無次元パラメータ

 化学工学で使われる無次元数は通常「次元解析」により導かれる。しかしこれらを別の観点すなわち流束(Flux)の比としてとらえることで各無次元数の物理的意味が明確となる。

 移動論では物質・熱・力(運動量)を流束(Flux)の観点から同一の方法で取り扱う。流束にはいろいろな種類があり、主なものは対流拡散である。対流による流束は流れ自身により移動する流束である。拡散による流束 は「場」の勾配によってひきおこされる流束である。拡散の流束は物質移動の場合はFickの法則,運動量移動の場合はNewtonの法則,熱移動の場合はFourierの法則で定義される。

1次元の場合の各種流束とその尺度(=(m)=)を示す。

物質[kg] 運動量[kg・m/s] 熱 [kg・m2/s2](運動エネルギー)
 [J](熱エネルギー)
対流
対流

(ρu:単位面積当たり質量通過速度)
対流
拡散(フィックの法則)
せん断力(ニュートンの法則)

@は壁の摩擦力.円管内流れに使用
Aはせん断層中の速度勾配
伝導伝熱(フーリエの法則)
動圧による運動量流束

(速度uの流体がせきとめられて速度が
0になると圧力はこの大きさだけ高くなる)

これらを流れ場の形状で具体的に示すと、
円管内の流れ

流体中の球

平板に沿った流れ

流束の比による無次元数の定義

物質流束に関する無次元数

熱流束に関する無次元数

運動量移動に関する無次元数


なお,移動論の視点では連続体の力学を運動量の移動としてとらえる。すなわち 力[N]=[kg・m/s2] を面を通過する運動量の流束(運動量の移動速度)[kg・m/s]*[1/s]*[1/m2]で扱う。運動量流束は力学のせん断応力および 圧力と同じ次元。熱伝導の場合,温度差があると熱流束がある。これは逆にみれば温度差が定常に存在するには熱流束が必要と言える。これと同様に2面間で速度勾配が定常で存在することは面に垂直に運動量が「伝導」していることである。

1.Peclet数は物質Flux,エネルギFluxのReynolds数

Peclet数の定義は,

レイノルズ数Reの流体力学的の定義は(慣性力/粘性力)である.これはナビエ−ストークスの式の無次元化から導かれる.しかし「移動論的観点」からは力[N]=[kg・m/s2]を運動量[kg・m/s]の流束[kg・m/s/s/m2](面積 で積分すれば力)でとらえることとなる.これによる再定義は

である.流れにより運ばれる運動量Fluxは ρu2.粘性により移動する運動量Fluxはτwで定義されるが,より一般的にするために,移動面Sに沿ったせん断層中の代表的速度勾配をu/Lとすればニュートンの法則により, τw=(m)=μu/L なので,

の通常の定義式となる.

 なお,球のまわりの流れについて考えると,面に垂直に移動する運動量Fluxはせん断力に関するΦFと動圧によるΦpとがある.両者をあわせて,面積で積分したものを抗力FDという.球の抗力係数(Stanton数)の定義 は,

(普通はCD=FD/((ρ/2)u2A とされている.係数1/2の根拠は慣習的なものであろう.) さらにΦF=(m)=μu/Rと動圧によるΦp=(m)=ρu2 の比は (ρuR/μ)=Re であり,これがReに関するもう一つの見方である.球の周 りのN-S方程式を解くにあたって動圧を無視して摩擦力だけを考えると解析的に解ける.これがStokesの解である.その仮定が

であり,これがStokes近似の意味となる.

2.平板上のレイノルズ数Rexの不合理

平板レイノルズ数Rexは平板前端からの距離xにより ρux/μ で定義される.このとき主流にかなり乱れがある場合の層流-乱流遷移はRex=3x105 である.

 しかし前節の図のようにControl Volumeを考えて、ここでの定義をあてはめると,代表的速度勾配はu/δδ:位置xでの境界層厚み)なので,

となる.

 円管内流れでの層流-乱流遷移はReR=1150.(R:管半径)これは上のRexとひどく違うようにみえるが,Reδ=5.0√Rexδ/x=5.0√Rex)を使うと遷移はReδ=2700.さらにδは代表厚みだから何でも良いわけで,次例として運動量厚みδi(δi/x=0.67√Rex)をとると,遷移はRei=336.

 結局,円管でも平板上でも,流れ込む運動量が速度勾配のせん断力により伝わる運動量Fluxの1000倍以上になるともはや定常な速度勾配によって運動量は移動しきれずに"渦"で移動し始めるのである.

3.Stanton数とアナロジー

 Stannton数とは,

である.半径Rの円管内の流れを考える.

 物質の場合ΦB=(m)=ρuωAΦwΔωA(濃度差)で定義される物質移動係数kにより Φw=(m)=kωA なので,

 運動量の場合

(これは摩擦係数Cf=τw/(ρu2/2)の半分.)

 エネルギーの場合ΦB=(m)=ρuCpΔTΦw=(m)=hΔTより,

 この3種の移動現象について「各移動が同じ機構でおこなわれる」と仮定すると(例えば乱流ならPr,Sc≒1)「流れの様相が同じ(同じRe数)」なら3つのSt 数は同じなのではというのは当然の類推である.アナロジ ーは概略このような観点からみちびかれた.

・レイノルズのアナロジー StH=Cf/2

・コルバーンのアナロジー StHPr2/3=Cf/2

・チルトン・コルバーンのアナロジー(濡れ壁塔の蒸発・吸収ならモデルどうりである)

             StMSc2/3=Cf/2

4.平板Sherwood数

 Sherwood数の定義は着目面の物質移動流束(拡散+対流)を拡散流束のスケールで無次元化したもの.平板上の移動を考えると着目する物質移動流束はNAである.これは物質移動係数kを導入して NA=kΔωA のように 記述される. 拡散流束の代表値は普通平板前端からの距離xにより=(m)=ρDΔωA/x とされるが,これはRex と同様不合理である.ここでは境界層厚みより=(m)=ρDΔωA/δ としてみよう.するといわば「境界層Sherwood 数」が,次式となる.

  (通常のSh数のxδに置き換えたもの)

 拡散流束のみの場合,

なので,δ/x=5.0√Rexより, Shx=1.66Sc1/3 となる.すなわち拡散流束は境界層内の濃度分布を直線として算出されるFluxの1.66倍.これを管径Dの円管内流れにあてはめる.δ=D/2に相当するとすると, Shm=3.32である .この結果はGreeatz問題の解:

に比較できる.


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