浸透圧の物理化学− 蒸気圧降下(沸点上昇)による説明−

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浸透圧については各種の説明があるが、ここでは蒸気圧のバランスをもとに説明する。先ず蒸気圧の圧力依存性から考える。

 1.蒸気圧に対する外圧の効果

1成分系の気液平衡は温度T により圧力p が決まる。これが蒸気圧p* である。この1成分系の気相に不活性気体を導入する。系の圧力は蒸気圧より大きいP となりp* は気相中の蒸気の分圧となる。実用上は外圧 により液体蒸気の分圧p* は変化しないものとして取り扱う。しかし、実際は凝縮相(液相)が不活性ガスで加圧されると、蒸気圧p* は増加してp となる。

系を不活性ガスでdP 加圧したとき、気液両相の化学ポテンシャル変化は等しい。

このとき、液相には全圧P が関わる:     (Vm はモル体積)
一方、蒸気相の化学ポテンシャルは蒸気圧(着目成分の分圧)p のみに依存する:
理想気体では だから、次式が得られる。

不活性ガスを加えてΔP 加圧したことによる液相側の変化はp* →(p+ΔP )≒(p*+ΔP ), 蒸気相側の変化はp* p  なので、上式をこの圧力変化間で積分する。

これより、
さらに、

【例】25℃の水で圧力が1 MPa増加した場合の蒸気圧増加を計算する。


と式(*)から、(p/p* )= 1.00733 。すなわち、0.73%の増加である。<op.xls>

2.加圧による蒸気圧増加からの浸透圧の解釈

純溶媒と、溶質濃度xB [モル分率]の溶液が膜を介して平衡にあるには、溶液側をΔP 加圧しなくてはならない。この膜の部分を蒸気相と みなし、純溶媒の蒸気圧p* と、加圧で増加した溶液の蒸気圧p が等しくなるΔP が浸透圧であると考える。(細谷,湯田訳:ムーア基礎物理化学(上), p. 212, 東京化学同人(1985))

 ラウールの法則より、 なので、溶質の存在による蒸気圧降下は

上述の式(**)より加圧ΔP による蒸気圧上昇は。両者が等しいので次式となる。

これは浸透圧に関するファントホッフの式であり、以上の議論はこの導出のひとつにもなっている。

【例】NaClを3.5 wt%溶解した水溶液の浸透圧を求める。

溶解したNaClは解離して、2分子となるので、
とする。

@ファントホッフ式から:式(****)に数値をいれると、ΔP = 2932 kPa。

A沸点上昇・蒸気圧降下から求める: 水の沸点上昇定数Kb は0.51 K/(mol/kg)であるから塩水溶液の沸点上昇はΔT = Kbb =0.633 K。水の100℃の蒸気圧は101.3 kPa, 100.633℃の蒸気圧は103.55 kPa。すなわち塩水溶液の蒸気圧は2.22%低下する。(式(***)からも得られる。)この蒸気圧降下 割合は25℃でも同じである。この蒸気圧降下を補い、水の平衡蒸気圧p* と同じにするためには塩水溶液を加圧して、蒸気圧を2.25%増加させる必要がある。式(*)から
p/p* =1.0225=exp(1.89×10-5×ΔP/8.3145/298)
なので、ΔP = 2919 kPaである。 <op.xls><cox線図2.xls>


 

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