すなわち隔室を構成する。処理液である塩水を流し、電流を流すと、上のようなイオンの移動が交互におこり、陰イオン、陽イオンともに濃縮される流路と除去される流路ができる。これによりふたつの出口では塩が濃縮された水と脱塩された水が得られる。実際の装置では電流を効率よく利用するため、イオン交換膜を交互に数百枚重ねている。

イオン交換膜 電気透析法の原理

図に海水の脱塩をおこなうための小型の電気透析装置の例を示す。20cm×10cmのイオン交換膜を3 mm の間隔で60枚重ねて電気透析槽とする。これに処理液である海水と塩を取り込む廃液を供給する。電極部にはガスの発生を防ぐため別の電極液を循環させる。海水を循環させて、38Vの直流電圧をかけることで、流した電流の量に比例して脱塩がおこなわれる。供給水中の塩濃度が低下すると電流も流れなくなる。この場合は6リットルの海水を30分で飲料水にすることができた。

電気透析法 海水濃縮


 

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