蒸留塔モデル製作実習

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伊東研


1.はじめに

化学工学分野は石油化学工業中心とする化学プラントの設計・運転に携わるケミカルエンジニアの教育を主たる目的としている。このため教育内容は化学プロセス、プラントおよびそれを構成する単位操作機器の設計・解析・運転に関するものが中心である。しかしその化学プロセス、プラントは教育現場(大学)から離れたところにあり、実物を見学する機会はあまり作れない。このため学生は実物のイメージを把握できない状態で製図や設計計算をこなしている。これでは学習の動機づけが不十分であり、学習意欲が持ちにくいのも当然である。(現状では後追いの3年生の工場見学旅行で、それまでの講義・演習の実物を見る機会としている。)他の分野では、例えば機械工学なら旋盤作業などによる機械の製作、電気工学なら電気回路の製作と学習対象を具体的に把握できるが、化学工学では学習対象物のイメージを持たせにくい点が教育上の困難な点である。

工学の各分野で近年JABEE等で教育重視の動向から、ものつくり教育・実地教育の開発の必要が生じている。化学工学でのものづくりとは化学プラントの設計・建設に他ならないが、しかし実際のプラント建設実習を大学でおこなうことはできない。講義室内での実物教育の試みとして、簡単なプラントモデル製作の実習を構成し、化学工学におけるものつくり教育を検討してみたのでこれを紹介する。

2.エンジニアリングモデル

化学プラントの建設では、設計段階でエンジニアリングモデルを製作する。製作した模型をもとに実際の工事手順や安全性などの検討をおこなう。(最近は3次元CADに置き換わりつつある。)このモデル製作の専門の会社があり、化学プラントに特有のフランジやバルブのパーツを持っている。この会社が社内の研修用にモデルキットを用意しており、市販もされている。

蒸留塔などについてキットとして図面とパーツが揃い、詳細な製作のマニュアルが用意されている。 筆者は修士学生の演習用に7年にわたりこれを購入してきた。この製作は3人一組でも1学期かかる大がかりなものであり、実際のプラントを知り、図面を読み取るよい訓練になっている。(図1)

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2.プラントモデル製作実習の企画と実施

ものつくり教育・実物教育の観点から、このエンジニアリングモデル製作を、学部の設計製図実習のなかに取り入れようと企画した。上記の市販のモデルキットは価格面と大きさから採用できなかった。そこで、オリジナルの蒸留塔モデル製作実習を構成した。 製作するのは図2のような蒸留塔である。(スケールは1/50)教育の目標は、図面の製作と図面どうりの配管作業とした。


ノズル、バルブ、サポート等のパーツ購入費用は一組 約\7,300であった。これを25組用意した。モデルに必要な機器は蒸留塔、熱交換器、ポンプであるが、これらは教官側であらかじめ製作しておく。

実習の進行は
第1回:解説
第2回:P&I図の製図
第3回:配管図の製図
第4、5回:モデル製作
である。2人一組、週2限5回のコースとなる。

はじめの解説では実際のプラント・蒸留塔をビデオで見せながら、プラントやその設計・建設の実際や配管の実際ついて説明をおこなう。実物のイメージをもって実習をすることに留意する。

図3はモデルのP&I図でここではパソコンCADで製図する。ソフトはCANDY3である。

次に機器を配置し配管図を製図する。(図4)機器配置、配管はある程度自由であるが、配管の簡潔さ、メンテナンスを考えて設計するように指導する。

実際のモデル製作は配管図にもとずき、機器間のノズルを管で接続することが実習となる。2種類の太さと流体で色分けされた管を、ペンチとニッパで切りそろえ曲げて、機器のノズルにはめ込んで配管作業をおこなう。図面との一致、配管の角度(直角)を重点に指導する。(図6,7) 製作は、はめ込みと両面テープでのみおこない、機器類が次年度も再使用できるようにした。


4.教育効果

実際に手を動かしておこなう実習には学生も興味・意欲を持って取り組んでくれた。模型ではあるがプラント製作作業を体験することで、他の授業・演習にもイメージをもって取り組む一助になっているものと期待している。化学工学分野でのものづくり教育の試みとして成果があったものと考えている。

(実際の配管をイメージしながら 直角(エルボ)しかない)

完成


購入部品

購入先 ジェマコーポレーション


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