Web版 化学プロセス集成
海水からの塩の製造−電気透析法と多重効用蒸発による塩の濃縮プロセス-

 

日本の製塩法は 1972年以降,流下式塩田製塩法からイオン交換膜法と真空式蒸発缶による現代製塩法に代わった。現在4社6工場1)がこの方式で製塩をおこなっている。ここではナイカイ塩業(岡山県玉野市)の製塩プラントを紹介する。

ビデオ資料 ナイカイ塩業(岡山県玉野市)

取水した海水は2段の砂濾過により濁質を除去する。先ず塩分濃度約3%の海水を,イオン交換膜を用いた電気透析装置で塩分濃度15%以上に濃縮する。イオン交換膜は約1 m×2 m,厚さ0.1 mmの膜で,陰・陽のイオン交換膜を0.5 mmのスペーサを介して対とし,2100対で1台とする。300〜500 Aの電流を流すことで,1台で15%濃度の塩水を10 m3/h生成できる。この電気透析装置で,例えば塩濃度2.6%の海水から,塩濃度20%の海水 1 Lを得る電気エネルギーは 720 kJである2)。 これを水の蒸発で行う場合は,蒸発水量は 6690 gなので,蒸発潜熱( 2.3 kJ/g)を考慮すると 15,390 kJのエネルギーが必要である。すなわち電気透析法は蒸発法の20分の1の使用エネルギーである。

濃縮海水(かん水)を蒸発装置で,塩の飽和溶解度(約25%)以上に煮詰めることで結晶塩を生成する。蒸発装置は熱エネルギーの有効利用のため,多重効用蒸発という形式である。これは最初の蒸発装置で発生した水蒸気を次段の蒸発装置の加熱に使う方法である。この際,伝熱には温度差が必要なので,段々と減圧することで蒸発装置内の蒸発温度を下げることが必要である。このため最終段には真空発生装置(コンデンサー)が付属する。真空発生装置は単に水の高さ(17 m)の自重(水頭圧)で真空を発生している。下図に3重効用缶としての流量と操作条件を模式的に示す。原料塩水の水分を95.5%蒸発・除去するのに,40.6 ton/hのスチームにより, 121.9 m3/hの水を蒸発させている。実際の装置は4重効用であり,流れもこれより複雑である。

参考資料:

1) 株式会社日本海水 小名浜工場・讃岐工場・赤穂工場,ナイカイ塩業株式会社(岡山県玉野市),鳴門塩業株式会社(鳴門市),ダイヤソルト株式会社(長崎県崎戸町)
2) 「塩なんでもQ&A」,塩事業センター(2001)


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