Web版 化学プロセス集成 パルプ(製紙工場)

 

製紙工場では木材からパルプを作り,そのパルプを紙にしている。木材からパルプを作るには薬品でパルプ以外の樹脂成分(リグニン質)を除去する。このリグニンを溶かした液が黒液であり,製紙工場ではこれ を有効利用して,濃縮・燃焼・再生の工程により高度なリサイクル処理がおこなわれている。ここでは北越紀州製紙(株)新潟工場のクラフト法というパルプの製造法を紹介する。

 

先ず連続蒸解釜で原料チップ(木材)をアルカリ性のNaOH(苛性ソーダ)水溶液*)で処理する。高さ 60 mの連続蒸解釜(塔)の上部から原料と薬液(NaOH)を投入し,温度150〜160℃で 5時間処理して,塔の下部から抜き出す。この蒸解操作で木材はセルロース質であるパルプと,リグニン質が溶けた黒液(こくえき ,Black liquor)となる。

パルプは洗浄で黒液と分離された後,漂白され,抄紙機を通して紙製品となる。

黒液(固形分20%)はエバポレーター(多重効用蒸発装置)により自燃可能な濃度75%まで濃縮される。

濃縮黒液を(ソーダ)回収ボイラーで燃焼する。発生した熱は発電や紙の乾燥に使われる。ボイラーでリグニン質はCO2となり,薬品はボイラー底から回収される。これをスメルトという。

スメルトを溶解・処理して炭酸ナトリウム(Na2CO3)の溶液(緑液)とする。これに酸化カルシウム(生石灰,CaO)を混合・反応させてNaOHを生成する。このNaOHがリサイクルされ,再度蒸解に用い られる。

    CaO(s) + H2O(l) → Ca(OH)2(s) ΔH = -66.5 kJ

    Na2CO3(aq) + Ca(OH)2(s) → 2NaOH(aq) + CaCO3(s) ΔH = -8.8 kJ

ここで生成した炭酸カルシウムCaCO3はキルンにより900℃以上の高温下で酸化カルシウムCaO(s)に戻され,リサイクル使用される。

    CaCO3(s) → CaO(s) + CO2(g) ΔH= 178.5 kJ


注:
*) クラフト法では,実際にはNaOH循環に付随してNaOHに対して30%ほどの硫化ナトリウムNa2Sも循環している。硫化ナトリウムNa2Sは蒸解操作時にセルロースを保護し,リグニンを可溶性にする重要な 働きをする。Na2Sは黒液中ではNa2SO3で存在し,回収ボイラで Na2SO4 + 2C → Na2S + 2CO2 により元のNa2Sに戻る。 回収ボイラーからのスメルトは Na2SとNa2CO3が主成分。


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