膜分離工学 分離膜の種類

「化学工学資料のページ」に戻る
伊東研


分離対象物質の大きさと分離膜

膜分離法は分離対象物質の大きさ順に、精密濾過法、限外濾過法、透析法、電気透析法、逆浸透法、ガス分離法と分類される。それぞれの方法に使用する膜を、例えば精密濾過法なら精密濾過膜と呼ぶ。

精密濾過、限外濾過、逆浸透およびナノ濾過は使用する膜の細孔径により便宜的に分類されているだけであり、「処理水を圧力により多孔質膜を透過させ、水中の成分や粒子を除去する」という操作では共通である。その定義はIUPACによると以下のようである。

精密濾過(略称 MF): 0.1 μmより大きい粒子や高分子が阻止されるプロセス
限外濾過(UF) : 0.1 μm〜2 nm の範囲の粒子や高分子が阻止されるプロセス
ナノ濾過(NF): 2 nmより小さい程度の粒子や高分子が阻止されるプロセス
逆浸透(RO): 加圧により浸透圧差と逆方向に溶媒が移動するプロセス

図にμm(マイクロメートル)からnm(ナノメートル)以下までの物質のサイズと、各種分離膜の孔径を比較しました。現在ではすべての粒子径でそれを分離するのに適切な孔径の膜を入手することができる。例えばウィルスを水から除去する場合には、限外濾過膜を使用すればよい。なお、1 nm 以下の孔は電子顕微鏡でも観察できないので、これ以下の孔径の膜は実際上孔のない膜、非多孔質膜とされる。


市販の分離膜

現在は多数のメーカーが多種類の膜・膜モジュールを市販している。MRC(食品膜技術懇談会)では国内市販の膜を一覧できるデータベースを提供しており、膜選定の際に便利である。以下にそのデータベースの様式を示す。

メーカー名
精密濾過膜
(MF)
限外濾過膜
(UF)
逆浸透膜
(RO)
イオン交換膜
(ED)
クラレ
 
三菱レイヨン
 
 
アドバンテック
 
日本アブコー
旭化成工業
 
NGKフィルテック
 
オルガノ
 
ザルトリウス
 
日本ミリポア
 
日本精線
 
 
富士写真フィルム
 
 
富士フィルター
 
ユアサコーポレーション
 
サンコー
 
日東電工
 
ビベンディ・ウオーターシステムズ・ジャパン
 
 
PCI(イズミフードマシナリー)
 
ダイセン・メンブレン・システムズ
 
東レ
 
 
トスク
 
 
東洋紡績
 
 
旭硝子
 
 
 
トクヤマ
 
 
 

 

 

メーカー

膜名称

膜材質

膜形状

その他、

NaCl阻止率(%)
逆浸透膜
60
A社
CDA40 (旧T2/40)
酢酸セルロース
チュブラー

膜面積、透過流束、

 

 

 

 

モジュール形状・接続、

94
B社
HS5230 (I)
芳香族系ポリアミド
中空糸

洗浄条件、

 

 

 

 

適用水質

99.4
C社
ロメンブラUTC-70 SU-720
アラミド
スパイラル

など

分画分子量
限外濾過膜
1,000 
D社
PM1
P.S.
中空糸

 

 

 

 

 

 

6,000 
E社
HF106-20-PF
ポリサルフォン
中空糸 内径 0.51mm

 

 

 

 

 

 

50,000 
F社
ウルトラフィルターユニット USY-5
ポリサルホン
ディスク

 

膜細孔径[μm]
精密濾過膜
0.1
G社
MCF-A10 (CCF-)
PTFE(四フッ化エチレン)
プリーツ

 

 

 

 

 

 

0.45
H社
FAC-45
酢酸セルロース
プリーツ

 

 

 

 

 

 

10
I社
FPC-10P
ポリエステル
プリーツ

 


逆浸透膜

ロブとスリラーヤンが開発した非対称膜は海水淡水化を目的とした逆浸透膜であった。彼らは酢酸セルロース素材で作製し、単一の素材で孔のないスキン層とスポンジ状の支持層をつくった画期的なものであった。その後も酢酸セルロース系の膜は改良が施され、中空糸膜として製造されている。
しかし、より高効率の逆浸透膜が求められ、他の膜素材が検討された。現在最も多く使用されるのが複合膜である。これは先ず不織布の上にポリスルホン製の多孔質膜を作成し、その表面に、芳香族ポリアミドを界面重合させて1μm以下の厚みの緻密層を形成したものである。この複合膜は紙状の平膜として製作され、これをスパイラル状に巻いたものが膜モジュールとなる。

逆浸透膜の性能は塩(NaCl)の阻止率と透過流束が指標となる。


限外濾過膜

限外濾過膜はロブ−スリーラーヤン法により作成される典型的な非対称膜である。図で示すように、膜の断面がスキン層と多孔質層の非対称構造になっている。(再生セルロース製限外濾過膜 分画分子量 1,000 (日本ミリポア)) 使用される高分子素材はそれほど多くなく、ポリアクリロニトリル/ポリ塩化ビニル−ポリアクリロニトリル共重合体/ポリスルフォン/ポリエーテルスルフォン/フッ化ビニリデン/芳香族ポリアミド/酢酸セルロースなどである。最近ではセラミックス膜も使われるようになってきた。限外濾過法では逆浸透法と異なり、前処理をおこなわないので、膜面に高分子などが堆積するファウリングがおこる。そのため膜を薬品や温水で定期的に洗浄するのが普通である。このため膜素材は薬品に対する耐性や耐熱性が求められる。限外濾過膜の膜モジュールは平膜型、管状型、中空糸型、スパイラル型と各種ある。限外濾過膜の性能指標は分画分子量であり、これが1,000〜300,000まで各種の膜が市販されている。


精密濾過膜

現在市販されている精密濾過膜には素材、製法などが異なる多くの種類がある。

トッラック・エッチング膜はポリカーボネート膜に放射線を照射した後、薬品でエッチング処理することで孔を開けたものである。1マイクロメートル以下の、均一な孔径の孔が垂直に貫通しているので、空気、水中の粒子の数の測定に最適である。製法上、膜の多孔度は5%以下である。
アイソポア膜 公称孔径 0.4μm(日本ミリポア)

(乾式)相分離分離膜形成法で作られる膜は網目構造をしており、多孔度が70%以上と大きいのが特徴である。酢酸セルロース、ポリビニルアルコールなど多くの素材、多種類の孔径のものがある。

ポリビニルデンジフルオライド多孔質膜 公称孔径 0.22 μm(日本ミリポア)

酢酸セルロース+ニトロセルロース混合膜 (日本ミリポア)

延伸法で作られる多孔質膜はスダレ状の多孔質構造であり、孔径は 0.2μm程度であるが、製法が容易で安価に作成できる。素材はポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレンである。

ポリテトラフルオロエチレン 細孔径0.5 μm(日本ミリポア)

カタログ記載の精密ろ過膜(ポリテトラフルオロエチレン製)(日本ミリポア)

細孔径[μm]

膜厚み[μm]

空隙率[%]

バブルポイント[MPa]

0.1

 

80

 

0.2

80

80

 0.315

0.5

80

80

0.175

1

100

80

0.105

5

100

80

0.035

10

100

80

0.021

 

最近では洗浄の容易性、耐久性からセラミック膜が普及している。素材はアルミナで、バインダーと混合して焼成することで多孔質膜となる。通常何回かコーティングと焼成を繰り返すことで所定の孔径の膜とする。透過流束をあげるために、モノリス型など複雑な形状をしている。


透析膜

透析法に使われる透析膜は圧力をかけないため、膜厚みがたいへん薄く作られている。細孔径は限外濾過膜程度から逆浸透膜程度まで各種のものがある。血液透析に使う膜では径0.2mm、膜厚み10-20μmの中空糸膜で、膜の細孔径は数nm、分画分子量にして約2,000である。透析膜の素材としては再生セルロース、酢酸セルロース、ポリアクリロニトリルなどが使われる。この中空糸を1万本束ねて膜モジュールとする。これをダイアライザーと呼ぶ。

透析膜(中空糸タイプ)

中空糸膜断面


イオン交換膜

電気透析法ではイオン交換膜を使用する。これはイオン交換樹脂を多孔質膜にしたもで、材質はスチレンとジビニルベンゼンを共重合して作成される。このポリスチレン樹脂を膜厚み100から200μm,イオンが通過する細孔径が1 nm(分画分子量300)程度となるように製膜する。これを濃硫酸でスルフォン化することで細孔内に固定された陰イオンを持つ陽イオン交換膜が作成される。一方の陰イオン交換膜は基材をアミノ化して、固定された陽イオンを導入する。
固定された陰イオンを持つ膜を塩の水溶液に入れると、電気的中性の条件から膜内には水溶液中の陽イオンが侵入し細孔内を占める。一方、水溶液中の陰イオンは膜内に入ることができない。(ドナン排除)この状態で膜の両側に電圧をかけると電気泳動により陽イオンのみが細孔内を通る。この原理により、陽イオン交換膜ではナトリウムイオンなどの陽イオンのみ細孔内を通過できる。逆に陰イオン交換膜では塩素イオンなどの陰イオンのみが通過できる。また、小さい分子であってもエタノールなど電荷のない分子は電気泳動しないので分離・濃縮できない。

イオン交換膜表面の電子顕微鏡写真(旭化成(株)提供)


パーベーパレーション膜

法:パーベーパレーション法で使われる高分子膜は多孔質膜ではなく孔のない均質膜である。図のシリコーンゴム中空糸膜は外径300マイクロメートル、内径200マイクロメートル、膜厚み50マイクロメートルの均質膜で、アルコール分離や水中の溶存酸素除去に用いられる。
下は無機膜であるゼオライト膜である。ゼオライトは粒子状の吸着剤だが、これを多孔質セラミック膜の表面上に膜状に作成する技術が開発された。ゼオライトには親水性のものと疎水性のものがあるので、アルコール水溶液から水を選択的に透過させるゼオライト膜と、アルコールを選択的に透過させるハイシリカゼオライト膜の両方が開発されている。

シリコーンゴム中空糸膜(均質膜)

ゼオライト膜(三井造船)(φ12 mm×800 mmの管状膜)


ガス分離膜

ゴム状の高分子はガス透過速度が大きいので細いチューブ状でもガス分離膜として使える。上記シリコーンゴム中空糸膜は酸素や有機蒸気ガスの透過性が特に大きいので、空気の酸素濃縮、有機蒸気回収に応用される。
ポリイミドは高温にも耐える固いプラスチックだが、非対称構造の中空糸膜とすることで、優れた分離膜となった。水蒸気、酸素、炭酸ガスの透過性が特に大きいので、除湿装置、窒素発生、二酸化炭素の分離濃縮に応用されている。
ガス分離膜の最初の応用がポリスルホン多孔質膜にシリコーンゴムを被覆した中空糸膜であった。分離性はシリコーンゴムの性質に依存するが、シリコーンゴムの層が薄いので、ガスの透過性が大きいのが特徴である。水素分離回収用に多数使用されている。

シリコーンゴム中空糸膜

ポリイミド非対称中空糸膜とモジュール(除湿用)

ポリスルホン多孔質膜にシリコーンゴムを被覆した中空糸膜(外径0.6 mm)

 


inserted by FC2 system