化学工学基礎 G 蒸気圧と湿度 |
|
蒸気: 全ての物質はその臨界温度 Tc より高い温度ではどんなに圧縮しても凝縮しない 。臨界温度より低い温度では圧縮により凝縮する。蒸気(vapor)とは凝縮する可能性のある気体である。
(データはNISTの熱力学データより)
飽和蒸気圧:ある温度,圧力で1成分系で気液両相が共存するとき その蒸気を飽和蒸気と言い,このときの温度が飽和温度または沸点であり,圧力が飽和蒸気圧(または単に蒸気圧)である。
相律:純物質の飽和蒸気圧について相律(phase rule):
F=C+2−P
(F:自由度,C:成分の数,P:相の数)
を適用する。純物質であるから C=1,気・液両相が共存するから,
P=2,よって, F=1+2-2=1。したがって温度または圧力の一方を 指定すれば自由度は零になる
。すなわち純物質の飽和蒸気圧は温度のみに依存する。
なぜ気−液の相変化が生じるかはGibbsエネルギーの値で説明される。一般に物質の相はGibbsエネルギーGm
Gm = Hm - TSm
が減少することで安定する。下図は水蒸気表よりエンタルピー Hm ,エントロピーSm(三重点(0.01℃,
0.00611 MPa)液相基準)を得て,水の気液両相のGibbsエネルギーGm
を求めたものである。低温では蒸発潜熱分だけ蒸気相のエンタルピー Hm
が大きいので,液相が安定である。高温では蒸気相のエントロピーが液相より大きいこと(温度に対する傾きが大きい)により TSm項が増加するので,この効果で蒸気相のGibbsエネルギーGm
が低下し,蒸気相が安定となる。この気液安定状態の交点が蒸気圧曲線である。
(データはNISTの熱力学データより)
蒸気圧が温度のみに依存するということは「(外部の)圧力に依存しない」ということである。以下の図のように,減圧下(真空)でも,他成分の存在する加圧下でも蒸気圧は変わらない。(工学的取り扱いはこれで良いが,実際には加圧により蒸気圧はわずかに大きくなる。これが浸透圧の原理である。)
各種の液体の蒸気圧はCox線図で 表される.縦軸の対数目盛りに蒸気圧をとる 。横軸が温度で,この目盛りは,水蒸気の飽和蒸気圧と温度の関係が直線になるようにした特殊温度目盛りである。
純成分が気相(G)と液相(L)にあるときの平衡を考える.両相の化 学ポテンシャルμは等しい。
μG(p,T) =μL(p,T)
すなわち, dμG(p,T)
=dμL(p,T)
多変数関数の微分では,
であるからこれらを代入して整理すると,
。
純成分1molが等温可逆的に液相(L)から気相(G)に移るとき,外界か ら吸収する熱すなわち遷移熱(潜熱)をΔHVとすると,
SG-SL=ΔHV/
T
なので,
となる。これが Clausius-Clapeyron式である。
この式に仮定@:理想気体,仮定A:VG》VL,仮定B:温度依存
性を無視,の仮定を適用すると,
となり,これを積分して,
である。これが熱力学の理論から予測される蒸気圧と温度の関係で ある。しかしこの式は仮定を含んでいるため実在物質の蒸気圧を表
現するには不十分である。上式をもとに蒸気圧を表すさまざなま半理論式が提案さ れている。実用上はアントワンAntoine式:
p*:純液体の温度Tにおける飽和蒸気圧,[Pa]または[mmHg]
T:温度,[K]または[℃}
A,B,C:実測値をもとに決められた成分毎の定数
が広く用いられる。
気体中の蒸気の分圧pがその温度tにおける
飽和蒸気圧p*より 低い状態を部分飽和という。部分飽和の水蒸気を含む空気を湿り空 気という。
露点:温度t,水蒸気分圧pにある湿り空気を冷却
すると,飽和蒸気 圧曲線と交わったところで凝縮がおこる。このときの温度をその空
気の露点tdewという。さらに冷却を続けると飽和空気は飽和蒸気
圧曲線に沿って水蒸気分圧を下げ,その分の水が凝縮する。
湿度:水蒸気−空気系での部分飽和の表し方が湿度であるが,各種の湿度がある。これは空気は開放系であるので,湿り空気の温度,
湿度の計算をする場合にその都度便利なように基準がとられるためである。
@関係湿度(Relative humidity) 単純に水蒸気分圧とその温度の 飽和蒸気圧の比。相対湿度とも言う。これを%でしめしたのが日常,
気象学上の湿度である。基準が温度変化するので工学計算に使えな い。
A絶対湿度H [kg-水蒸気/kg-乾燥空気] 乾燥空気1kgに含まれ る水蒸気の量。計算の基準が明確なので工学で普通使用され,工学 での「湿度」はこれをさす。これにより「湿度図表」が表されてお り,調湿操作の図解法に用いられる。空気中の水蒸気分圧pとの関 係は:
(ただしPは全圧)
B比較湿度(Percentage humidity) 混合気体がそのときの温度,全 圧で完全に飽和したときの乾燥空気あたりの水蒸気mol数に対する, 実際のmol数,
Cモル飽和度 乾燥空気に対する水蒸気のモル数の比.
以前は湿度は図のような乾湿球温度計で測定されていた 。乾球の温度t[K] (dry bulb temperature)は気温を表し,湿球の温 度tw[K] (wet bulb temperature )[K]は水の蒸発により、常に乾球 温度より低い.これらより空気の湿度は,
H :空気の湿度[kg-水蒸気/kg-乾燥空気],
Hw :湿球温度における飽和湿度[kg-水蒸気/kg-乾燥空気],
λw:湿球温度における水の蒸発潜熱 (=2502-1.884t
[℃]
kJ/kg) (式中の数値の単位は1090 J/(kg.K))
で求められる。これは,
(空気から湿球表面への顕熱移動速度)
(水の蒸発による潜熱の大きさ)
(乾球温度と湿球温度の差に比例)
(空気湿度と飽和蒸気圧の差に比例)
による。
湿り空気に関する各種の工学計算には 湿度図が利用される 。縦軸に 絶対湿度,横軸に温度をとって全圧101.3kPaの空気についてしめし たものである。図中の曲線が等比較湿度線,右下がりの線が等湿球 温度線。(上のH,t,Hw,twの関係式) この図では空気の露点が その絶対湿度と湿度100%の線との交点で表せる。
【例題8.1】
日中の大気が32.2℃(p*=4.79kPa),関係湿度80%で,夜間は20℃
(p*=2.31kPa)になると日中の空気中の水蒸気の何%が露として析出
するか.
【解】
基準:乾燥空気1mol.
32.2℃で含まれる水蒸気は 4.79×0.80/(101-3.83)=0.0394mol
20℃の飽和空気に含まれる水蒸気は 2.31/(101-2.31)=0.0234mol
よって (0.0394-0.0234)/0.0394=0.406. 40.0%凝縮する.
【例題8.2】空気の圧縮による水蒸気の凝縮
コンプレッサーとは大気圧の空気を取り込み、いったん圧縮して、再度その空気を大気圧でとり出すものである。この過程で空気中の水蒸気が凝縮し、出口空気の湿度が低下する。その除湿量を以下のようにステップ毎に計算する。
この操作で除去された水:(ここではモル基準で計算する)
基準:乾燥空気1mol