化学工学ビジュアル資料


化学プロセスの映像資料収集の活動をしています。これらは講義やホームページ(web版化学プロセス集成)で活用させていただいております。


化学工学 2007年 8月号 p. 514

書評 工場萌え 石井 哲・写真,大山 顕・文,東京書籍 (2007年3月, 価格 1,900+税)

化学プラントやコンビナート工場群の写真集である。京葉や鹿島などのコンビナートで撮影した化学プラントの塔槽類・配管群の写真で1冊を成している。このような写真集が売れるのか不思議に思うが,結構販売数があり,新聞の書評に載ったりテレビで紹介されたりもしている。(著者が出演したNHKの「視点・論点:工場地帯の歩き方」(5月1日)。)姉妹編として工場の風景を延々撮したDVDも出ている。

世間には鉄道マニアやアニメマニアなどがいることは知られているが,「工場マニア」なるひとたちが存在するのである。工場マニアたちはその工場が何を製造しているかに興味があるわけでなく,工場装置の巨大さ,複雑さを専ら「鑑賞」の対象とする。工場の外観を鑑賞するだけなので,当然その対象は装置が 外から観られる化学プラント・コンビナートとなる。化学プラントの写真を撮って楽しむのはかなりマイナーな趣味であったが,ネット上で共感者が増幅し,ついに写真集という形であらわれた。

化学プラントでは生産の効率と安全性を極端に追求しており,その結果としてあのような巨大・複雑な外観となっている。それを専門外の素人が「機能美」として評価してくれることは化学工学にたずさわっている者として誇らしいような気がする。実はエンジニア自身も日常は意識しないにせよ自分たちが設計・運転している化学プラントに機能美を感じていることは事実であろう。

化学工学の対象が拡散して現場の製造工程である化学プラントから離れていくような現状である。そのようななかで,いわば化学工学の原点を真正面からもちあげてくれる一般人が存在するというのは,化学工学の復権のヒントになるかもしれない。工場見学などの機会を多くして,市民にプラントの機能美をアピールすることを考えてよいのではないか。またこれは化学工学に優秀な学生を勧誘する有効な手段ともなる。

 ところで化学プラントは装置が外から見えるだけに機密保持が厳しく,工場見学などの際には写真撮影 は厳禁なのが常識である。しかし本書掲載写真は特に被写体(工場側)の許可はとっているようではなく,著者らは撮影許可を得る必要はないと思っているようである。(一応「「撮影禁止の場合はそれに従う」などのマナーを守ろう。」と注記はしている。)工場を「風景」として撮っているのであるから,敷地外からなら撮影もその利用(出版)も自由ということであろうか。

実は書評者も化学プラントの写真・ビデオの収集活動をしている。それは趣味ではなく講義の補助資料として使う目的である。これはビジュアル世代の学生には化学工学をイメージを持って教える必要があると考えるからである。しかし当然だが写真撮影を許可してくれる工場はほとんど無く,講義用化学プラント映像資料収集はあまり出来ていない。

そのような苦労をしている書評者からみて,堂々と化学プラントの写真集が出版されるということについては納得できない感もある。 そこでこの点を実際に被写体となっている某製造会社の法務部に問い合せたところ,「プラントを単に風景として撮影・使用することについては,企業側からは工業所有権や著作権(建築物として)が侵害されたとは言えないのではないか。」との回答があった。やはり企業側としては好ましくは思わないが,外から写真撮影されても仕方がないというのが実際のようである。せめては本書が結果として化学工学を社会にアピールするのに役立っているものと考えたい。


これまで映像資料提供にご協力いただいた企業に感謝申し上げます。

三菱ガス化学 (映像(ビデオ)取材させていただきました(1998/10))

  アンモニアプラント   メタノールプラント
(このプラントは日本で最後のメタノールプラントであった。
(その後中国に移転)貴重な映像資料となった。)
 

 

日本リファイン (映像(ビデオ・写真)取材させていただきました(2005/4))

帝国石油 会社案内ビデオ        東京電力 CO2分離研究紹介ビデオ
               

東洋エンジニアリング 写真資料,会社案内ビデオ
 

千代田化工 写真資料,会社案内ビデオ            日立造船 写真資料
       

日揮 写真資料


なぜ化学プロセスの映像資料が必要か?

化工コースの学生向けには
学生がイメージを持って化学工学を学習できるようにしたいものです。化学工学の教科書は線図と式の羅列であり、見たこともない蒸留塔の設計計算をさせるものです。見たこともないものを設計計算してもその意義が感じられないし、学習の意欲がわかないのは当然です。このことは30年前に私が学生だった ときに感じていたことですが、30年後教える側になった今も教科書は全く変わっていません。当時は「修行」ということで膨大な設計計算をおしつけられたのでしょうが、いまの学生に「修行」を強制するのはムリです。ビジュアル世代の学生には映像資料をみせて、イメージをもって化学工学を学習させ必要があると考えます。

新入生向けには
学生に化学工学をアピールするために必要です。現在多くの大学では化学工学科が統合されて、化学系の一部の化学工学コースとして存続しています。2年次に応用化学等コースと化学工学コースに分かれます。工学部の化学とはいえ、やはり「化学」で入学してきた学生ですので、当方が漫然としていては学生は応用化学コースを選択 してしまい,優秀な学生を化学工学に迎えることができません。1年次にいかに化学工学コースを学生にアピールするかが重要です。ナノテク・ハイテクと先端技術で化学工学をアピールするのもよいのですが、化学工学はやはり「ものづくり」、生産現場に関わる分野であることを強調するため、化学プラントの映像を見せ、講義室内での工場見学をさせたいものだと考えています。工学部に入学した学生ですから、 そのようなアピールは一定の効果があると信じています。

高校生向けには
最近は大学の側から大学の内容を宣伝する「出前講義」の機会が増えてきました。このときこそ化学系のものづくりを見せるよい機会です。高校の先生方は多く理学部の出身であり,生産現場に知識も関心もありません。そのため高校の化学の教科書には化学工学に関する記事はほとんどありません。これを補い,化学工学を宣伝するには高校生に生産現場(化学プラント)を見せてやる必要があります。

工学部の他の分野は機械なら自動車,電気なら家電品,応用化学ならプラスチックと,具体的にやっていることのイメージがつかみやすいのですが,化学工学は工場見学でもしなければイメージがつかみにくい分野です。イメージのつかみにくい化学工学こそ教育資料としての映像資料が必要ですが,周知のように化学プラントはライセンス管理がきびしく, 映像資料はなかなか入手できません。取材もほとんどできません。(注)しかし化学会社とて化学工学に優秀な学生がきてほしいはずです。ライセンス問題に縛られて化学工学の宣伝に遅れをとっているうちに,プラントは日本から無くなるし,化学工学も無くなってしまうかもしれません。 化学工学教育を魅力あるものにするため,協力をお願いできる企業を求めています。(それにしても化学工学会は何をやっているのだろう? 学会こそ化学工学の宣伝・教育に必要な資料を作ってくれるべきとおもうのだが。)

注)実績:これまで新潟県内化学企業はほとんど取材申し入れしていますが,協力いただいたのは1社(三菱ガス化学)のみ。日石,昭和シェル,北陸ガスなど県内の化学プラントはどんどんなくなりつつあります・・

最近は仕方なく自分で作成しつつあります。→化学工学イラスト集


作れたらいいなと思うweb版化学プロセス集成項目(高校化学の項目にならう)(○は作成)

【物質の構成−分離】 ○蒸留プロセス(2010.2),膜分離,晶析,抽出
【電気分解】 精錬,めっき
【炭化水素】 石油精製プロセス, ○メタノールプロセス(2010.2)
【高分子】 ナイロン,ポリエチレン,塩化ビニル各製造プロセス,射出成形,紡糸工程
【無機化学】 食塩製造プロセス,○アンモニアプロセス(2010.2),硫酸製造,硝酸製造,アルミ精錬,銅,鉄,アンモニアソーダ法,触媒製造プロセス


 

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