細管内の流れから海洋・大気の運動まであらゆる流体の運動を記述するのがナビエストークスの方程式である。これは偏微分方程式なので直接解くには、流れ場を格子状に区切って(離散化して)微小時間毎に計算する方法がとられる。これには有限差分法,有限要素法等の手法があり,大規模な連立方程式を解く問題に帰着する。この分野は数値流体力学として発展をしてきた.スーパーコンピュータを使用する世界ではあるが,現在はなんとかパソコンでも計算可能である。
しかし,その昔はこの式(1845)だけはあったものの直接解くことはできなかった。プラントルは固体壁の近傍の流れだけに着目してこの部分にのみ粘性を考慮することにより,NーS方程式を簡略化した境界層方程式を提案した(1904)。これは相似変換により級数展開,積分法などで解くことが可能であったのでとくに航空力学の分野で役立ち,飛行機の設計に大きく貢献した。
境界層方程式を解いて流れに平行に置かれた面近傍の速度分布を計算する.この分布を使って温度分布(伝熱速度),濃度分布(拡散速度)も計算できる。
境界層方程式(速度):
境界条件: y=0 : u=v=0 および y=∞: u=U∞(一定)
濃度境界層方程式:
境界条件: y=0 : ω=ωs および y=∞: ω=ω∞ (ωは着目成分の質量分率)
ここに,
を導入して変形すると次の常微分方程式となる。
速度
(境界条件:η=0 :F = F '= 0 および
η=∞ : F '= 1)
濃度
(境界条件: η=0 : θ= 0 および η=∞ : θ=
1)
ただし Sc=μ/(ρD)
この式は通常の数値積分で解くことが可能である.しかし,η=0の位置から積分するのであるが,η=0でのF''およびθ'の値が未定である。その代わりにη=∞でのF'の値およびθの値が境界条件として与えられている。このような問題を「境界値問題」と言う。一方,ルンゲークッタ法等は積分計算開始点の値がすべて既知の問題すなわち「初期値問題」しか解けない。どうするか? それは簡単で,η=0での値を仮定してとりあえず積分を実行し,η=∞での条件に合うまでこの方法を繰り返すのである。これをShooting-Method(数撃ちゃ当る法)と言う。実際にはη=∞はη=10にとり,F''(0)およびθ'(0)を最初0.3程度にとって積分して、この値を境界条件に合うまで試行する。
Excelによる境界層方程式の解法
「常微分方程式解法シート」(Runge-Kutta-Fehlberg法版)で解く。厳密解のf'' (0) = 0.33206 になっている。
水で濡れている板上をu∞= 1 m/s で空気が流れている.板面がy=0である.使用する物性値は,空気のμ=2.0x10-5kg/(m・s),ρ=1.2kg/m3,水-空気系拡散係数D=2.56x10-5m2/s. 空気中の水の濃度は板上でωs=0.03,空気主流でω∞=0 とする.
@常微分化した境界層方程式を解いて,η vs. F’,θ 座標上に描く.(図1)
ヒント:EQUATRAN-Mでの記述は以下のよう.(θはWで代用)
1: F '''+(1/2)*F*F ''=0
2: W ''+(Sc/2)*F*W '=0
3: Sc=?
4: F # 0
5: F ' # 0
6: F '' # 0.2(ここの値を変えて再試行し,η=∞(実際はη=10)のF'の条件に合うようにする)
7: W # 0
8: W ' # 0.1(ここの値を変えて再試行し,η=∞(実際はη=10)のWの条件に合うようにする)
9: INTEGRAL E[0,10] step 0.1
10:trend F,F',F'',W step 0.5
A板上のx=0.1m の位置での実際の濃度分布を y[m] vs. ω で描く.(図2)
Bこの位置での水の蒸発速度(流束)NA[kg/(s・m2)は,
である.この値を使うと,床にぼしたコップの水は何分で蒸発するか推算しなさい.その答は君の常識と合っていますか?