段接触プロセス3 カスケード

 カスケード理論

(a)方形カスケード  

 蒸留塔,多段抽出プロセスなど、普通の向流多段分離プロセスでは各段を流れる流体の流量は基本的に一定で,したがって各段の分離ユニットの大きさも同一である.これを方形カスケードと呼び,装置,システムの製作上は最も経済的である。しかし、「分離の効率」の観点からみると、前後の分離ユニットから入ってくる濃度の異なる流れを供給側で再度混合することは、効率低下を招いている.

(b)ノーミキシング条件と理想カスケード

 2成分系の向流多段分離プロセスにおいて、第 j 段まわりの流れを右のように表わす.分離ユニットに入る流れが合流して供給流れF となり、濃縮流れQ と減損流れW に分離される.分離目的成分の割合をx,y,z とする。

この場合,分離ユニットの供給側で組成の異なる流れを混合すれば分離効率は落ちる.これを防ぐためにyj+1 =xj-1 = zj となるような操作が必要となる.これをノーミキシング条件と言い,これが全体で成立するプロセスを理想カスケードと呼ぶ.

理想カスケードでは方形カスケードと異なり,各段での流量F,Q,W は一定でなく,各段で異なる大きさの分離ユニットが必要かまたは同一の分離ユニットなら各段における数が異なる点が特徴である.

理想カスケードに関する理論によると、理想カスケードの分離ユニットの数は右のような特徴的外形となる.このカスケード理論はウラン濃縮プロセスのために開発されたものであるが、実際、ウラン濃縮工場は大小の建屋で構成されており、その外見はカスケードの構造を反映している。

 原子力発電所の燃料はウランであるが,天然に産するウラン中,核分裂可能な235Uは0.7%しか含まれておらず,残りは核分裂をおこさない238Uである.現在主流の原子力発電の方式では、235Uを3%程度に濃縮したウランが必要である.これら化学的には同一の同位体の濃縮は、分離操作のなかではもっとも困難な操作である.実際の分離操作は金属ウランを気体(6フッ化ウラン)にして、これをガス拡散法(多孔質膜分離)や遠心分離法で分離する.この分離操作の特徴は、分離ユニット一段の分離性能が極端に小さいことである.そこで上記のような「分離の効率」を厳密に考える理論が、使用されるわけである.

この分野はもともとは第2次大戦中のマンハッタン計画におけるウラン濃縮工場の設計用に物理学者により作られた理論であり,ケミカルエンジニアが考案した蒸留などの単位操作の手法とは発想のもとが異なっているようである.

筆者も高島洋一先生の「原子力化学工学」クラスでカスケード理論の展開を学んだのであるが、その難解さには同じ化学工学でもこうも違うかと驚いたものである。しかし、次に見るように 基礎式自身は単純な物質収支であり、実際に数値で演習してみるとそれほど難しいものではない(と思う)。似たような連立方程式を解くために、化学工学者は図式解法を工夫し、物理学者は数式のみで解を求める方法を工夫したと言ってよいのでは。

[参考リンク>| 六ヶ所村ウラン濃縮工場(遠心分離法)|

ウラン濃縮プロセスのカスケード

【例題】原料濃度 0.7 %の 235U を 3 %まで濃縮するプロセスを設計する.処理量は 1 kmol/h である.手持ちの分離ユニットは1台につき処理原料流量 0.5 kmol/h の容量であり,これをカットθ=(Q/F )= 0.5 の条件で操作する.このときの分離係数α=(yj/(1-yj))/(zj/(1-zj)) = 1.1 である.全段数を 21 段として,理想カスケードを組みなさい.

【解】図のような理想カスケードで各段における物質収支は,

である.これを各段について書いてEQUATRAN で記述すると以下のよう.

/*カスケード分離プロセス "cascade.eqs" */
local N=21 ,j=?(Feed段)
var Q(N),W(N),Feed(N),z(N), F(N)
cut=0.5; a= 1.1
/* 濃縮製品出口 */
Q(1)+W(1)=F(1) ;F(1)=Q(2); Q(1)=cut*F(1)
a=(xD /(1-xD ))/(z(1)/(1-z(1)))
/* 中間各段 */
Q(2:N-1)+W(2:N-1)=F(2:N-1) ; F(2:N-1)=Q(3:N)+W(1:N-2)+Feed(2:N-1)
Q(2:N-1)=cut*(F(2:N-1))
a=(z(1:N-2)/(1-z(1:N-2)))/(z(2:N-1)/(1-z(2:N-1)))
/* 減損原料出口 */
Q(N)+W(N)=F(N) ; F(N)=W(N-1) ;Q(N)=cut*(F(N) )
a=(z(N-1)/(1-z(N-1))) /(z(N)/(1-z(N)))
/* */
Feed(j)=1 ; z(j)=0.007
Feed(1:j-1)=0 ; Feed(j+1:N)=0

【レポートの様式】原料供給段位置をスペックに合うよう決めて,各段の台数を計算して,カスケードの構成を図示しなさい.


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