膜分離工学 分離膜の性能評価法


逆浸透膜:阻止率と透過流束

逆浸透膜の性能は水が透過する速度すなわち透過流束と溶質の阻止率の2つであらわす。逆浸透法では透過する液は純水であるが、その透過の液体積を膜面積と時間 で割って得られるのが透過流束Jvである。
透過流束: Jv =(透過液量[kg])/(膜面積[m2]×時間[h])
阻止率R は膜を介した供給液側の溶質の濃度Cb と透過液側の溶質濃度Cpで定義される。
阻止率:R =(1-Cp /Cb)

市販膜では0.2%程度のNaCl水溶液で透過試験をおこない、このNaClについての阻止率を膜の性能指標としている。図に各種素材による逆浸透膜の性能を、横軸に透過流束、縦軸にNaClの阻止率で示す。逆浸透法において、3.5 wt%の塩濃度の海水を一段の膜透過操作により飲料水(塩濃度500 ppm 以下)にするには阻止率99.3 %が指標とされている。現在では芳香族ポリアミド製の複合膜が阻止率、透過流束ともに優れており、海水淡水化装置における逆浸透膜の大部分を占めている。

逆浸透膜のNaCl阻止性能


限外濾過膜:分画分子量

限外濾過膜の細孔径は、電子顕微鏡でも観測・測定することは困難である。また、細孔径のばらつきもあるので、膜の分離性能を表すには膜の代表細孔径では不十分である。そこで限外濾過膜の分離性能の指標として分画分子量が使われる。ある膜の分画分子量を決めるには、分子量の異なる数種類のマーカー分子を用いて、阻止率を測定する。それを分子量に対してプロットする。この分画曲線から阻止率が90%の分子量をその膜の分画分子量とする。
例えば図の膜では分子量13,000のチトクロムCの阻止率が0.1であり、他の分子もグラフのようであった。このデータから阻止率の曲線(分画曲線)を描き、阻止率90%の分子量40,000がこの膜の分画分子量と決められる。なお、分子量40、000に相当する細孔径は5.3 nmである。
このデータのように、限外濾過膜で分離できる対象物質の大きさは分画分子量の前後で明確に区切られるものではなく、ある幅を持っている

分画曲線

表 限外濾過膜の分離特性を調べるためのマーカー分子

  分子量 [g/mol] 分子径(推算) [nm]
スクロース 340 1.1
ラフィノース 590 1.3
ビタミンB12 1,360 1.7
Bacitracin 1,410 1.7
インシュリン 5,700 2.7
チトクロームC 13,400 3.8
ミオグロビン 17,000 4.0
α-chymotrysinogene 25,000 4.6
ペプシン 35,000 5.0
オバアルブミン 43,000 5.6
Bovineアルブミン 67,000 6.4
aldolase 142,000 8.2
γグロブリン 150,000 8.4

精密濾過膜:細孔径

精密濾過膜の細孔径は電子顕微鏡で観察し、概略推定することが可能である。しかし実用的には次のような方法で膜の代表細孔径が決められている。

バブルポイント法:
精密濾過膜をよく濡らす液体(水またはアルコール)をあらかじめ膜の細孔内に吸収させておき、図39のような器具に設置する。膜の裏側から空気圧をかけて、膜表面に気泡の発生が観察できる最小圧力を測定する。これをバブルポイントと呼ぶ。液体の表面張力とこの圧力との関係式から細孔径が推算できる。

(d[m]:細孔径、θ:膜素材と溶媒の接触角(完全に濡れる溶媒(イソプロピルアルコール)の場合は0°で、cosθ=1)、γ[N/m]:溶媒の表面張力、ΔP[Pa]:バブルポイント圧力)

【例題】バブルポイント ΔP=1.4 Mpaの場合、水のγ=0.072 N/m, cosθ=1として、
d =4×0.071×1/1.4×106 = 2.05×10-7 m= 0.206 μm

細菌濾過法(バクテリアチャレンジテスト):
大きさのわかっている細菌を濾過して、その漏れの程度によって膜の細孔径を決定する方法。精密濾過膜は第二次世界大戦中にドイツで飲料用水の細菌数調査に最初に使用された。このため、水中の細菌を除去できる細孔径の決定が重要であった。公称孔径0.22μmを決める指標菌(Pseudomonas diminuta)、および0.45 μmを決める指標菌(Serrata marcescens)(いずれも1.5:1 の長さ:径比をもつ短桿菌)が決められてる。


ガス分離膜:ガス透過係数

ガス分離膜では孔のない均質素材の膜を用いる。均質膜におけるガスの透過速度は圧力差に比例し、膜の厚みに反比例する。これより、膜のガス透過係数を以下のように定義する。

(透過流束) = (ガス透過係数)×(透過推進力=圧力差)÷(膜厚み)

したがってガス透過係数の単位は次のようになる。
ガス透過係数の単位:[kmol・m/(s・m2・kPa)] または[cm3(STP)・cm/(s・cm2・cmHg)]

(なお、1×10-10 cm3(STP)・cm/(s・cm2・cmHg)= 1 Barrer(バーラー))

透過係数はガスの種類と膜素材の組み合わせによって異なる。一般に高分子膜素材はガラス状高分子とゴム状高分子に分けられる。下左図にガラス状高分子膜の例としてポリイミド中空糸膜の透過係数を温度に対して示す。ガラス状高分子および無機多孔質膜では透過分子の大きさが支配的で、分子量の小さいガスほど透過性が大きくなる。ポリイミド膜は水素、二酸化炭素、水蒸気の透過性が大きいためこれらの分離へ応用できる。
一方、ゴム状高分子では透過成分の膜への溶解性が透過性を支配するので、分子量の大きい、凝縮しやすい蒸気ほど透過性が大きくなる。シリコーンゴム膜における各種有機蒸気の透過係数を比較したのが下右図である。窒素に比較して、有機蒸気は数百倍通りやすいので、この膜は蒸気の回収に使うことができる。

クヌーセン拡散

 


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