Web版化学プロセス集成 膜分離法1
「ものを分ける技術」すなわち分離技術は生産プロセス、環境プロセスなどあらゆるプロセスで必要な技術である。膜分離法も多くの分離技術のひとつである。分離技術には蒸留、吸着など各種あるが、膜分離法は分離機能を持つ膜を利用するという特徴がある。図は水溶液に対する各種分離技術について、分離するために利用する性質と対象とする物質の大きさを示す。このうち精密濾過、限外濾過、ナノ濾過、逆浸透、透析、電気透析が膜分離法である。また、膜分離法はガスの分離にも用いられる。膜分離法ではいろいろな種類の膜を利用することにより、分子レベルから粒子レベルの大きさまで幅広い物質分離に適用できることが特徴である。膜分離法で分離のために利用する性質は、主として分子・粒子の大きさであるが、拡散速度の差(透析)や、電気透析法では電荷も利用される。膜分離法はおもに圧力によって物質を分離するので、熱を使用する蒸留法などに比較して、省エネルギー的であるという利点をもってる。
以下に膜分離法の応用例を種類ごとに示した。逆浸透法の代表例は海水の淡水化である。限外濾過法は自動車工業における塗料のリサイクル法として最も広く使われてきた。精密濾過法は水から固形物を取り除くために一般的に使用されている。透析法は医療分野での血液透析治療になくてはならないものである。電気透析法は食用塩の製造に用いられている。 膜分離法では分離膜は膜モジュールの形で市販される。現在の産業用膜モジュールの市場規模は約500億円であり、15%成長を持続している。膜の種類では精密濾過が67%、限外濾過が16%、逆浸透が17%である。適用分野では超純水製造など電子工業分野が1/3をしめている。
膜分離法は新しい分離法なので、現在もいろいろな分野への応用が検討されている。今後は水処理分野、特に飲料水用の浄水プロセスでの膜分離の応用が拡大するものと予想されている。
各種膜分離法の応用例
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逆浸透 |
限外濾過 |
精密濾過 |
透析 |
電気透析 |
水処理分野 |
海水淡水化 |
し尿処理 |
浄水 |
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海水からの食用塩の製造 |
工業分野 |
電子工業用超純水の製造 |
自動車の電着塗装排水からの塗料の回収 |
原子力発電所の冷却水処理 |
酸・アルカリの回収 |
めっき廃液からの金属塩の回収 |
食品分野 |
トマトジュースの濃縮 チーズホエーの濃縮 |
牛乳および脱脂乳の濃縮・分画 生酒製造 ハチミツの脱タンパク質 |
生ビール、ジュースの清澄化 ミネラルウォーターの無菌化 |
低アルコール酒の製造 |
オレンジ果汁の酸度調整 減塩醤油の製造 |
製薬・医療分野 |
注射用無菌純水の製造 |
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血漿分離 |
血液透析 |
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逆浸透法:
逆浸透法による海水淡水化施設を紹介する。これは沖縄県北谷浄水場の施設であり、一日あたり4万トンの飲料水を製造する。先ず汲み入れた海水に凝集剤を添加して濁り成分を凝集させ、この粒子をろ過器で除去する。次いでpH調整をおこなう。これは膜モジュール内でのミネラル成分の析出防止や、膜素材の寿命を延ばすために必要である。また、溶存塩素も除去される。十分不純物を除去した海水を高圧ポンプにより 60気圧程度まで圧力をかけて膜モジュールに送入する。この高圧により膜モジュールから純水と濃縮海水が得られる。原水である海水の塩分濃度は3.5%であるが、得られた水の塩分濃度は0.05%以下であり、取水した海水の40%が飲み水となる。膜モジュール内で濃縮された海水の塩分濃度は5.8%である。写真は一日あたりの造水能力5,000トンのユニットで、浄水場全体ではこれが8台備えられている。
このように逆浸透法では海水の前処理がたいへん重要である。前処理を十分におこなうことで、1年程度の連続運転が可能で、膜モジュールも4-5年使用できる。
(海水淡水化装置(佐渡海洋深層水センター))
沖縄県企業局海水淡水化施設|その紹介(YouTube)|福岡の海水淡水化施設|PRESS096|Key Person Interview
限外濾過:
限外濾過法による水処理の例を示す。回転膜モジュール(日立プラント)による水処理プロセスである。(岩手県水沢市胆江地区広域行政組合、胆江地区衛生センター)ここでは限外濾過膜で水処理施設の活性汚泥の分離・濃縮をおこなっている。膜装置は回転型という特殊な形式のものである。この膜モジュールにより反応槽からの汚泥と水を分離している。使用する膜は分画分子量75万のポリスルフォン多孔質膜である。径750mmの円盤平膜を重ね、交互に回転させることで膜の目詰まりを防いでいる。処理された水は活性炭吸着処理ののち、川へ放流する。分離された汚泥は焼却処理される。
1基当たり154枚の円盤型平膜、膜面積 115 m2、水の透過量 3.5 m3/h
精密濾過:
精密濾過膜をみかん果汁の清澄化処理に使用している例を示す。(愛媛県農業協同組合連合会、セパラシステムズ社製「フレッシュノート・システム」)(図中の数値は糖度[°Bx])精密濾過膜を通すことによりみかん果汁から濁り成分のパルプ質を除去している。パルプ質の堆積によりしだいに膜の透過性能が低下するので、使用する膜装置の台数を増やしながら連続運転をおこなう。このプロセスではその清澄果汁をさらに逆浸透膜で5倍に濃縮している。その濃縮果汁と、パルプ質を再び混合して製品である濃縮果汁を製造する。このシステムで1日あたり30トンの濃縮果汁を製造できる。
上段が精密濾過・限外濾過装置、下段が逆浸透膜装置
果汁と濃縮果汁