化工計算−修行から発見へ−

化学工学専攻News Letter vol.14(2014年7月)

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伊東のExcel化学工学シリーズ-講義科目と著書の対応-
 

丸善 2014

コロナ社2018

朝倉書店 2013

化学同人 2013

丸善 2006

化学同人 2017

丸善 2014

日刊工業 2010

もう40年も以前になるが,学生時代の講義・演習は「見たこともない装置の膨大な設計計算をするのが化学工学」そのものであった。電卓も無い当時,化工演習は計算尺による手計算で,用紙一杯の計算を数時間がかりでおこなったものである。

教官として化学工学を教える立場となり,この膨大な計算の「修行」は必要なのか?という疑問から,担当の講義・演習・実験で計算の工夫を種々試行してきた。

始めは初期のパソコン付属のBASICプログラミングで各種化工計算を試みた。するといくつかの汎用の数値計算プログラムで化工計算全般を取り扱えることに気付いた。伝統のMcCabe-Thiele法や多段抽出の図解法などの図式解法は,結局非線形連立方程式をグラフ上で解いているだけであり,方程式解法で置き換えられる。

1990年代後半になるとパソコン上のExcel表計算が進歩し,ゴールシークやソルバーの機能を持った。これで,連立非線形方程式解法や最小2乗法がExcelで取り扱えるようになった。

次のハードルは常微分方程式である。幸いExcelのマクロがVBA(BASIC言語)になったので,Runge-Kutta法による解法シートを作成した。この常微分方程式解法シートにより,移動現象論,プロセス制御を含め広範囲の化工計算がExcel上で取り扱えることを示した。

最後は偏微分方程式である。これは差分化してセルを節点とみなす手法で,基礎的な偏微分方程式の問題解法が可能であった。長年の課題であった固定層吸着の破過曲線の計算もExcelシート上の解法を考案した。これで教科書レベルの化工計算はほぼExcelで制覇することができた。

このようなExcelによる化工計算は2004年から化工誌の連載記事となり,その後「Excelで気軽に化学工学」として出版された。これが好評であったので,その後も書籍化がなされ,現在図のようにExcel演習を特徴とする担当の講義内容を全て教科書とすることができた。

ここに至り「化工計算は計算の修行」から脱するという目標が達成できたと思う。さて,モデル式を解くことが手軽になると,そこで見えてくるのは化学工学の各種モデル自身である。化学工学の特徴は現実の装置で起こっている複雑な移動現象をモデル化することにある。それも現象の本質をとらえた簡潔なモデルを発見することに特徴があり,独自性であることが浮かび上がってくる。今はこのモデル発見の過程を化学工学を学ぶ意義として強調しているところである。

このような観点から,化工誌で2014年11月号から2016年1号まで,「Excelで解く化学工学10大モデル」と題する連載をおこなった。


化工誌連載「Excelで解く化学工学10大モデル」 (()はコラム「化学工学トリビア」)
        【移動現象論】
    2015年4号        装置内混合の槽列モデルと移流拡散モデル(移流拡散問題の解)
    2016年1号       円管内流れのTaylor分散
    2015年11号      境界層理論とシャーウッド数   (Sc1/3のナゾ)
        【分離操作】
    2014年11号     蒸留塔のMcCabe-Thiele法 (理論的な段数?)
    2014年12号     ガス吸収の2重境膜説         (HETPとは?)
    2015年1号        濾過のRuth式                     (Overall heat transfer coefficient?)
    2015年2号        晶析のポピュレーションバランスモデル (ΔL法則のナゾ)
    2015年3号        吸着のLDFモデル             (LDFモデル以外のモデル)
    2015年5号        固定層吸着のKlinkenberg近似解     (物質移動係数がわからない)
    2015年6号        クロマトグラフィーの理論段モデル (Wave Pulse Theory)
    2015年12号      膜濾過の細孔モデルと濃度分極モデル (濃度分極層/境膜/境界層)
        【反応工学】
    2015年7号        反応吸収の八田数                (Hatta Numberのナゾ)
            Hatta, S. : "On the absorption velocity of gases by liquids. II & III", Technological Reports of the Tohoku Imperial University (東北帝國大學工学報告), 10(4), 613, 630 (1932).
    2015年8号        管型反応器モデル−Danckwertsの境界条件−    (化学工学の原典シリーズ)
    2015年9号        触媒有効係数                (チイレとはおれのことかとシール言い)

(本になりました


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